第390話 全部捨てられる?

 カレンは現れた北陸爆走連合の総長である金治郎を、人気の少ない駐車場に誘導した。

 今は昼時のピークは過ぎた為、駐車率は多くない。五人と三台が入るには十分なスペースがあった。


「そんで、チヒロ。お前は何でついて来てるんだ?」

「いえ。店長に何かあったらどうしようかと」

「楽しんでるだろ?」

「リアタイで見たいです」


 女店員のチヒロは大学生で彼氏もいるのだが、こう言うイベントを見たさにシフトを多めに入れてたりする。

 カレンとしてはシフトの件は結構助かってるので、それくらいは良いか、な気持ちで許容する事にしていた。いざとなれば助けを呼びに行かせる択も頭に入れる。


「まずは、整合性を取るぞ」


 カレンはバイクのスタンドを下ろして適度に駐車する金治郎とその配下二名に向き直る。



「付き合うってのは恋愛的なヤツと捉えて良いんだな?」

「そ、そうだ!」

「ふーん。お前、歳は?」

「22だ」


 意外と若いな。いや……リーゼントと服装で見間違えそうになるが、顔立ちは良く見ると青年に見える。


「なら、こんな34のオバサンよりも可愛くて良い娘は沢山いるだろ?」

「なっ!? あんた……30代だったのか!? てっきり20代かと……」

「意外か?」

「店長、童顔ですからね~」


 喜ぶ所ですよ? とチヒロと金治郎の称賛にカレンは適当に嘆息を吐いた。


「期待外れな34のオバサンだよ。若い子は若い子と恋愛をしなよ。それじゃ」

「い、いや! 待ってくれ!」


 カレンは流れで終わらせようとしたが、金治郎は何とか呼び止めた。


「俺はあんたが良いんだ! いや、カレンさんじゃないとダメだ!」

「音無な」

「え?」

「恋人でも身内でもないのに、人を名前で呼ぶのは止めなさい」

「す、すまん」


 怒られてシュンとなる金治郎。自分の考えに酔っている若造かと思いきや、素直な子じゃないか。だからこそ、尚更である。


「悪いけどね。私はあんたと付き合うつもりはないよ」


 カレンは腕を組んでズバッと脈はない事を告げる。

 出た、店長の一刀両断。この一閃に多くの者がハートキルされて来たのだ。


「いや! 待ってくれ! 俺の気持ちも聞いてから判断してくれないか!?」


 おっと、金治郎クンは耐えたぞ。しかもあまり動揺してない。メンタルは今まで切り捨てられた者の中ではそれなりに強いご様子。


「チヒロ。野宮は真面目だ。ニヤニヤするな」

「すみません」


 しまった顔に出ていたか。気を付けよう。






「最強の獣がいる。そう聞き、俺は一人である場所に一日かけて向かった。

 その獣の名は“ユニコ君”。なんでも、商店街のマスコットにして守護獣だと言う。

 俺は商店街に乗り込むと早速見つけた。

 風船を配って愛想を振り撒いている二頭身の着ぐるみ。俺は戦いに来た旨を伝えると、何故かユニコ君と一緒に商店街を手伝う事になり、それなりに歓迎された。

 リーゼントに詰襟は結構ウケていたのが嬉しかった。俺の魂を肯定してくれたその商店街はすぐに好きになったんだ。

 そして、商店街が閉まる時間帯。道行く皆の帰りを見送るユニコ君に俺は改めて言う。

 俺と戦ってくれ、と。

 その言葉は、力試しをしたくて来た時とは違う。一日、ユニコ君や商店街の皆と触れ合って、もっと友情を深めたいと言う意思だった。

 しかし、ユニコ君は首を横にふる。戦う必要など無い、と言っているかのように。

 俺は不本意だが、近くの店の看板を蹴ってユニコ君を挑発した。ユニコ君は商店街に害を成すモノを許さないと知っての行動だ。

 不本意だが……始めようぜ!

 と、振り向いた俺の顔面にユニコ君の右ストレートが炸裂。着ぐるみだが、結構固くて中々の威力があった。いや、一瞬意識がとんだ。

 それでも俺は北陸爆走連合の総長。笑う膝で何とか踏ん張り倒れずに耐える。しかし、ユニコ君は俺の太ももへローキックを見舞い、膝立ちになった俺の顔面に左フックを食らわせたのだ。

 尋常でない攻撃力に俺の意識は途絶え途絶えになり、妙な浮遊感を感じた。

 なんと、ユニコ君が俺を持ち上げたのだ。そして、そのまま、商店街の外にあるゴミ置き場に投げ捨てて、ぺっ! と唾を吐くような動作を挟むと、トコトコと歩いて去っていった。

 そして、音無さんに出会――っておい!」


 カレンは金治郎の話が長いので、チヒロのオススメの音楽を聴かせてもらっていた。


「ん? 終わった?」

「ちゃんと聞いててくれよ!」

「いや、話し長過ぎ。要点を言いなさい。要点を」

「ビビっと来たんだ!」


 金治郎はストレートに自分の気持ちを叫ぶ。


「あんたに救急車に乗せられた時にはっきりとわかった! 俺には絶対に必要な女だと!」


 救急車に乗せたのは救急隊員だけどな、とカレンは思ったが話の趣旨がズレるのでスルーする。


「一目惚れってヤツみたいですよ、店長」

「言わんでもわかる」


 カレンは後頭部をぽりぽり掻きながら改めて金治郎を見る。


「君、21って言ったね?」

「おう!」

「仕事は?」

「総長は漁師だ!」

「親父さんとお袋さんは、北陸の漁師連合のトップなんだぜぇ!」

「俺は無職じゃねぇし、親父の後を継ぐ! 金銭での不自由はさせねぇよ!」

「あらら」


 チヒロは、意外にも将来性が金治郎に、これまでのヤツらとは一味違うとカレンを見る。


「今日は休暇を使って来たんだ! サボりじゃないぜ!」

「総長の親父さんはめっちゃ怖いんだぁ!」

「でも筋を通せば誰でも家族なんだぜぇ!」


 すると、カレンはやれやれ、と本日何度目かわからない嘆息を吐く。


「全部捨てられる?」

「え?」


 カレンの言葉に金治郎は素の答えを返した。

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