22章 社員旅行編7 彼は向き合うと決めた
第258話 今起こった事を話すぜ!
入浴も食事も済ませた女部屋では各々が、リラックスしていた。
一足先にアイマスクを着けて就寝する樹。
スマホで日記を書く鬼灯。
轟は手帳の予定表を再確認。
岩戸は箕輪に勧められてカバディの動画を見ている。
姫野と茨木と泉は録画していた肝試しのビデオを確認していた。
リンカは母に明日に帰る旨をLINEで送る。土産話を期待するわね~、という返答に微笑む。
「よし、お前ら。最後にこれやるぞ」
すると、七海はトランプを女性陣の目の前に置く。
「七海課長ー、普通は恋バナじゃ無いんですかー?」
「今さら誰が好きとか探ってもしょうがねぇだろ。陣取りゲームと肝試しで心身削られたが、寝るには少し早いからな」
茨木と会話をしながら、パララー、とマジシャン顔負けのカットを見せる七海にリンカは、おおー、と拍手する。
「あら、ケイ。トランプ?」
「おう。そういや詩織。お前にはババ抜きで連敗してたな」
「ケイはわかりやすいものねー」
「前の俺じゃねぇぞ。丁度良い、リベンジさせろ」
「いいわよ。でも、少しはリスクが欲しいわね」
「なんか賭けるか?」
「うーん。じゃあこうしましょう」
と、鬼灯は滝沢カントリーで買ってきた、あるものを七海の前に置く。
「負けた方は“コレ”つけてアルバムの一枚を飾るって事で」
「へっ、後悔させてやるよ」
「……」
「ケイ。早く引きなさーい」
七海と鬼灯のタイマンババ抜きは、あっという間に最終局面へ。
そして、ジョーカーは鬼灯の元にあり最後の一枚を七海が引く形である。
「……くっ! ニコニコしやがって!」
「ふふ」
鬼灯は、こっちかな? こっちかな? と七海をおちょくる。
「こっちだ!」
シュバッ! と七海は右を抜く。それはジョーカーだった。
「ぐぉっ!」
「ケイってば解りやすいー」
「遊んでるだろ! お前!」
「だって遊びでしょ?」
くっ! と七海は二枚を地面に伏せて目を閉じる。
「これで俺もどっちかわかんねぇぞ! さぁ、引いてみろ!」
「ケイ」
「引いて――」
「ケイってば」
「なんだっ!」
七海が目を開けると、パサッ、とペアが捨てられた。残された裏向きのカードをめくると、ジョーカーが笑っている。
「こ、この! 運さえも味方につけやがって!」
「二分の一よ。確率は50%。当たるわ」
「ぐぬぬ……」
「はい。着けて」
と、鬼灯はヨシ君から岩戸に預けられたアルバム用のカメラを構える。
「……」
「可愛いー」
胡座をかいて、頬を着いて不貞腐れる七海を鬼灯はカチャカチャと激写する。
「天月君に送っていい?」
「止めろ。奴を殺さなきゃいけなくなる」
「それは困るわね」
七海はカードを整えて再度カットする。
「もっかい! もっかいだ!」
「良いわよ。でも二人は少し寂しいわね。ケイは弱いし」
「くっ! 何も言い返せねぇ!」
「それじゃ、参加しても良いですか?」
七海と鬼灯のババ抜きが楽しそうに見えた他の面子も参加を希望する。
「良いわよ。全員でケイをやっつけましょう」
「逆だ! 逆!」
「おー、そうか。姫さんと付き合う事になったのか」
「まぁな」
オレは旅館の小さなゲームコーナーで売ってる自販機アイスを食べながら加賀と会話をしていた。
「例の女性恐怖症は治ったのか?」
「完全じゃないけどな……。でも、好きだと言ってくれるヒトを泣かせるのは違うだろ」
「おいおい。姫さん泣かせたのか?」
それが広まったら、社内の男たちに命を狙われるぞ。
「俺に意気地がなかっただけだ。もうそんな事はしないよ」
「まぁ、良かったじゃん。おめでとー」
「お前の方はどうなんだ?」
食べ終わったアイスの棒をゴミ箱に捨てると加賀の言葉が背中に向けられる。
「どうって何が?」
「隣の娘さんの事だよ」
「……少しは前に進む予定だよ。オレも」
実家に行き、全てを話した時に彼女がどんな反応をするのか解らない。しかし、向けられる好意をうやむやにしながら隣に居続けるのは、互いに良くないだろう。
“ここから出ていけば過去はいつか追いついて来る。お前はソレに耐えられるのか?”
ジジィの言葉は間違ってない。けど、納得は行かなかった。だから反発したのかもしれない。
「そうか。お前の事だ。あの子を傷つけるような真似はしないだろ?」
「当たり前だ。もしそうなったら自害してくれるっ!」
狂ってやがるなお前。人間どこかしら狂ってるんだよ。などと冗談を言って笑い合うと、オレはあることを思い出した。
「そうだ。こんな機会は無いし、社長に過去の旅の事を聞いて見ようぜ!」
「そういや、凄まじい事やってたんだっけか?」
失念していた。今は社長の世界を回った旅路の話を聞くチャンスではないか。気になる話題をちらほら聞いてるし、頼んだら普通に話してくれそう。
「手土産におしるこでも買っていくか」
「アレ、そんなに旨いのか?」
オレと加賀は献上品を買いに旅館の外へ向かう。入口付近にある自販機に――佐藤が背を預けて意識を失っていた。
「さ、佐藤ぅー!?」
「なんだぁ!? 事件か!?」
慌てて駆け寄り、命を確認。すると、うぅ……と佐藤は目を覚めした。
「お、鳳に……加賀か……?」
「ふぅ……生きてたか」
「何があった?」
加賀が聞くと佐藤は何かを思い出し、驚愕にワナワナと震える。
「あ、ありのまま、今起こった事を話すぜ! 俺は黒船さんにポーカーで負けておしるこを買いに来たんだ。すると自販機でおしるこを買う姉御が居たんだ。その頭には猫耳が乗ってて次の瞬間には意識を失っていた。何を言ってるのかわからねぇと思うが、俺も何をされたのかわからねぇんだ。頭がどうにかなりそうだった。催眠術とか超スピードとか……そんなちゃちなモンじゃねぇ! もっと恐ろしいモノの片鱗を味わったぜ」
ポルナ○フ化している佐藤に加賀は肩を貸す。
オレらのイベントは全てを終わったハズだ。今……一体何が起こってるんだ?
あ、おしるこ売り切れてら。
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