第244話 癪だったからな……

「確認しました」

「ゲームは終わりですか?」

「ええ」


 旗を取った。

 その通信を聞き、ノートPCで状況を確認した轟はプレイヤー全員に陣取りゲームの終了の宣言をする。


「お疲れ様です、皆さん。旗を取ったチームは――」






 アンクルブレイク。

 バスケにはそう呼ばれる技がある。

 重心を見極め、こちらの動作だけで相手の動きをコントロールする高度な技術である。

 真鍋は当初、黒船の人を転ばせる技はこのアンクルブレイクの応用だと考えていた。

 しかし――


「カバディ――」


 旗を狙うと見せかけて踵を返した黒船の動き。真鍋は反応が遅れるも何をしてくるのか理解しているなら後手でも遅くはない。


 ここで決まるか……


 次の黒船の行動に対してカウンターを決めるべく真鍋は集中力を最大にして待ち構える。


「――――!!?」


 次の瞬間、真鍋は横にかわすように倒れていた。


「――真鍋。君ならそう動くと思ったよ」


 何をした!? 倒れた真鍋は瞬時に危機を悟り、横へ倒れるしか選択肢を取れなかったのだ。


「アデュー」


 そう言って黒船は真鍋が倒れ始めた瞬間から木の旗へ向かって走り出す。

 そして、軽快に木の上にある旗を手に取った。


「鬼灯君。Bチームの旗を取ったよ」

『お疲れ様です。ゲームは終了しました』

「ふっはっは! 私たちの勝利だな!」

『Bチームの勝利です』

「ふっはっは……は?」


 黒船は背後を振り向くと、駆けつけたリンカが、真鍋がAチームの旗を持っている所をコンマの差で連絡していた。






『旗を見つけた! 樹さんが持ってる!』


 リンカはケンゴからの通信を聞いて、逆に少し待ってから場に入る事を選んだ。


「……社長さんがいないなぁ」


 その理由はAチームでは最も厄介とされる黒船の存在を確認出来なかったからだ。

 彼が何かしらのアクションを起こし、場の詰みが覆る可能性を考えての行動だった。

 しかし、旗はニセモノだと判明。Bチームの突撃者たちは全員捕まった。


「――――そっか」


 同時にリンカは踵を返した。Aチームは全員がこちらの妨害を軸に置いていた。

 突撃前に確認した相手の旗は確かに前列の後ろにあった。反応を誤魔化す事は出来ないので、接敵した時に旗はすり替えられたのだろう。


「社長さんは多分……」


 一度引き返した。対してBチームは突破に集中する為に探知スマホは使わない。いや……使えないのだ。


「……」


 外れていても良い。最悪、真鍋さんに事を伝えて別の手段を考えられるかもしれない。

 しかし、リンカの考えは大当たりだった。


 真鍋が倒れ、黒船が木の旗へ向かう場面に遭遇。リンカは真鍋の手をあるAチームの旗を見て、


「姫野さん! Aチームの旗を真鍋さんが持ってます!」


 運営に報告した。






「ふっはっは! 負けたよ! 負けだ!」


 陣取りゲームが終わり、河川敷でBBQをしながらトルグをカチカチさせる社長は笑う。


「すまなかったね! Aチーム諸君! 負けてしまったよ! 若さにね!」

「一番ノーマークのヤツが動いたんじゃ仕方ねぇよ」


 七海課長は悔しそうだが、負けた事は納得はいくモノだと受け入れている様子。


「各々が役割を果たしたのだから! 悪くない敗北だ!」


 樹さんはAチームの作戦は完璧に機能したが、それに飛び込まなかったリンカの動きを称賛していた。


「鮫島は良くやってくれた……あのまま負けるのは癪だったからな……」


 真鍋課長は鬼灯先輩から焼いた肉や野菜の皿を受け取りつつリンカを見る。あっちではどんなバトルが繰り広げられたのだろうか。


「ただ、必死だっただけですよ! 本当に……運が良かっただけです」


 上位陣からの言葉にリンカは謙虚な返答をして恥ずかしがっていた。なんだか、娘が認められたみたいてオレも嬉しい。


「いや、その一歩を踏みとどまれるのが凄いんだよ。リンカちゃん」


 いつもオレの後を見失わない様について回っていたリンカが、自分の判断でチームの勝利の為に動いた事を嬉しく感じる。


「大人でも咄嗟には出来ない事もあるんだ。それを冷静に判断したリンカちゃんは間違いなくMVPだね」

「あ……ありがと」


 オレからの言葉には少し反応が薄いけど、嬉しそうな雰囲気は感じたので満更でもない様子。


「おーおー。鳳、そこは抱きしめてやれや」

「ふっはっは! 若い者の様は見ていてタメになるよ!」


 そう言いながら社長はポケットから、ごそっと一枚の紙を真鍋課長へ渡す。


「約束の金一封だ。額は好きにして良いが現実的な数字と謙虚な心を頼むよ」

「話し合って決めます」


 それは限度額無制限の小切手だった。額の欄が空欄で、こちらの事を試している様にも見える。

 本当に社長って最後の最後までこっちの事を読みきってるなぁ。


 額はリンカに委ねた。彼女は額を書く代わりに、この旅行で皆のお土産代を負担する事を進言し社長は、ふっはっは! と笑ってOKしていた。

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