第243話 黒船VS真鍋
互いに互いの塵ほどの隙。
七海と茨木は、軽い攻防を続けながらそれを探っていた。
茨木のヤツ……周囲の障害物に支障を来してねぇな。思った以上に身体の距離感覚は正確に鍛えてやがる。
七海課長……ここまでアタシと永く続けたのは親父以来かな。向こうも本気じゃないけど……やっぱ手加減って難しい。
『すみません。旗はダミーでした。オレと岩戸さん捕まりました。社長はオレらの旗を狙ってます』
「だとよ」
「鳳。今行くから走る準備ヨロ」
チマチマは性に合わない。次で決める――
「「カバディ!!」」
「え?」
その時、横の茂みから箕輪(夫)が飛び出す様に倒れて来た。
「! 茨木ぃ~避けろ~!」
「箕輪さん!?」
咄嗟に避ける様に飛び退くが、七海はその隙を逃さない。
「やっば――」
片足が地面に着いた刹那、茨木は眼前に居る七海へ突きを繰り出すが、次の瞬間。
「ほらよ」
視界は上を向いていた。そして、座らされたと認識した瞬間、背後に回った七海によって動けない様に固められた。
茨木は動こうともがくが、座った姿勢と両腕の肘から上を完全に抑え込まれてる為に力の入れようがない。
「箕輪さ――」
近くに現れたハズの箕輪へ助けを求めるが、彼は俯せに倒れてその上に箕輪(妻)に座られて身動きを封じられていた。
「俺は無理だぜぇ~」
「あらら」
「お前らの敗けだ」
現場の勝敗は七海の言葉通りであるが、問題は旗を取られたかどうかである。それに――
「七海課長。勝負はまだわからないですよ?」
「黒船の事をいってんのか? 言っとくがヤツは、自分で言った事を今まで一度も損なった事はない」
『私が旗を取ってくるよ』
それがAチームが最後に聞いた黒船からの通信だった。
黒船と真鍋は旗を巡って最終決戦に入る。
風を切るような音が成り、互いの頭部を狙った蹴りがかち合った。
「むむ」
「……」
クロスする様にぶつかる蹴打はその威力に互いに鈍痛を残して間を取らせる。
「どれ――」
黒船の勝利条件は真鍋を倒す事にはない。後ろの木に引っ掻けてある旗を手に入れれば良いのだ。
トン……
「――――」
しかし、次の呼吸に真鍋は黒船を間合いに捉える程の踏み込みを行った。
無拍子と意識の間を突く事を同時に行う。
コレをされると人はなす術もなく次の一撃を受けてしまうのだ。
「一撃必殺の間合――」
真鍋は更に左手で黒船の視界を狭める。
無拍子+無意識。黒船の身体には無防備に近い形で右腕の拳が突き刺さった。
「ぬ!?」
「勝負は長くはかからない」
意識が割り込み、黒船は後方へ引くが真鍋は距離を開ける事を許さない。
「勝つのは……より場数を踏んだ方です」
その攻防はあまりにも速く、そして迅速に決めに来ていた。
「参ったね。これは――」
黒船は下がりつつ反射的に突きを放つが、真鍋は首を傾けてかわす。
「しばらく動きを止めさせて貰いますよ」
真鍋の狙いは黒船の肺。適切な衝撃を当てる事で一時的な呼吸不全を意図的に引き起こすのだ。
「私も本気で行くかな!」
その時、真鍋の目の前に旗が現れた。
「――――」
唐突な勝敗条件を前に真鍋は次の選択肢が、“黒船正十郎の無力化”から“旗を確保”が増え、動きが僅かに鈍る。
そのコンマ数秒に満たない僅かな乱れを的確に突いた黒船は手を取ると一瞬で真鍋を転ばせた。
「勝ちのルートに乗ったよ」
「旗を奪われてですか?」
真鍋は自分の旗が奪われていない事を確認し、今手に持っている旗はAチームの物であると確信する。
「姫野。Aチームの旗を取った」
「んー?」
と、黒船は先ほどの苦し紛れの突きで奪った真鍋のインカムを見せると離れた所へ捨てる。
「一つに集中し過ぎると回りが見えなくなる。君の弱点だよ」
真鍋が立ち上がろうと動く。だが、一度座った人間の出来る行動は大きく制限され、先を読みやすいのだ。
「ほい」
無限転倒術が炸裂。真鍋は黒船の許可無しには立ち上がる事は出来なくなった。
「……硬直がお望みですか?」
「なに。Bチームは全員抑えてある。私は君の隙を一瞬だけ撃ち抜ければ良い」
真鍋の集中力は全く乱れない。
無限転倒状態に入った今の状況は黒船に優勢の様に見えるが、僅かでも隙を見せれば盤面は元に戻されるだろう。
「高いリスクをお持ちになりましたね。探知と旗の両方を持つとは……」
「責任を抱えるのは得意でね! 昔から多くのモノを背負って来ているの者の業だな」
「……そうですか」
真鍋は再度立ち上がろうとした瞬間、黒船は真鍋へと干渉せずにBチームの旗へ向かって走った。
優勢な状況を捨てると言う行為を容易く行った黒船の行動に真鍋は僅かに動きが遅れた。
虚を突くと言う行為に置いて、黒船正十郎は最高峰にある。
真鍋はインカムを拾うよりも黒船の妨害を選択。その背後を肉薄する。
まだ……こっちが速い――
Bチームの旗を取るには木に登るか、木を揺らして落とす必要がある。ワンアクションを挟む必要がある以上、確実に捉えられ――
「カバディ――」
その言葉と共に黒船は全てを読んでいたと言うように不敵に笑いながら真鍋へと踵を返していた。
「――――」
虚に差し込む。
世界組1番。『戦艦』黒船正十郎の“主砲”が炸裂する。
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