20章 社員旅行編5 フラッグ争奪戦

第236話 社員旅行2日目

 社員旅行2日目の朝。


「このおしるこ旨いな。どこのメーカーだろ?」


 七海課長は旅館の周りを走りに行き、別れたオレは午前中はどうするかを悩みながら旅館の廊下を歩く。


「おはよ」

「おはよ、鳳君」


 すると、正面から泉と姫さんが歩いて来た。


「おはようござます。風呂ですか?」


 二人は手には入浴セットを持ち、大浴場に向かっている様子。


「そーよ」

「朝に浴槽に浸かれるのって旅行ならではだからねー」

「あ、それいいですね。オレも午前中は風呂にしようかなぁ」


 昨晩はリンカを気にかけて露天風呂どころじゃなかったしなぁ。


「もう露天風呂は混浴じゃないわよ」

「ぶっ! ば、バカ! 知ってるわい!」

「……何? 想像したの? 変態」

「くっ……このチビ……」


 まぁまぁ、と姫さんが宥める横で、態度と胸はでかいチビ女と身長差で火花を散らしていると、


「早速バトルの予感だな!」

「楽しそうね」


 鬼灯先輩と樹さんが歩いて来た。失礼だが、端から見れば母と娘と言っても間違われそうな組み合わせだ。


「あ♡ 詩織先輩♡ 先輩もお風呂です?」


 泉の鬼灯先輩に対する猫なで声は最早デフォルト。本当にムカつくぜぇ……


「ええ。皆が動き出すのは午後からだって。後、昼食は社長の方で用意するそうだから、各自、間食は控える様にって」

「午後は何をするんですかね」

「ちょっとしたレクリエーションを考えてるって聞いたわ」

「ふむ。旅館には卓球やビリヤード、屋上にはバスケットコートに屋外にはテニスコートもあったからね」


 樹さんは旅館のスポーツ施設を把握していたようだ。

 動きやすい服の用意も旅行の事項に記載があったなぁ。この旅館周りはそれなりにアウトドアな設備が多い。


「登山も出来るみたいだし、日帰りで温泉だけ入る人も多いみたいだよ?」

「へー」


 この旅館は完全予約制であるらしいので、この辺りでは体の良いスポーツ施設の側面もあるのか。


「なんにせよ、普通の事を社長は考えてはいなさそうだけどね」


 ちょっとした泉の懸念はオレも同意だ。さてさて、午後のレクリエーションとやらは何が始まるのか。

 ワクワクが止まらないッ!






「陣地取りをするよ!」


 午後。オレらは昼前に河川敷に集合し現れた社長にそう言われた。


「陣地取り……ですか?」


 真鍋課長が怪訝そうな顔で聞き返した。他の面子も説明プリーズと言いたげに社長を見る。


「一度は夢を見たことはないかね? 小さい頃に自分達の行った遊びを! 大人になってスケールを広げたらどうなるのか! と言うことを!」


 ぐっ、と拳に力を入れて社長は力説する。


「別にそっちの考えはどうでも良いけどよ。どこでやるんだ。どこで」


 七海課長の言葉に社長は、甘奈君、と隣に立つ轟先輩に指示を出す。


「フィールドはこの山です。旅行のメンバーを均等な戦力で二つのチームに分けてこの旗を取り合って貰います」


 轟先輩はビーチフラッグのような旗を掲げた。


「ふっはっは! チームには一定の装備を渡すよ! 旗の位置を探知できるスマホを一台ずつと、各々にGPSをだ! 遭難は恐いからね!」

「私、泉ちゃん、姫ちゃん、詩織ちゃん、樹さん、箕輪さん、リンカちゃんは運営の設営。試合の状況をモニタリングします」

「運営の設置は非戦闘員の仕事だ! 身体を動かすのが得意ではない者は怪我の危険があるからね!」

「質問や疑問があればどうぞ」


 社長と轟先輩の説明を一通り聞いた面々の中で七海課長が手を上げる。律儀。


「楽しそうに説明してくれるのは良いんだけどよ。これ、全員参加で決まりなのか?」

「一応はね! しかし、強制はしないよ! 山の中を走り回るのだ! 虫や汚れるのが嫌なら運営に回っても良い!」

「その条件で、チームの戦力による片寄りが出たらどうするんだ?」

「そこは調整するよ! 補充要員も確保してあるからね!」

「補充要員?」


 そう言うと、バスの運転手である金田さんが、ニコニコ顔で社長側に現れた。


「金田さんは、レンジャーの資格を持っているそうだ! 渡米経験もあり、重装備でジャングルを動き回るベテランだそうだよ! 午前中に装備の動作確認がてら、彼と山の中で鬼ごっこをしてみたけどね! 5分で捕まったよ! ふっはっは!」

「マジか……」

「金田です。よろしくお願いします」


 まだ、その言葉しかオレらには発していない金田さんは相変わらずの半ズボンだ。


「それに勝利したチームには私から金一封を出すよ! ちなみに金田さんの参加するチームは、彼の取り分が6割になるからね!」

「傭兵かよ……」


 七海課長のつっこみにも金田さんはニコニコしている。金田さん……一体何者なのだろうか。社長を5分で捕まえるとか……只のバスの運転手ではないのか? 半ズボンが強者の証のように見えてきた。


「ふっ! 金一封と聞いて眼の色がかわったね諸君! 全員参加と言う事で良いかな!?」


 はーい。と全員が各々で返事をする。当然オレも参加。金一封抜きにしてもこう言うイベントは大好物である。

 本気の陣取り合戦。メンバーは只者出はない実力者だらけ。こりゃあ、相当な事になるぜぇ。


「こちらでは、通信の中継や旗の位置は常に把握しておきます。装備を配りますので皆さん、こちらへ」

「Aチームのリーダーは私だ! Bチームの方は話し合って決めてくれたまえ! 開始は13時からだ!」

「細かいルールは探知用のスマートフォンに転送しますのでチーム内で共有してください」

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