第130話 暁才蔵の心意気
「捨てろ」
オレとヨシ君は、七海課長の指示に暁才蔵(忍者)を駅裏の駐車場に放る。
ぬお?! とゴロゴロ転がる才蔵はまだ、テーザー銃の痺れが抜けきっておらず、おのれ……と二の腕がぷるぷるしていた。
「さて、どうしましょう? 七海課長」
「当然、首を落とすのですよね? 七海課長」
某海賊王の処刑シーンの様に才蔵の首の前で木刀をクロスさせる空さん海さん。
「殺る前に聞く事がある」
「殺る方向は無しにしましょうよ……」
「それはコイツ次第だ」
完全包囲。ヨシ君はテーザー銃を再セットして、護身用としてダイヤに手渡していた。
「ふむ。確かに興味はありますな。これ程の非凡な才を持ちながら、何故この様な反社会的な行動を取るのか」
「確カ二! ニンジャのストーリー、気になりマース!」
「なんと……貴殿らは
急にキラキラとし出す才蔵。だが、七海課長と
「某は世界中を旅し、多くのモノを見てきた。闘争、飢餓、病、貧困。あらゆる国に存在する汚点は某にはどうする事も出来なかった」
なんか急に壮大な話をし始めたぞ。不覚ながら、オレはこの手の話しは結構好きだったりする。
「だが多くの苦難の中、愛だけは変わらずにそこにあったのだ。この世が不幸に染まりきらぬ防波堤は愛なのだと某は理解した。だが!」
才蔵は自分の拳を地面に打ち付ける。
「日本には愛がない! ゆるゆるとした時の流れの中に大和撫子は消え、外来文化に汚染された日の本より……和服美女は消え去っていた」
ん? なんか話がおかしい方向に転がり始めたぞ……
「わからぬか! いや……解らぬものも無理はない。愛無き日の本に生まれ育った者達にこの現状に気づくのは至難の業……世界を見た某だけが……気づいたのだ!」
七海課長は腕を組みながらイラついている。確かに……なに言ってるか意味わからんもん。
「それと、下着を盗むのとどう関係があるんだ? あぁ?」
怖ぇ……。空さん海さんが木刀に力を入れる。しかし才蔵は、ふっ、と笑う。ビキッと怒りマークが額に立つ七海課長。
「この愚か者め! 和服に下着など言語道断!! 下女にはそれも解らぬか!」
コイツ……火に脂どころかガソリンを放り投げやがった。しかし、七海課長は少し天を仰いで何とか耐えている。ご立派です。
「ウチの甘奈の下着だけ無いんだが。理由は?」
「甘奈……? よもや、あの姫君の事か?」
「は?」
七海課長のリアクションは、全員の思うところだった。
「あの慎ましさ! 他者を気にかける心! 時折見せる恥じらい! そして笑顔! まさに姫であろう! 下女の眼は節穴か!?」
七海課長は再び天を仰いで、ふー、と目頭を抑えて息を吐く。
「ワォ! ワタシのヒップタッチは意味ワカラナイヨ!」
ダイヤが横から割り込む。才蔵はダイヤを見て、
「黙れぃ!
パスパス、ビビビ。ダイヤはテーザー銃を才蔵へ撃っていた。
あー、うん。持ってたらオレが撃ってたわ。
「うごぉ!?」
雷遁『糸電撃』が炸裂する。近代忍術は素晴らしいなぁ。ボタン一つで誰でも使えるから。
「それでダイヤ。判決は?」
「Guilty」
英語……ダイヤの奴、本気でキレてやがる。怒りの感情とは程遠い彼女をここまでキレさせるとは。暁才蔵……なんて奴だ。
「よーし、待ってましたよ!」
「満場一致で処刑ですね!」
「いや……オレは一応、命だけは残す方に一票で……」
主に被害を受けているのは女性陣なので、何とも言い出しづらいが言わねばならぬ。女性陣がジロリ、とオレを見てくる。あれ? オレは正しい事言ってる……よな?
「ふむ、才蔵殿の言動は確かに行き過ぎておりますが、鳳殿の言う通り、法に委ねるのが一番でしょう」
ヨシ君もこっち寄りになってくれたおかげで少しだけ女性陣の目が柔らかくなった。ありがとうヨシ君!
「……ふっ」
「あ? なに笑ってんだテメェ」
才蔵ォ! お前ッ! 言い感じに丸く収まりそうだったのに変な事すんなよ!?
「やはり戯言は聞き飽きるモノぞ。某を捕まえる? 法に委ねるだと? 笑止!」
馬鹿お前! 現在進行形で捕まってんだろうが! 雷遁で脳までやられたか!?
「う!?」
「ひゃ!?」
途端に、空さん海さんが身体をのけ反らして、クロス木刀を解いてしまった。
こいつ! またヒップタッチしやがったな! 躊躇無く罪を重ねやがる!
ヌルリとした動きで才蔵はオレらから距離を取った。あれ? ダイヤの雷遁はあまり効いてねぇな。
「どうやらテーザー銃は充電不足だったようですな」
「あ、そう言うこと」
ダイヤの放った電撃は最初の十分の一も出てなかった様だ。効いていた様に見せた演技か……
才蔵は腕を組み背筋を伸ばしてオレらを見る。
「愚か者どもめ! この暁才蔵を捕らえた気でいるとは……笑止千万! 法など某には意味を成さぬわ!」
うわ……コイツ何も反省してねぇ。
女性陣はもはや親の仇を見るかの如く殺意を宿す。彼女たちの周りだけ異空間に繋がりそうな程に景色が歪んでいた。
「上等だよ、テメェ。誰に喧嘩売ったのか思い知らせてやる」
空さんは七海課長へ自分の木刀を投げて渡すと、課長はそのまま才蔵へ投擲する。
ヴゥン! と残像を見せてかわす才蔵。木刀は陸橋を支えるコンクリートの柱にビキッと突き刺さる。
「チッ」
「ちっ」
「ちっ」
「shit」
「ちょっ! 駄目ですよ! 七海課長! 流石にそれは死にますって」
「邪魔すんじゃねぇ!!」
投げた木刀がコンクリートに突き刺さるとか、どんな肩してるんだこの人。オレは不本意ながら七海課長の腰へしがみついて止める。命懸けだ。
「社会の歯車どもめ! 大人しく社畜をしておれは良いものの! 帰って数字でも数えておれ!」
相変わらず才蔵の口は止まらない。火にガソリンを注ぎ続けるんじゃねぇ!
「七海さん」
「おう」
海さんが木刀をパス。七海課長は上半身の力だけで才蔵を狙って投擲する。かわす才蔵。木刀は柱にビキッ!
駄目だ……オレじゃこの人止めらんねぇ。
「中々の戯れであったぞ下女よ! 気が向いたらまた遊んでやろう! サラバ!」
「待てやコラァ!!」
逃げる才蔵。追う七海課長。引きずられるオレ。
しかし、オレと言う重りがあるせいで、本格的に追うことは出来ず、金網の向こうに消える才蔵を見て流石に諦めた。
空さんと海さんが少し追うが追い付けず、仕方なしに戻ってくる
「七海さん。すみません」
「逃がしました」
「……鳳、放せ」
「はい……」
ようやく落ち着いた様なのでオレは七海課長から離れる。何か言われるだろうか……七海課長は心を整理する様に一度、ふー、と息を吐く。
「ヨシ、首尾は?」
「おそらく気づかれてはおりません」
「ならいい」
何の話しだ? 七海課長とヨシ君を除き、皆理解していない様子。
「あの……七海課長。何の話しです?」
「才蔵の覆面にGPSを仕込んだのですぞ」
ヨシ君が答える。
まさか、才蔵に気づかれない様に二人で二の矢を用意していたとは。
「じゃあ、あの怒りは演技だったんですね!」
「んな訳ねぇだろ」
あれはガチですか……
「ヨシ、奴らに連絡しろ。地獄を見せてやれってな」
「御意」
「GPSの位置情報を警察に渡せば良いのでは?」
「なに言ってんだ鳳。そんなモンで済ますわけねぇだろ」
「そうですよ! 鳳君!」
「あのクソ忍者には地獄を見てもらうのですよ!」
「ニックス、流石にワタシもアレはユルセナイネ」
あー、もう死ななきゃ良いか。しかし……何の手を打ってるのだろうか?
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