第113話 誰がナンバーワン?

 七海課長に言われたオレは4課には行かず、3課に戻る前に先に屋上と喫煙所を案内した。


「基本、飲食が出来るのは屋上か食堂だけだ。向こうとは違うから注意しててくれ」

「OKヨ」


 海外支部は発足当初と言う事もあり、その辺りの規則はかなり緩かった。

 ダイヤは屋上のフェンスから街並みを見て、オー、と景色を楽しんでいた。カラッと晴れた空に夏の暑さはまだ残る。光の下に照らされるダイヤは黙っていれば普通の美女だ。


「ダイヤ、サン達は元気か?」


 オレは彼女の家族に関して尋ねる。

 二ヶ月前までは、彼女の元で三年間世話になっていたのだ。当然、その家族とも接点はあった。


「ゲンキヨ。でも皆、ニックスが居なくなって寂しソウネ」

「サンやリンクはともかく、ミストに関しちゃソレは無いだろ」


 ダイヤは4姉妹である。田舎の牧場の出身であるダイヤは都心で仕事し、他三人も彼女の住むアパートに部屋を取って近い距離で暮らしていた。


「フフ。実はあの子が一番、ニックスが帰ったコト、気にしてるネ」

「オレに引き金を引いたヤツがか?」

「テレ隠しヨ。自分のせいで、ニックスが帰っちゃったッテ」


 一番年下のミストは思春期のど真ん中。年齢はリンカと同じで、ダイヤと一緒に生活していた。スクールでは射撃部。


「気にしてないって伝えといてくれ」

「実の所、ジャパンへはニックスに会いに来たネ」

「物好きだな、お前も」


 まぁ、ダイヤもオレから日本の話を聞いて、興味を持っていたので一度はこの地を踏みたいとは思ったのだろう。


「プレジデントニ、またステイがあるとキキマシタ」

「みたいだな」

「ニックスが来ますヨネ?」


 ダイヤは景色を見たまま振り向かずに聞いてくる。口調からどんな表情をしているのかはわからない。


「オレは行かないよ」

「……ナゼ?」

「目が離せない娘がいる。だから、オレは日本を離れる気はない」


 リンカと再会し共に過ごして、彼女はまだ不安定だとオレは感じていた。ダイヤ達と違って彼女が頼れる人間は少ない。


「お前達は大丈夫だよ。サンもリンクもミストもお前の事は大好きだし、お前もそうだろ?」


 そんな、彼女達の関係に突如として現れた異物がオレだったのだ。居なくなれば元の鞘に収まるだろう。


「ソウネ。あの子たちの事はスキヨ」


 三人とも都心に出てきたダイヤを追ってくる程のシスコンなのだ。そんな中に、異物であるオレが割り込んだ。銃口の一つも向けるのは仕方のない事。……いや、ならねぇか。

 すると、ダイヤはくるっと振り向いてフェンスに背を預ける。


「ニックスはワタシ達の中で誰がナンバーワン?」

「ん? そりゃ――」


 オレは反射的に言おうとして一瞬、言葉を止めた。

 ダイヤの表情や雰囲気から単なる世間話の軽いモノでは無さそうな気配を感じる。これは、帰ってきてリンカと共に過ごした際に何度か遭遇した場面と類似しているのだ。返答一つで色々な歯車が大きく切り替わる様な……そんな気配。しかし、オレとしては――(この間1秒)


「全員、平行だ!」

「? ヘイコウ?」

「皆同じくらいって事だよ」


 オレは指を折ってフォスター家四姉妹の事を思い出す。


「色々あったけど、誰が一番だ? って言われると優劣はつけられないな」


 四人ともそれぞれに魅力がある。

 オレに対する感情は四人とも違っていても、オレからすれば彼女達は皆、良い娘なのだ。まぁ、オレと歳の近いダイヤに関しては、娘、と言うのは少し変な感じだが。


「……ハァ。ニックスなら、ソウ言うと思ったヨ」


 ぬ……お前のその表情はリンカでも見たことがあるぞ。一体どんな意味が共通しているのだろうか。


「ニックス、今のアンサーは60点ネ」

「手厳しい事で」


 いつものように笑うダイヤにオレも笑い返すと昼休みの時間となった。






 時は少しだけ遡り、ケンゴとダイヤが屋上向かっていた時、一台の車が会社の前で止まった。


「……良い度胸じゃのう」


 車の扉は外側から開かれ、中から出たスーツを着た男は眼鏡に強面の厳つい顔つきをしている。

 サングラスをかければ間違いなくその筋の人間に見える彼は、自らの付き人と共に会社の一階ロビーへ。


「お待ちしておりました。火防ひぶせ先生」

「カンナか」


 他の人間が向けられば間違いなく萎縮する眼光を轟はものともせず受け流す。


「社長の黒船がお待ちです。ご案内いたします」

「……カンナ。何か言うことは――」

「何もありませんよ。火防先生・・

「む……」


 ニッコリ笑いながらも、怒りを読み取れる様子に火防はそれ以上は言葉を放てない。

 付き人の土山は、火防さん……まだカンナちゃんと喧嘩してるのか、と父娘の一件だけはフォローに回れない事を考えていた。


 その後、エレベーターに行き、ゴォォォ……ポーン。四階までなんとも言えない雰囲気の三人。火防は何か言いたげな様子だったが、社長室に着いてしまった。

 カンナは扉を開けて、入室を促す。


「こちらです」

「……カンナ。今度、飯でも――」

「ん」


 いいから入れ、と言う笑顔の圧に火防は拒絶されたショックを受けつつも社長室に入る。しかし、中にいる人物を見た途端、雰囲気は元に戻った。


「お呼び立てして申し訳ない、火防先生。しかし、私も多忙な者なのですよ!」


 来客用のソファーに座る黒船を見て火防も正面に座った。


「青二才じゃのう……ワシらをなめるなよ」

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