第3話 悪漢と仮面ラ○ダー
「うし。完了、と」
休日出勤。静かなオフィスで、必要な作業を定時までに終えると勤務表を書いて退社する。
こういう時に限って何かしらのトラブルがあるものだが、スムーズに事が運べて約束には問題なく迎えそうだ。
“今から帰る”
と荷物を持った時にLINEをして、エレベーターを降りて会社から出ると返信があった。
“場所は前と変わらないからな”
今日の夏祭りは三年前に毎年のように行っている。それを見越しての返信だろう。
“何時集合?”
“帰ったらすぐ来い。会場の入り口にいる”
マジか。
電停まで走り、一つ早い時間の電車に駆け込む。
“なるべく急ぐ”
それだけを打つと『既読』の文字だけ出て返信は無かった。
祭りや人の集まる行事は結構好きな部類である。
年甲斐もなくワクワクしてる自分も居るし、それを自覚してまだ子供心が抜けていないんだと苦笑した。
「三年ぶりか」
“おにーちゃん。結婚しよー”
と懐いていた頃に良く言われた。多分深い意味はなく、単に一緒に遊ぶ時間が増える程度の考えだったんだろう。
リンカの家族は片親であることもあり、良くゲームのあるオレの部屋に入り浸っていた。
「それがもう高校生か」
妹でも居ればこんな感じだろうと、感深いモノを感じる。
オレが海外に転勤になったのはリンカが中学一年の中旬だった。リンカも中学生だし、周りに気にかける友達も多かったので転勤を承諾したのだ。
色々準備が出来て、転勤一週間前にその事を話した時いつも明るかった表情を、そうなんだ……と曇らせていた。
オレとしては驚かせちゃったか。と気にかけていたが、何かとすれ違って出国まで顔を会わせる事はなかった。
転勤後も手紙なんかも送ったが返信は無し。リンカの母親から元気である事だけは解ったので心配はしていなかった。
「……思春期プラス高校生は扱いがヘビーだぜ」
再会一番のあの反応は正直、想定外だった。
あんなに懐いていた面影が全く無く、この三年間で何があった? と聞きたいレベルだ。
JRは最寄りの駅に到着する。
「マジか。二分の一を外したか」
家で即効で着替えて家を飛び出し、鍵をかけたか確認に戻ると言うタイムロスを得て祭り会場へ走り込んだ。
しかし、会場の入り口は二つある。
アパートから近い方だと思ったのだが違ったらしい。
「おーおー、すげ」
外を回るよりも中を突っ切った方が速いと判断し人混みに感嘆しながらも反対側の入り口へ向かう。
出店は様々だった。
会場でもある中央公園は結構な広さがあり、規模もそれなりに大きい。
定番の店の数々にお面屋なんかもある。
思わず目的を忘れそうになるが、リンカの怒った顔が脳裏を横切り、それによって誘惑を振り払っているともう一つの入り口が見えてきた。
「ん?」
リンカの姿を確認。そして、彼女へ言い寄る数人の男達も。
「すみません。それください」
オレは百円を払ってお面屋で買い物をする。
「離せよ!」
「おーおー良いねぇ」
ケンゴを待つリンカはナンパ目的の男達に言い寄られていた。
人の出入りの多い会場の入り口なら面倒なことにはならないと思っていたが、場をわきまえない者はどこにでもいる。
「あんまりよ。大声出すと周りに迷惑だぜ、お嬢ちゃん」
「あっちに人気の少ない所があるからよ、そっちで騒ごうや。ひひ」
男達は三人。リンカの手を掴むタトゥーの男と、ピアスをした男と、ロン毛の男だ。
「ふざけんな! 離せ――」
リンカは必死に振り払おうとしても男と女では勝ち目はない。
周りに助けを求めようと視線を送るが、誰もが関り合いになりたくない様子で素通りするばかりだった。
「――」
こんなに人が居るのに誰も助けてくれない。
リンカは男達に囲まれて強引に薄暗い所に引っ張られて行く。
「そこまでだ!」
その声に男達の動きが止まった。
周りの我関せずと言った野次馬たちも止まった。
道行く入場者たちも足を止めた。
「は? 何だ!? テメェ!」
ピアスの男がこちらに叫んだ者へ睨み付ける。
リンカが視線を向けるとそこには――
「通りすがりの仮面ラ○ダーだ!」
すぐ近くのお面屋で売っている仮面ライ○ーの面を着けたケンゴが男達を指差していた。
「多分! 1号だ!」
そんな事を叫ぶ。
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