サンゴの待ち人

雨傘ロック

声と眠り

私は海の下にいるただのサンゴ

私がいるここはサンゴ礁が集う憩いの場所だったの

昔はもっときれいな色だったのよ

今は私以外みんなが白くなっちゃって

みんな元気がないの…

冷たい海の下、せっかくの楽しみがなくなってしまった

でも、時折上の方からとても楽しそうな声がするの

その声をずっと聞いている

それだけが、今の唯一の楽しみ


ある日彼が話しかけてきたの

どうして一人でいるんだい、って

私は答えたわ


「私はみんなのところから離れたくないのー!」


そう答えると彼はすぐに答えてくれた

自分に足や手があったら、君を連れていけるのにって

なに?プロポーズでもしてるのかしら


「生憎だけど私はここから離れないわー!」


そう返すと彼は笑いながら答えた

それはざんねん、おしゃべりが好きなんだね

って、話しかけてきたのは貴方なのに、

…確かに話し相手は欲しかったけど


「あなたも話し相手が欲しかったのではなくてー?」


彼はせいかーい、と答えた

なんだか面白い人ね

しばらく彼とは話したけど

そろそろ上にいかなくちゃっていうの

なんのことかしら…?


「またあえるー?」


彼は曖昧にまたあえるんじゃないかなというの

なによそれ、つまんないじゃない



彼の声が聞こえなくなったあとはとても退屈だったわ

逆にひどい音で溢れた

上を見ると大きなクジラみたいな生き物が尾びれを回して泳いでるの

その音がなんともうるさいのなんの!

私の友達が起きちゃうわ!

…起きてくれてもいいんだけど

しかも!私は身につけたくもないアクセサリーをたくさんつけられたわ!

とても長い糸にとても鋭利な棘!

透明な器にその蓋!

私のお友達にもたくさんのアクセサリーが付いてるの!

新手の流行りなのかしら…?


もう!彼が来るのはいつなの!

そう嘆いていたら一人のくらげさんが目の前に現れたの

私、びっくりしちゃって大きな声を上げてしまったわ

くらげさんもびっくりしたのか少し縮んでしまったわ

お互いびっくりしちゃって変な話よね

そのクラゲさんはすぐにどこかにいってしまったけど

…寝ぼけているのかそのくらげさん頭に小さな生物を乗っけていた気がするわ

何だったのかしら…?



…それからまたしばらくして小さな穴が空いたバケツが上からゆらゆら落ちてきたわ

私、とても眠くて眠くてよくわからなかったけど

とても、大事なものな気がしたの

懐かしいような感覚がするの…

寝ぼけながらバケツのぼろぼろな取手をひっかけてこちらまで寄せて、耳をすませたの

なにか、聞こえた気がして…


私…この声を…知ってるわ…

会いに来てくれたのね…約束通り

ありがとう、でも…今日は眠たいから明日お話しましょう…?

私はその小さなベコベコになったバケツを抱きしめながらそのまま彼の声を聞きながら眠ったわ


おやすみなさい

おかえりなさい

また明日

あなたがいなくなったあの日の分まで

たくさん、お話ましょうね

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サンゴの待ち人 雨傘ロック @kz_Leolpeew

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