承泣の星
近藤礼二
第1話
「キュ、キュ」
シューズの裏を掌で擦り付ける。
汗ばんだユニフォームの襟を掴んで空気を入れる。
肩と首を回して呼吸を整える。
「ピィーーーーーーー」
そうして鳴った審判の笛の音とともに試合が再開する_____
___________
8月15日、いつものようにコートを張ってポジションに着く。
「さっ、こーーい」
「いくぞー」
5歩下がりサーブエリアからサーブを放つ。
「ナイサー」
放った球は軌道を描き相手のコートの左端に落ちる。
「やっぱサーブがキレてんねえーー、もう一球!」
「疲れたから一回休憩しよう、もう一球を何回続けるつもりだよ」
「ういー」
私立清明学院高等学校、在校数4000人。部活動が強い高校で運動部、文化部が毎年かなりの数全国に出場する有名校の一つだ。
僕が所属する男子バレーボール部には150人近い部員が所属している。
「健司ー、飲み物買いに行くけどおまえなんか飲むかー?」
そういったのは先ほどまで僕のサーブを受けていた翔陽だ。
「今日は水筒持ってきてるから大丈夫」
あ、そ。と颯爽と体育館から駆け出していく。
「それにしても今日はとことん暑いな」
そう一人で呟いていると誰かが入ってくる。
「おはよう健ちゃん」
「うん、おはよう」
この女の子は古賀みのりだ。小学生の時からの幼馴染で、中学は一度離れたものの高校で再び再会した。茶髪のボブがトレードマークのうちの名物マネージャーでもある。
「今日は翔陽くんと一緒じゃないんだ」
「いや、自主練終わりに飲み物を買いに行ってるだけだよ。すぐ戻ってくると思う」
「そっか」
そういってみのりは今日の練習の準備を始める。まだ練習開始まで30分ほどあるが部員150人に対してマネージャーは3年生が1人、2年生が3人、1年生が1人と少ないため、当番制で練習開始のかなり前から準備をする決まりになっている。
今日は3年生達が遠征から帰ってくるので僕たち2年生組、主に次期キャプテンの僕と次期副キャプテンの翔陽、マネージャーのみのりは連絡もなしに集まった。
「お、みのり来てんじゃん、さすがマネージャーキャプテン!」
「おはよう翔陽くん、今日も元気だね」
「あたぼーよ!元気と根性だけが取り柄やからな!」
「おまえはエセ関西弁をやめろよ、栃木出身だろ」
「うるさいのお、別に栃木県民が話そうとよかとうばいやんけ」
方言と方言が混ざり始めたら手に負えないので無視してみのりの仕事を手伝うことにした。
「今日は3年生の先輩方が帰ってくるからね、しっかりと準備しなきゃ」
そういって手際よくドリンクを作り洗濯したタオルを用意する。
当然有名校、強豪校だけあって上下関係は厳しいものだ。しっかりと用意することには賛成だ、だが
「みのり、そのマスコットキャラクターみたいなぬいぐるみはなんだ」
タオルと一緒に用意されている掌サイズのぬいぐるみに目をやる。
「あ、これ?先輩たちも最後の試合でしょ?必勝祈願のくまちゃんだよ」
「くまちゃん」
茶色くくりくりした黒い眼をしている熊のぬいぐるみはそれぞれ異なった色のスカーフを首に巻いている。きっと先輩それぞれに向けた手作りのぬいぐるみなんだろう。昔からこいつはこういうのが得意だ。
「健司ーーーかまってくれよーー」
そういってボールを投げつけてくる翔陽、いつもなら声を掛けられるのも面倒だから適当に相手をするが今日はそうすることは出来ない。
「先輩が帰ってくるんだからさっさと用意しなきゃいけないだろ、おまえも暇なら手伝え」
「ほいほーい、ってそのぬいぐるみは?」
「そのやりとりもうやったから」
俺は聞いてないって!と叫ぶ翔陽を横目に見る僕と、熱心に説明するみのり。
今日先輩達が帰ってくる。
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