短編:パシフィック

Take_Mikuru

パシフィック

〇海辺・外・昼


海の前に一台の車が止まる。車の中からキム(22)とアキ(18)が出てくる。出てくるなり、キムは海の方に少し走る。

 

キム「おおお!!!!海だぁぁぁぁ!!!!!!」


アキは笑ってキムの方に近づく。


アキ「そうだよ、海だよ!」


キム「青いぞおい!よぉアキ!海は青いぞぉ!!!」


アキ「そうなのよ、青いのよ、海は、そういうもんなのよ」


キム「すげーな!なんでなんだろうな!あ、もしかして、鏡のように空を映してるみたいな!?」


アキ「知らないわよそんなこと。聞く人間違えてんのよ」


キム「いやぁ~、来れて良かったぁ~、ほんっとに来れてよかった~」


キムはアキの方を見る。


キム「ありがとな、アキ、俺を海に連れてきてくれて」


アキは思いっきり溜息をつく。


アキ「・・・もううんざりだわ」


キム「、、、え、何が?」


アキ「今日で1565回目なのよ!!!!!!お前を海に連れてくるのが!!!!!」


キム「、、、、、千、ごひゃく、ろくじゅう~、、、、、」


アキ「めっちゃくちゃ沢山来てるってことよ!!!」


キム「、、、、、、ぼくはきょう、うみにはじめてきたんだ」


アキ「来てない!!!!来てねぇんだよぉぉぉ!!!!!!!このクソ

シンショウ野郎がぁ!!!!!」


キム「そう、はじめてうみにきたぼくの、しんしょうがはじまるんだ」


アキは心底うんざりした様子で大きな叫び声を上げる。


アキ「、、、この3年間、お父さんに頼まれて毎日のようにお前を海に連れてきた。日によっては5回も来たことあるんだから。なぜかお前は自分が海に行った記憶だけ綺麗さっぱり忘れるようだからな、でももうウンッザリ。やってらんないわよ!!!」


キム「・・・やってらんない?、、、、まだなにもしてないよ?」


アキはまた心底うんざりした様子で叫び声を上げる。


アキ「海に来ると記憶はなくなるわ、知能も低くなるわ、あんたにとって海って一体なんなのよぉ!!!」


キムはうんと考え込み、しばし沈黙が流れる。


キム「、、、うみがなんなのか、、、む、むずかしいい、、、、」


アキは心底うんざりした様子で空に向かって叫びまくり、急に笑いだす。キムが不思議そうに見守る中、アキは車に戻り、エンジンをかけて少しバックして止まる。キムは呆然とアキを見ている。


〇車・中・昼

 

アキは我を失った様子で激しく笑いながら再びエンジンをかけ、一気にアクセルを踏み込む。


〇海辺・外・昼


車が勢いよくキムにぶつかる。キムは痛そうに叫びながら車の窓にしがみついている。


〇車・中・昼


アキはこの上なく苛立った様子で舌打ちをし、叫び声を上げる。


アキ「もうさっさと死ねよコラァ!!!!!!」

 

アキはさらにアクセルを踏み込む。


〇海辺・外・昼


キムが苦しみと恐怖で泣き叫んでいる中、車が一気に海の真ん前まで近づき、急ブレーキする。するとその勢いでキムが大きな叫び声と共に海の方に吹っ飛ばされ、大きな水しぶきと共に海の中に消える。


〇車・中・昼


アキは歓喜の様子で狂ったように笑っている。


〇海・外・昼


海の中からキムが姿を現し、顔の水を拭いてからアキの方を見て、笑顔で手を振りながら車に近づいていく。


〇車・中・昼


アキはキムを見て急激に焦り始める。


アキ「あれ、何で、嘘でしょ、車でぶっ殺したのに、え!!!!なんでよぉ!!!!」


アキはこの上なく焦った様子で車をバックする。


〇海辺・外・昼


車は急激にバックし、一旦泊まる。キムは車の方に歩いている。


〇車・中・昼


アキ「もうさっさと死んでくれ」


〇海辺・外・昼


キムがちょうど海から出てきたタイミングで車が勢いよくキムに向かって走り出す。キムは赤ちゃんがお母さんを見るような様子で笑顔でアキに手を振っている。


〇車・中・昼


アキ「笑ってんじゃねーよぉ!!!!!」


〇海辺・外・昼


車が勢いよくキムにぶつかり、キムが前よりも遠くに吹っ飛ばされ、大きな水しぶきと共に海の中に消える。車は海の真ん前で止まっている。


〇車・中・昼


アキは激しく呼吸しながら海を凝視している。


〇海辺・外・昼


海面に、車の方に魚か何かが泳いできているような流れが出来る。すると突然、キムが海から飛び出し、車の目の前に着地する。


〇車・中・昼


アキは恐怖でこの上なく絶叫する。


〇海辺・外・昼


キムは可愛い笑顔でアキに手を振りながら、車を掴み、一気に上に持ち上げる。キムの真上に車がきている。キムは笑顔でアキを見る。アキは恐怖で泣き叫んでいる。キムはそのまま少し腰を回転させ、車を海の遥か遠くに投げ飛ばす。アキの泣き叫ぶ声がどんどん遠くなっていき、うんと遠くの方に小さな水しぶきが出来るのと同時に聞こえなくなる。キムは無垢な笑顔で車に向かって手を振り、踵を返して歩きだす。少し歩くと、急にタコの足が海の中から飛び出し、キムの首に巻きつく。キムは驚いた様子でタコの足を掴むが、その次の瞬間、タコがキムの頭に飛び掛かり、瞬時にキムの頭を丸のみしてしまう。キムはこの上なく苦しそうに唸っているが、タコはそれを意にも介さず、手足をキムの体に巻き付け、とてつもない力で、まるでキムの酸素を全て吸い取るからのようにキムの頭に吸い付く。キムは海の方に後ずさっていく。少しすると、キムは膝から地面に倒れる。キムの死亡を確認すると、タコはキムの頭を食いちぎり、横に吐き出す。タコはそのまま自分の体をキムの体内に入れ、自分の体をキムのと同期させるようにしばし体内で動き回る。同期が終わると、タコの頭がついたキムの体がゆっくり地面に手をつき、起き上がる。タコキムは思いっきり両手を上げて伸びをしてから後ろにある海を振り返り、中指を立てると、踵を返し、肩を回しながら海とは反対方向に歩き出す。

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