第16話
凛は瞬間移動という特殊な能力をもっていた。楓は凛に抱きつきながら「すごいすごい!」と狂喜していた。そして、俺たちはいま、蘭が闘っていたという山のふもとにいた。
「こちらです。京様」
「九尾神社 入り口、か」
俺は目の前にそびえる山を見上げた。
「あぁ、しかしこれはまた、すごい傾斜の山だ。この上に蘭さんがいるのか……」
「この山中に九尾神社があるのです。が、敵の部隊が周りを囲んでいるでしょうから、こちらから通って行きましょう」
凛が指し示した方向には……洞窟があった。
「洞窟……これが、もしかして神社と繋がっているのか?」
「はい、本来は逃げるための隠し通路なのですが、とにかく、ここから行けば敵に気づかれずに
凛と楓はすぐに洞窟へ走りながら入っていってしまった。
うぅ、戦闘もできないのに、どうすればいいんだ……。
「ご主人様〜、早くいらっしゃってください〜〜」
遠くから楓が俺を呼んでいる。
くっ、もう覚悟を決めるしかないのか。
俺は全力で走りながら洞窟に突入した。
洞窟内はところどころにランプがついており、足元が見えたので全力で駆けていっても問題はないようだ。
「そういえば、何か作戦はあるのか?」
俺は少し期待しながら聞いてみることにした。
「……すみません。何も考えていません」
「やっぱりか、まぁいきなりのことだったしね。せめて敵の情報だけでも欲しいんだけど」
「敵は
「獅子神ですって!」
楓の目が見開き、口を大きくあけたまま驚く。
「有名なのか?」
「えぇ、戦闘に特化した獣の一族。我々とは住む領域が違いますから、直接、見たことはありませんが、純粋な闘争に関しては右にでるものはいないと聞いております」
「はい……長年、私の父が
「その話から察すると、凛の父を殺したのも獅子神の仕業なんだろうな」
「恐らく、間違いないでしょう」
凛ははっきりと言い切った。眉を寄せ、無念の表情を浮かべる。
「凛ちゃん、大丈夫! 私達のご主人様はすごいんだから!」
「え……、楓さん?」
俺は闘わないっていうか、闘えないよ?
「獅子神なんてご主人様がすぐにやっつけてくれるんだから!」
………なんだか楓の中で俺の強さの部分が間違って記憶されてないだろうか?
そうこうしている間に日の光が遠くに見え始めた。
「ん? 見えた。出口だ」
3人は出口を抜けると、社の裏手に出た。しかし、そこにも獅子神の部下が数匹歩きながら警戒しているのだった。
さて、どこから行けばいいものか……ってあれ?
凛の姿が一瞬のうちに消えた、と思うと敵の背後に現れ、長く鋭く変化させた爪で敵の首をはねた。
「あれが九尾族の秘技……”瞬間移動”」
楓は驚きとともに目を見開く。
凄まじい効果だ。なにせ移動しているわけではないのだ。文字通り、身体が消えて、何もない所へ転移する。敵はどこから現れるかわからないため、対応のしようもないという感じだ。
楓もすぐに飛び出し、獣を打ち倒していった。俺だけが出遅れてしまい、気がつくと、凛と楓は残りの数匹をあっという間に片付けてしまっていた。
(凛と楓がこんなに強いんなら、なんとかなるかもしれないな!)
これなら確かに蘭を助けることが出来るかもしれない。俺はそう思いつつ境内を目指して走った。
*
「グッフォフォフォ、九尾の一族といえど覚醒もしていなければこの程度か」
獅子神は目の前に倒れている蘭の頭を足で踏みつけ、勝利の余韻に浸っていた。
「貴様が逃した妹も時期に俺様の配下が見つけ出すことだろう。そうなれば、いよいよ
「……オマエなんか……できるわけないっ……凛が……、一族の仇をとるっ」
「フンッ、オマエ同様の覚醒も出来ない小娘など、我の敵ではないわ。どれ、そろそろオマエの命でもいただくとするか…」
「……凛っ……!」
獅子神が腕を振り上げる。爪は日の光に当たり、異様な輝きを見せた。蘭は絶望を前に、瞳を閉じた。
「させないっ!」
振り下ろされる爪を何者かが弾いた。強大な一撃は蘭に届かず、土を大きく
「貴様……、一体何者だ」
蘭の前に現れた女は尻尾を孔雀のように開き、その周りに白い魔力を漂わせ、獅子神の前に立ちはだかった。
「り……凛……、凛なの?」
「おまたせ、蘭。助けにきたよ」
「なんだと? バカなっ! その姿は…覚醒したのかっ!?」
「えぇ、アナタの野望もここまでよ。一族の恨み、思い知れ!」
凛は一瞬にして消え去り、獅子神の背後に現れると爪を振り下ろした。
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