第43話 没入と即バレ

「……お!」


 俺は岩山を道なりに上りながら、ついそれらしきものを見つけてそう漏らす。

 明らかに周囲の岩肌とは違い、色や質感が浮いている部分。

 俺はその部分に対して躊躇うことなくハルバートを振り、刃の部分で斬りつける。


 すると岩にハルバートがぶつかった瞬間、まるで金属同士がぶつかったかのような甲高い音が鳴る。

 そして直後に斬りつけられた岩が突然動き出し、俺の方を向いて睨みつけて来る。

 睨みつけてきたそいつは丸い岩に短い手足が生えた、まるで岩の亀みたいな魔物。


「中々に硬いな……」


 半信半疑で多少手を抜いたとはいえ、表面を多少削る程度しか攻撃が入らないとは……

 コイツが硬いだけなのか、はたまた俺がハルバートの扱に慣れてないせいなのか正直判断に困ってしまう。


 そんな事を思っていると先程の甲高い音に引き寄せられたのか、同じような魔物が周囲から続々と現れ始めた。

 おっとこれは予想外。


 もう少しコイツ単体を相手にしてハルバートの扱に慣れたかったのだが、そんな事を言ってられそうな数じゃないな。

 出てきた岩の亀みたいな魔物……一旦コイツを岩亀と呼称するとして、その岩亀が見た感じざっと数十体。


≪初見です! いきなりヤバそうな状況ですね。頑張ってください!!≫


 そんなコメントが流れるが、俺はそれに全く気付かない。


「あの時よりは少ないし大丈夫だろう」


 なので声を変えることなく地声でそう漏らしてしまう。


≪? ……初見、ですか?≫


 俺は防衛ミッションの時の事を思い出しながら、右手に持つハルバートを握る手に力が入る。

 あの見た目から考えて、攻撃手段は恐らく転がるか魔法を使ってくるかのどちらかになるだろう。


 手足を使って攻撃するにはあまりにも短く体の岩が邪魔になるだろうからな。

 と俺がそんな事を考えていると、案の定岩亀は全てを岩の中に仕舞い半数が俺に向かって物凄い速度で横一直線になって転がってきた。


 俺はそれを軽く飛び躱す。

 ただそれを見て転がらずに残っていた岩亀が俺に向かって案の定拳大の岩を飛ばしてくる。


……


 俺がそう二回呟きながら念じると右手に持つハルバートの重さが増し、ガクッと地面に落ちる速度が加速した。

 直後頭上ギリギリの所を岩が通り過ぎる。


 やはり実戦で使ってみないとわからないことがあるな。

 俺の予想では一回で十分だろうという予想だったのだが、それでは足りず二回発動することになった。


 とはいえそれでもギリギリだったがな。

 俺はそう思いながらハルバートの重さが元に戻るように念じながら後ろを振り返る。


 そうすれば俺に躱されて更に転がっていた岩亀達が、器用に魔法を使って地面の形をまるでUの字のように変え、勢いを殺すことなく俺の方へと飛んできた。

 俺はそれに対して飛んできている岩亀の方に一歩踏み出し、かなり姿勢を低くする。


 流石に宙を飛んでいる状態では岩亀も方向転換するなんて事ができるはずもなく、俺の頭上を過ぎていく。

 ただ岩亀も何もせずに飛んでいくなんてことは無く、俺の頭上に来た瞬間直上を通った岩亀の体からまるで棘のように尖った岩が一瞬で生えたかと思うと、それを俺に向かって物凄い速度で射出してきた。


!!」


 俺はその攻撃に対して咄嗟にそう叫びながら左手に持つライトシールドを前面に出す。

 そうすれば真下に居た俺に向かって飛んできていた岩の棘が、全て左手に持つライトシールドに引き寄せられる。


「クッ……」


 ただ本来体に当たりすらしなかったはずの棘すら全てライトシールドに引き寄せられてしまい、凄まじい衝撃が左手にかかり思わず声が漏れる。


≪……SNSの書き込みを見て来たけど、マジでマジシャンじゃん≫

≪ですよね!! 明らかにですよね!≫

≪何で狐の仮面なんてつけてるんだ? あれだけの衝撃だったんだから無い方がバズるだろ絶対≫

≪辞めてあげなさい。男にはそう言った時期が必ずあるでしょう? 多感な時期なんですから優しく見守ってあげましょう≫

≪もしかしたら自分の姿がそこまで覚えられてるとは思ってなかったんじゃないですか?≫

≪ありそう~。戦い方やスキルとアイテムを使わなければ大丈夫みたいな? 無理無理! そんな次元の印象遥かに超えてたから、あの戦いは! 嫌でも忘れないって!≫


 と急にコメントが加速し始め視聴者数も増えるが、それにすら気付かず岩亀が飛んでいった方とは逆側に軽くジャンプして態勢を立て直しながら、負荷のかかった盾を持つ左手を軽く振る。


 [引き寄せのライトシールド]ももう少し使い方を考えないとな。

 でないと今みたいに受ける必要のない攻撃まで受ける事になってしまう。

 とはいえ今の感じで大体新たな二つの武器の能力自体はつかめた。


 後は武器……ハルバートを使いこなせるかどうかが問題だな。

 それさえクリアできれば特に問題はなさそうだ。

 とりあえずは思いついた戦い方でやってみるか。


 俺はそう思いながら先程と同じように地面をUの字に変えながら、こちらに更に加速して向かってくる岩亀を見据える。

 今度は先程とは違いジャンプして避けるのではなく、ハルバートを上に掲げ迎え撃つ姿勢だ。


「加重、加重、加重」


 俺はそう呟きながら念じ、支えられる限界までハルバートの重さを増やす。

 そして岩亀とのタイミングを見計らい、掲げたハルバートを振り下ろす。


「加重! 加重!」


 そこから更に重さを増やし、振り下ろす速度を上げる。

 振り下ろされたハルバートは見事岩亀に命中し、岩亀をまるで豆腐でも切るかの如く何の抵抗感も無く真っ二つに切り裂いた。


 更に振り下ろされたハルバートは岩亀を切り裂くだけにとどまらずそのまま地面に直撃する。

 直後凄まじい音と共に地面が揺れる。


 余りの重さと威力でぶつかった地面に小さなクレーターが出来る。

 ただ俺はそこで油断することなくハルバートの重さを元に戻し、力尽くで地面から引き抜く。


 そして左手を左に伸ばし、俺に向かって飛んでくる拳大の岩を見据える。


「引き寄せ」


 俺は左手を伸ばしながらそう呟く。

 そうすれば俺に向かって飛んできていた岩はまるで引き寄せられるかのように俺の左手に持つライトシールドに引き寄せられる。


 そしてライトシールドに引き寄せられる岩をギリギリまでひきつけ、直後に右に大きく飛ぶ。

 そうすれば飛んできていた岩は多少俺の方に向かって引き寄せられるものの、あまりにも急な角度過ぎてこちらには飛んでこず、全て空をきり後ろに抜けていく。


≪相変わらず意味の分からん動きと戦い方をする。ていうか何でこんなに激しい動きをしてあの仮面取れないんだよ……≫

≪これで手持ちの武器しか使ってないという恐ろしい事実≫

≪仮面が取れないのってもしかして接着剤で付けてるとかなのか? 仮にそこまでしてるんだったら顔だけじゃなく頭全体を隠して背格好も変え、更には声まで変えろよ。あれだけ印象的な戦い方をされたら、嫌でも背格好は覚えるだろ≫

≪きっと中二心が騒いだんだ……チャットに気付いてなさそうな今は良いが、気付いたら絶対にいじってやるなよ? 絶対だぞ!!≫

≪何というか……仮面がある事でよりマジシャンみが増したよな≫


 そんな凄まじい速度で増える視聴者と視界の端で流れるコメントに全く気付かず、俺は新たな武器を扱う戦いに没入していた。

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