第28話 初めてのミッション
「やっと着いたけど……デカすぎだろ」
俺はそう言いながら目の前の大木を見上げる。
大木とは言っているが正直想像を絶する大きさだ。
何せ葉の部分が目視できない程だからな。
あれから散策を続けた俺達はこの木を遠目に見つけここまで来た。
何せどれだけ散策しても果ては無く、本当はこの空間に囚われてしまっているのではないかと錯覚するほどだ。
「本当に大きいですね。木と呼んでいいのかすら怪しいです」
「まぁでも見た目木だし木と呼んでいいんじゃね?」
「これはそんな単純な話じゃないんですよ? 赤崎君」
「そうはいってもさ槻岡さん、これはどう見ても木でしょ」
「「「「「!?」」」」」
赤崎さんがそう言って大木を手で叩いた直後、全員の目の前に青白いウィンドウが突如として表示された。
急に出てきたこと自体に皆驚いていたが、内容を読んで更に驚愕する。
★
???の小木に向かってやってくる魔物の群れから???を守り切れ。
成功時
次の階への扉開放と功績による個人報酬
失敗時
ダンジョンからの強制脱出及び即ダンジョンブレイク
★
こんなのは初めてだ……
ただ内容がやば過ぎる。
この木が小木であるという事実もヤバいが、それ以上に成功時と失敗時の内容がヤバ過ぎる。
失敗したら強制的にダンジョンから出され、尚且即ダンジョンブレイクなんて絶対に失敗できないじゃないか。
前者だけならまだこの木を無視すればダンジョンからは出られたんだが、勿論そうはさせないためのダンジョンブレイク何だろうな。
そして成功報酬……
そりゃいくら探索しても意味ないわけだ。
何せ元々次に進むための扉が存在してなかったって事だからな。
それに功績に応じた個人報酬。
これは功績次第だろうが、かなり期待は出来るだろう。
何せダンジョン内の宝箱から[氷装のナックルガード]なんていうアイテムが出てきたんだ。
それ以上の物は最低でも貰えると考えれば、ある程度力を入れる価値はあるだろう。
ただそれは成功できる前提の話ではある。
果たしてこのくそデカい木をたった五人で守れるのか? という話だ。
何せ魔物が正面からだけ襲ってくるとは限らない。
ただこのデカさだ。
正直一か所に固まって全てをカバーするのは不可能だろう。
現実的に最低でも前後の二つにチームを分けるか、四方にそれぞれ人を配置するかのどちらかしかないだろう。
「おいおい。なんだよコレ。俺はこんなの初めてなんだが他は経験済みか?」
「俺は初めてです」
「私も初めてです。こんなミッションみたいなのが出されるのは」
「ぼ、僕もです」
「私もです。ただ言えるのは、絶対に失敗は出来ないという事です。ダンジョンブレイクというどれだけの被害が出るか予想できない結果だけは避けなければなりません」
槻岡さんの言葉に、皆静かに頷く。
槻岡さんの言う通りなのだ。
実際問題成功報酬は正直二の次。
ダンジョンブレイクが起こるのが一番ヤバい。
何せこの攻略は全世界に配信されている。
そうなれば嫌でも責任を問われる事だろう。
例えそれが俺達が故意に行っていないとしても、責任の矛先は必ず俺達に向く。
それが自身だけに向くのであれば俺は大丈夫だろうが、恐らくその矛先は家族にも向く事だろう。
そうなった場合俺は耐えられる自身も、暴れない自身もない……
故に絶対にそうならない様にしなければならないのだ!
正直気は進まないが、今はやれることはやっておくべきだろう。
俺はそう思いながら配信画面を開き、チャット画面を確認する。
そうすれば案の定かなりの速度でコメントが流れていたのだが、内容は想像とは多少違っていた。
≪頑張れ! 絶対に成功させろ!≫
≪何だよこのクソみたいな失敗時の内容! 修正しろよ神!!≫
≪失敗したらお前達を一生恨んでやる……≫
≪おい! 日本人!! 頑張れ応援してるぞ!! 絶対に負けるな!!≫
そんな応援九割、アンチ一割みたいな雰囲気のコメント欄だった。
「おい日本人」なんて絶対に海外で見ている人間だろ。
俺はそんなコメントに勇気づけられ、少し不安だった気持ちが解消される。
そして俺は心を決めて視線を上げる。
「皆さん、俺から提案があります」
「何だ? 宗太?」
「まずこの大木を一か所に固まって守るのは余りに現実的じゃないです。ですのでまずはパーティーを二つに分け、前後に分かれそれぞれで対処しましょう」
「その場合左右の守りはどうするんですか?」
「それは人数の多い方にある程度カバーしてもらいます。ただその分人数の少ない方は一人で守らなければならない範囲が広いです」
「まずはと言ったのは魔物の数によっては戦い方を変えるという認識で良いですか? 久遠君?」
「はい。現状どれだけの魔物が来るかわからないので、かなりの数が来た場合に備えての作戦になります。仮に数が少なければそれぞれを四方に配置して、正面の魔物だけに対処する形に変更しようと考えています」
「そうですね。即席のメンバーで行うならそれぐらいが精一杯になりそうですね。ただ混戦になった場合声は聞こえないと思いますから、何か合図のようなものを先に多少決めておいた方が良いでしょう。前後ではそれも確認できないでしょうから、左右に流していけるような何かにした方が良いですね」
俺は槻岡さんのその言葉に軽くうなずきながら、指輪の中からある物を取り出す。
「今あって使えそうなのはこれぐらいです」
「何だこの筒? 見覚えあるような気はするが……」
「発煙筒、ですか」
「はい。何か合図を送らなければならない程危険な状態、あるいは助けが欲しい場合に発煙筒を焚いて左右に投げる。それぐらいしか現状は難しいかと」
「十分とまではいかないまでも、現状では最善と言えるかもしれませんね」
「では全員に二本ずつ配りますね」
俺はそう言いながら指輪から発煙筒を出し、全員に二本ずつ手渡していく。
俺自身は指輪からいつでも出せるので俺の分は勿論出していない。
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