第27話 宝箱
「うん? あれは……宝箱?」
あれから俺達は更にだだっ広い草原を進んでいる。
勿論ここまでに狼の魔物とも何度か戦っているが、その際は俺がタンクとして攻撃を受け、水野や赤崎さん、風吹君の攻撃等を主軸にして倒している。
俺が積極的に前に出て倒してもよかったのだが、それでは仮にモンスターハウスのような場所に入ってしまった場合俺以外が対処できなくなると考え、経験の為にそうしている。
何せ今のところあの少年の言っていた程の危うさを感じないからだ。
そしてそんな中進行方向に見えたのは、木製のいかにも宝箱って感じの箱だった。
「……怪しすぎだろ」
「そうですね」
足を止めそう言った俺の言葉に、俺の後ろをついてきていた水野がそう答える。
草原のど真ん中にいかにも宝箱って感じの物がポツンと置かれているのだ。
誰がどう見ても怪しいだろう。
「どうしたんだ? 二人共?」
「な、何かあったんですか?」
「……宝箱、ですか」
更にワンテンポ遅れて後ろをついてきていた三人がそれぞれそう言ってきた。
「何だよアレ! ダンジョンの中であんなの見たことないぞ?」
「私もです」
「ぼ、僕も」
「同じく私も見たことも聞いたこともありません」
そうなのだ。
皆が言う通り俺も見たことがない。
ただ見た目がどう見ても宝箱ですって感じなのだ。
それがまた逆に怪しく感じる部分なのだがな。
「開けようぜ!」
「あ! ちょっと待ってください!」
俺はそう言って走り出そうとした赤崎さんの肩を掴む。
「どうしたんだ?」
「流石にちょっと怪し過ぎます」
「大丈夫だって! 配信を見てくれてる人によると、他のダンジョンでも同じようなのがあったらしいが、アイテムが入ってただけで本当に宝箱って感じらしいから」
赤崎さんはそう言って俺の手を振りほどき宝箱へと走っていく。
クソ!
コメントを鵜呑みにし過ぎだ!
確かにコメントの通りアイテムが入ってるだけの可能性は十分にある。
少年もそんな感じの事を言ってはいたからな。
けど絶対にそうだとは断言できない。
もし罠だった場合が面倒ではあるが、それでも得られるメリットが相当あるのもまた事実ではある。
だから怪しいとは思いつつも強くは止めれない自分がもどかしい。
俺はそんな事を思いながら宝箱に走った赤崎さんの後を追う。
そして宝箱に手をかける赤崎さん。
「せめて慎重に開けてくださいね?」
「わかってるよ」
赤崎さんにそんな声をかければ返ってきたのは、どこか嬉しそうなそんな声だった。
開かれた箱の中には俺の予想に反して、アイテムが入っていた。
入っていたアイテムは指部分が無い白銀の皮手袋のようなものだった。
俺はそれを見てホッと胸をなでおろすしながら、驚きと共に少し興奮する。
つまりはダンジョン内にこういった感じで宝箱があり、その中に同じようにアイテムが入っている可能性があるって事だろう?
これはかなりいいことだ。
俺の中でのダンジョンとはレベルを上げる場所に過ぎなかったが、そこに新にアイテムを手に入れられるという要素が追加されたという事。
もしかしたら獲得できるアイテムがかなり有用な可能性だって十分にあるはずだ。
何せあの少年は[猛火の剣]に類似するようなものが発見できると言っていたからな。
そう言った武具は俺の場合いくつあっても困らない。
仮に必要ないものであれば売る事だってできる。
そういったシステムが追加されたからな。
「おい! 凄いぞコレ! 宗太も見てみろよ!」
俺がそんな事を考えていると、赤崎さんが興奮気味にそう言って俺に宝箱の中に入っていた手袋の一つを渡してきた。
俺はそれを受け取り、「フレーバーテキスト」と呟く。
★
[氷装のナックルガード]
使用者が念じる事で拳に氷を纏わせることが出来る。
サイズは使用者に合わせて伸縮可能。
★
悪くない。
というか全然実用レベルだろう。
説明的にはほとんど[猛火の剣]と同じだしな。
てかこんなレベルのアイテムがポンポン出て来るって事なのか?
仮にそうならダンジョン内の宝箱の価値はかなり高いぞ。
何せ[猛火の剣]と同じという事は価値的にはあの鎧を着たゴブリンと魔法を使ったゴブリン二体を同時に倒すだけの価値があるって事だろ?
正直それを命懸けでやらされたこちらとしては多少不満はあるが、それでもそのアイテムを俺も手に入れられる可能性があると考えればまだ納得できる。
勿論渋々ではあるがな。
「ヤベェ! 見ろよ宗太! 本当に氷で守られてるぞ!」
赤崎さんは更にそう言って興奮気味に俺の方に氷で覆われた左手を見せてきた。
確かにすごい。
見た感じ透明で薄い氷という印象だが、軽く突いてみればある程度強度はありそうな感じだ。
「冷たくは無いんですか?」
「そういえば全く冷たくない! どうなってるんだよコレ!!」
透けて見える指先は特に赤くもなっていない。
しもやけや最悪凍傷等のリスクを考えたが、冷たくもないという事はその心配はなさそうだな。
そうなってくると更に凄いな。
ただここまで凄いと、このアイテムを誰が持つかという問題が出てくる。
手にれられるなら手に入れたいが、[猛火の剣]を見せている手前俺からそれを言うのは反発を生みそうではある。
この先の攻略の事を考えるならここで険悪な空気になるのは避けたい。
その空気のせいで連携が遅れ命を落とすなんて最悪な結果だけはごめんだからな。
アイテムに関しては[猛火の剣]と同じレベルなのであれば、最悪他のダンジョンを何個か回って手に入れれば問題は無いだろうからな。
仮に[帰属する隠蔽の宝物庫]レベルのものだった場合は、険悪な空気になることなど気にせず絶対に手に入れていただろうが、今回のはそこまで執着するほどのものではないだろう。
「横から割って入って申し訳ないのですが、そのアイテム良かったら私に使わせてくれませんか?」
俺がそんな事を考えていると、後ろから唐突に槻岡さんがそう言ってきた。
僧侶であると自称していた槻岡さんがナックルガードを……
どういった意図で言ってるかによってはかなり話がこじれそうな雰囲気を感じる。
「何ですか? 槻岡さんは確か僧侶て言ってたっすから、必要はないと思うんすけど」
「はい確かにそう言いました。ですが多少武術の心得があるので、自衛手段として使わせてほしいのです。現状私だけが武器を持っておらず自衛の手段が無いので。それにそのアイテムはこの場では私以外には邪魔になると思いまして」
「? どういう意味っすか?」
「そのアイテムの効果は今見た感じ拳を氷で覆う感じですよね? 他の武器と併用して使うには拳が固定化されるのは邪魔になると思いませんか?」
確かに。
俺は思わず槻岡さんの言葉に納得してしまう。
このアイテムを使えば手を握りしめた状態で固定化される。
それは戦いにおいて選択肢を減らすことになるのは間違いないだろう。
例えば瞬時に持ち方を変えたり、最悪武器を手放して別の武器に持ち変える等が出来ないという事。
氷に覆われているせいで多少可動域が狭まるのも問題ではある。
それに自衛手段が無いからと言われてしまえば、正直それを抑えつけてまで手に入れようとは思えないだろう。
「勿論これは相性が私以外悪いからという理由で使わせてほしいと言ってますが、もしこの後わかりやすく相性のいい槍や刀、弓や盾等の武具が出てきた場合は皆さんが使ってくださって良いと私は考えています」
「……まぁそういう事なら俺は良いすよ。確かに言われれば俺が使うには使い勝手がかなり悪いっすからね。ロマンはあったっすけど」
「私もそれで構いません」
「僕もです」
「俺は皆さんがそれでいいなら問題ありません」
俺はそう言いながら手に持っていたナックルガードを槻岡さんに手渡す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます