第6話 罠
「どうするか、これ?」
俺はそう言いながら目の前の大きな扉を見つめる。
あれから下に降りる階段を下りたのだ、その先にあったのがこの扉だ。
明らかに異質。
「ボス部屋……なのか?」
そう思ってしまうほどの、ここまでとは全く違う存在感。
とはいえ正直本当にボス部屋の可能性もあれば、そうでない可能性も十分にある。
何せSNS等に存在したダンジョンの情報は、ほとんどが入り口付近のものばかりだったからだ。
攻略を行っている人間は居るだろうが、攻略に成功した人間は確認できていない。
それが現状だ。
とはいえ時間は待ってくれない。
完全武装した状態で挑めばすぐさま攻略されるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
ダンジョンは未知過ぎて未だほとんどわからないのだ。
故にこれがボス部屋なのか果たして俗にいうボスと呼ばれるような存在が居るのかすらわからない。
だからといって入らないなんて選択肢は存在しないんだけどな。
俺はそう思いながら扉に触れる。
すると触れたと同時に扉がひとりでに開いた。
「……誘われてるみたいで怖いが、入るしかないよな」
俺は勝手に開いた扉に若干の恐怖を抱きながら、そう呟いて扉の先へと歩を進める。
だが俺が扉の先に入った瞬間、後ろの扉が勢い良く音を立てて閉まる。
「クッソ!!」
俺は勝手に閉まった扉を力尽くで開けようとするが、扉はびくともしない。
最悪だ!
閉じ込められた!!
俺がそう思った直後突如として空間全体が明るくなる。
それと同時にこの空間の全容と今置かれている状況を理解する。
空間自体は半円形で、かなりの広さがある。
ただ問題が今置かれている状況だ。
「モンスターハウス」
ゲーム等である罠の一種で、大量の敵が配置された限定的な空間であり、その敵を全て倒すか負けるまで出ることが出来ないというものだ。
とはいえゲームみたいに死ねばセーブポイントから再スタートできわけじゃない。
死ねば終わりなのだ。
つまりはアイツ等を全て倒さなければ出ることは出来ないってことだ!
俺は心の中でそう叫び目の前の敵を睨みつけるようにして両手のナイフを構える。
敵は全身が緑色で、背丈は比較的低い人型の魔物。
恐らくゴブリンと呼ばれるような生き物が十体。
それぞれが剣と盾、槍、弓を装備しており、まるで美味しそうな御馳走が現れたといわんばかりの表情で涎を垂らしながら俺の事を見ている。
「……舐めやがって」
俺はエサでしかなく全く脅威じゃないってか?
絶対に生き残ってやる!
俺はそう強く決意しながらステータスを開き、割り振っていなかったステータスポイントを全て敏捷へと振る。
まだ割り振らずに温存しとくつもりだったが、状況が状況だ。
致し方ない。
敏捷のみに振った理由は、他に割り振っても現状有効活用できないからだ。
HPとMPに関しては上げたところで回復するわけじゃないだろうから、無駄になる。
攻撃力に関しては一人に攻撃を当てれたところで他の攻撃をかわせなければ意味が無いし、防御力に関しては上げても耐えれる時間が延びるだけだろう。
魔力に関しては使い方すらわからないから論外だ。
ならこの中で上げて一番生存率が高く、尚且つ一番今の多対一という状況で有効そうなのが敏捷性だろうと思ったからだ。
「来いよ!!」
準備が出来た俺がそう叫ぶと同時に、まるでそれを合図にするかのように剣と盾を構えたゴブリンが一体俺に向かって突っ込んできた。
そして俺に近づくと右手に持つ剣を大きく上に振り上げ、力任せに俺に対して振り下ろしてきた。
俺はそれを両手のナイフをクロスして受け止める。
「くっ」
重い。
力もそうだが、剣自体の重量も加わって凄い衝撃だ。
そして攻撃をまともに受け止め辛そうな俺を見て、当のゴブリンは気味の悪い笑みを浮かべる。
そして直後に、盾を持つ左手で俺の腹に対してパンチをしようとしてきた。
クソが!
俺は心の中でそう悪態をつきながら軽く腰を落としてから、左に飛び距離を取る。
パンチしようとしたことで一時的に剣から意識が外れてたから追撃は無かったが、次は通用するかわからない。
剣を防がれたからパンチしようとしてくるあたり、多少なりとも知性はあるだろうからな。
「「「グェグェ」」」
「グゥエ!」
なんだ?
急に九体のゴブリンの集団が俺に向かおうとした瞬間、俺に斬りかかってきたゴブリンが叫んだかと思うと、突如として九体のゴブリンが大人しくなった。
まさかとは思うが、俺が先程の攻撃をよけたのに怒り一対一をしてくれるとでもいうのか?
そんなの俺にとっては最高に好都合だが、ありえるのか?
いや、過信はよくない。
寝首をかかれてからでは遅すぎる。
俺はそう思いながら九体の集団を横目で警戒しながらも、俺に対して斬りかかってきたゴブリンを見据える。
すると俺の視線に気づいたゴブリンは先程と変わらない気持ち悪い笑みを浮かべ、再度俺に対して距離をつめて来る。
ただ今度は先程の上段からの攻撃ではなく、地面を這わせながらの下段からの切り上げ。
俺はその攻撃をバックステップでよけながら、飛んできた砂が目に入らないように左腕で目を庇う。
しかしながらそれを待っていましたと言わんばかりにゴブリンは切り上げた剣を勢いそのままに横なぎに斬りつけてきた。
だがその攻撃は俺がバックステップで回避したことで、剣の長さが足りず腹の部分の服が横なぎに斬れる程度で事なきを得る。
「グゥ」
まるで今の攻撃が決まらなかったのが悔しいかのようにゴブリンはそんなうめき声をあげる。
だが俺はそんなゴブリンなど気にも留めず、深く深呼吸をする。
これが実践。
運良く今の攻撃は当たらなかったが、当たっていれば致命傷だった。
砂を回避する為に視界を遮ったのは悪手だった。
今のところは目を腕で庇うのではなく腕を振って砂を払うべきだった。
それに今の動きからもわかるように、明らかに考えて攻撃してきている。
決して油断するな。
全神経を研ぎ澄まして集中しろ。
こんなところで負けるわけにはいかないんだ!
俺は心の中でそう叫ぶと、バックステップでとった距離を勢いよくつめる。
ゴブリンはそんな俺に対して、体の正面を盾で守りながら剣を振り下ろしてきた。
俺はその攻撃をナイフで受け止めるのではなく、ギリギリの所で右に体を反らしよける。
そしてガラ空きのゴブリンの左横腹に対して、両手に持ったナイフを全力で突き刺す。
「グェェェ!!!」
ゴブリンからしたら予想外の攻撃だったのか、苦しそうな唸り声をあげ俺の方を見てきた。
俺はそれに対して突き刺していたナイフを引き抜き、即座に距離をとる。
「悪いが最初の攻撃を受けた段階で力勝負をするつもりは無かった」
「グゥ!」
俺の言葉にどこか恨めしそうにゴブリンはそう答える。
ただ正直、一回でここまでのダメージを与えられるとは思っていなかった。
ゴブリンが盾を構え左側の視界を狭めてくれたのもあるが、何よりも振り下ろされた剣をギリギリの所で避けられたのが大きいだろうな。
ゴブリンは攻撃が当たると確信して笑みを浮かべ油断している感じだった。
そこに当たる直前にで俺が攻撃を避け、更には盾で見えずらい位置に体を移動させたことによって、反応が遅れたんだろう。
俺としては軽くダメージを与えてヒット&アウェイを繰り返すつもりだったのだが、明らかに致命傷って感じだ。
にしても敏捷性にステータスポイントを振って正解だったかもしれない。
流石に15も敏捷性に振れば能力の上昇を感じられる。
何せゴブリンの攻撃を見てから避けれるんだからな。
「グゥ……ウゥ」
俺がそんなことを考えていると、ゴブリンはその場に血を吐きながら力なくその場に倒れこんだ。
だがまだ終わりじゃない。
「あと九体……次も一対一でやってくれるのか?」
「「「グゥァァァァ!!」」」
俺のそんな言葉に対して返ってきたのは、まるで威嚇するかのような声と俺に対して突っ込んでくるという、行動での答えだった。
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