第2話 止まっていた時間と違い
「宗太!! ご飯よ!!!」
「わかった!」
一階から聞こえてきた声に俺は即座にそう答え、部屋を出て階段を降りる。
あのダンジョンを攻略してから二日。
俺は今まで通りとまでは言わないまでも、それなりに平穏な日常を送っている。
そして驚いたことに、あのダンジョン内でそれなりの時間を過ごしたにもかかわらずダンジョンから出たら全く時間が進んでいなかった。
これは別に俺だけに起こった特別な現象という訳ではなく、あの日最強になる事を願いダンジョンへと導かれた者全てに全く同じことが起こっていたらしい。
と言うのも、あの日最強になる事を願いダンジョンへと導かれた人達はまるで自身の力を自慢するかのように、SNS等で自ら情報を発信してくれているのだ。
その情報によると俺のようにあのダンジョンを完全攻略していない人は、称号を一つ貰っただけでアイテム等は得られなかったそうだ。
更に得られた称号に関しても俺の【最強へと至る資格】ではなく、【強者になる為の近道】と言う称号らしい。
効果は、レベルアップ毎に好きなステータスに割り振れるポイントを5ポイント獲得するというもの。
因みに俺が獲得した【最強へと至る資格】の効果は【強者になる為の近道】と同じ効果に加えて、スキルの取得制限及び成長制限を無くし更にスキル獲得の可能性とスキル熟練度を大幅に上げる、というものだ。
つまりは俺の獲得した【最強へと至る資格】は完全に【強者になる為の近道】の上位互換であるということだ。
とはいえ俺はこの情報を公開していない。
今後どういった形で世界が進んでいくのかは予想できないが、どうなるにしても自身の手の内を態々全世界に拡散するメリットは今だけでなく未来でも絶対に無いだろう。
力を示すのと能力を公開するのとでは雲泥の差があるからな。
「ほら、朝ごはん出来るから早く食べちゃいなさい」
「ありがとう、すぐ食べる」
リビングに入るとすぐさま母さんにそういわれ、俺は素直に感謝の気持ちを伝える。
リビングでは先に席に着き食事を進めている妹と父さんの食べ終えた食器を片付けている母さんが居た。
「兄さんまた遅くまで色々調べてたんでしょ」
「うん? まぁ」
「お母さん反対してるんだからバレないようにしなよ?」
「もちろんわかってる」
妹の楓にそう答えながら、俺はチラッと台所で食器を洗っている母さんに視線をやる。
そしてして先程までと同じように食器を洗っている母さんを確認して心の中でホッと息をつく。
母さんは息子の俺がダンジョンに関わるのをかなり嫌がっている。
それはそうだろう。
何せ自称神の説明によって、ダンジョン内には魔物と呼ばれるこちらの命を奪いに来る敵がいることが判明しているのだからな。
そんな命の危険があるところに関わらせたくは無いだろう。
その気持ちは十分に理解できる。
ただ理解できるからと言って望む様に行動するかと言われればそれは別の話だ。
「だけど……」
俺はそうつぶやきながら、視線を台所からテレビの方に向ける。
「……ざい、政府は突如として現れたステータスやダンジョンに関してどういった扱いを行うかについて連日議論されており、未だ結論は出ていないもようです」
議論……ね。
恐らくダンジョンやステータスといった新たな概念の扱い及び決まりを話し合っているのだろうが、いまだ検証の進んでいない概念に関して深い決まりを作るのは得策ではないだろう。
何せ今後どのようにそれらが進んでいくかわからないのだから今決めたところで変更しなければならなくなるだけだ。
それならば大雑把な枠組みだけ決め、詳細は後々詰めていくということで恐らく話は決着するだろう。
例えばダンジョンには一般人は入れないや、ステータスの報告の義務化等だろう。
ただ前者はそのままでは反感が大きすぎる上に、自衛隊や警察等を動かすにしても人員が圧倒的に足りず志願者を募る等の緩和は目に見えている。
けれども年齢制限は必ず設けられるだろう。
未成年は不可等が妥当な線だろうな。
そして後者のステータスの報告義務化。
これは構想としては上がるだろうが、実現するにはかなりの労力を要するだろうからどうなるかは分からない。
だが前者はどういった形であろうと必ず行われるだろう。
民間に任せるという線もなくはないが、それでも年齢制限は必ず設けられる。
そして俺にとって一番重要なのはその年齢制限だ。
俺は今現在16歳。
果たしてその年齢制限が何歳になるかはわからないが、絶対に18歳以上であることは予想できる。
つまりはつまりはどう頑張っても今の俺ではダンジョンに入ることが出来ないということだ。
しかし俺の予想が正しければ俺がダンジョンに潜れる年齢まで待っている余裕は無い。
「……今しかチャンスはないんだ」
「兄さん?」
「あぁ、悪い。ちょっと考え事してた」
「そういえば宗太はいつまで学校休校なの?」
「確か3週間だから28日まで休みで、29日から学校だったはず」
台所から投げからけられた母の質問に、俺はご飯を食べながらそう答える。
そう、3週間だ。
この3週間が勝負だ!
俺は心の中でそう叫ぶと、そそくさと朝食を済ませる。
「ごちそうさま」
「早いわね」
「ちょっと急いでるのを思い出したからさ」
「そういえば雄太君家で勉強するって言ってたわね。お弁当は作ってそこにおいてあるから、気を付けて行ってくるのよ?」
「もちろん、弁当ありがとう」
俺はそう言って机の端に置かれていた弁当箱を手に取る。
「本当に勉強?」
「想像に任せる」
直後楓に小声で言われた言葉に、俺も同じく小声でそう返す。
準備はできた。
何も決まっていない今しかチャンスは無いんだ!!
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