現実世界にステータスが現れたので、何が何でも最強を目指します
黄昏時
第1話 最強へと至る資格
『おめでとうございます。貴方は世界で唯一このダンジョンを完全に攻略しました。報酬の精算を行います』
そんなどこか棒読みで無感情な声が空間全体に響き渡る。
「ついに攻略か……」
俺はそんな声に対してどこか残念そうにそうつぶやく。
このダンジョンにはかなりの時間居たからな。
多少思い入れも……いや、そんな事はないな。
このダンジョンにいい思い出は何一つない。
しいて言えば、色々とスキルが手に入ったぐらいか。
『清算を行った結果、完全攻略報酬として称号【最強へと至る資格】を付与。続いて世界で唯一このダンジョンを攻略したとして、神様から直々にアイテム[帰属する隠蔽の宝物庫]が与えられます』
そんな言葉と共に中空に突如として漆黒の指輪が現れたかと思うと、俺の目前までフワフワと飛んできた。
俺はそんな指輪に対して無意識に右手を出す。
すると先程まで宙に浮いていた指輪は、まるでそこが定位置であるかのようにすっぽりと右手の薬指へと収まった。
「なっ!」
そんなあり得ない現象に対して俺は咄嗟に驚きの声を上げてしまう。
クソ!
何で手を伸ばしたんだよ俺!!
もしこの指輪が呪いの装備とかだったらどうするんだよ!!
俺はそう心の中で叫びながら薬指にはまった指輪を触り、「フレーバーテキスト」とつぶやく。
すると目前に青白いウィンドウが現れ、薬指にはまっている漆黒の指輪に関する情報が表示された。
★
[帰属する隠蔽の宝物庫]
帰属者
神が直々に与えた宝物庫。
無限のアイテムを収納できる別空間と繋がっており、帰属者の意思で中の物を出し入れ可能。
ただし帰属者以外は宝物庫の中にアクセスする事は出来ない。
更にはこの指輪の帰属者はステータスを完全に隠蔽する事が可能。
そして神が直々に与えただけはあり、隠された効果が更にある……かもしれない。
★
なんだよこのアイテム……
呪いのアイテムかも何て疑った事が申し訳ないぐらい凄いアイテムじゃないのか、これ?
それに帰属って事は、恐らく奪われる事も無いって事だろ?
今の世界がどういったものになってるかはわからないが、それでもこのアイテムは相当強いんじゃないだろうか?
『ダンジョン報酬の清算が完全に終わりました。正面に見える白い円の中に入ればダンジョンから出る事が出来ます。貴方様の世界での飛躍を心より願います』
そんな言葉の直後、俺の正面の地面が白く光りはじめた。
本当に長かった。
いや、こんなに攻略が長くなったのは俺自身のせいなんだが、それでも長かったと言わざるを得ない。
突如として世界が変わってしまったあの日から、一体どれ程世界は変わってしまったのか。
変化が伝えられたあの日からこのダンジョンに入った俺には知る術が無かった。
あの日……そう、自称神を名乗る少年によって唐突に告げられたあの日から。
その日は高校二年生となる初めての始業式の日だった。
学校へと向かう途中、唐突に世界の時が止まり告げられた世界の変化。
それはこの世界にステータスと言う概念、更にはダンジョンと魔物を新たに創り出すという宣言だった。
その時に設けられた全世界共有の五回の質問権。
その時された質問は
・ステータスとはどういったものなのか?
・ダンジョンとはどういったものなのか?
・魔物とはどういった存在なのか?
・それら以外に新たに世界に追加された法則は存在するのか?
・最強になる為にはどうすればいいのか?
の五つだった。
全世界の中からランダムに選ばれた人間が質問していったのだが、逆によくこれだけまともな質問がされたと俺は思っている。
そして結果としてこれらの質問の答えはこうだった。
・ステータスとはその人間の現在の能力を確認できる形にしたもので、ステータスと
念じると確認する事が出来る。
・ダンジョンとは入り口と出口がこの世界に存在するだけの全く別空間に存在する、
異なる世界だと考えてくれて構わない。
・魔物とは基本的にダンジョン内に居る生き物で、この世界の生物全てを敵と認識し
ている。魔物を倒せばレベルが上がる経験値を獲得できる。ただ長期間ダンジョン
を放置し続けるとダンジョンから魔物がこの世界に溢れ出てくることがある。
・元々あった法則を多少いじりはしたが、新たに追加した法則となるとこれら以外に
はダンジョン内から排出されるアイテム等に使用可能なフレーバーテキストがあ
る。獲得したアイテムに対してフレーバーテキストと念じる事によってそのアイテ
ムの詳細を知る事が出来る法則だ。他に追加した事もなくは無いが、それ以外は
各々が調べる楽しさとして残しておこう。
・貴重な質問権をそんな事に使ったご褒美として僕が最強になれるかもしれないダン
ジョンを作ってあげる。希望する者は心の中でそう言ってくれたら、足元にそのダ
ンジョンへの入り口を作ってあげるよ。但し、真に最強に至る覚悟と意思がある人
間だけ希望した方が良いよ。じゃないと意味が無いからね。
かなり含みのある答えも中にはあったが、それでもこれからを生きていく為にはかなり助かる答えではあった。
そして俺は最後の最強へと至る事を希望した人間であるという事だ。
当たり前だ。
急に世界がファンタジーなモノに変わったのに、それに適応する努力をしないなんてありえない。
とは言え正直このダンジョンには拍子抜けだった。
最初はかなり警戒しながら攻略に乗り出したのだが、想像していたモノとはまるで違い、所謂チュートリアルのようなものだったのだ。
ダンジョンとはこういった場所で、こういった空間があり、こういった物が存在する。
そう言った説明が書かれた看板があるだけで魔物等は一切居らず、一直線の一本道がただただ続いているだけのものだった。
では何故そんなダンジョンに長期間居たのか? と言う疑問が出てくるかもしれないが、それは俺自身の深読みによる結果だ。
自称神を名乗る少年はこのダンジョンに関して、まるで念押しするかのように最強へと至る覚悟と意思が無ければ意味が無いと言った。
つまりこれはふるいなのだと、そう考えたのだ。
そこからこの魔物が存在しないダンジョンをくまなく調べた結果見つかったのは一本道の先にある出口と書かれた扉と、このダンジョンの入り口と出口の丁度中間地点にあったセーフゾーンと言うらしい休憩室のような部屋だけだ。
セーフゾーンとは必ずダンジョンに存在するモノで魔物が絶対に入ってこれない空間らしく、HPやMPを時間経過で回復してくれる場所らしい。
このダンジョンではそれが特にわかりやすいように特別に休憩室のような場所にしており、更にはHPとMPも即座に回復するようになっているとの説明が看板に書かれていた。
そして俺が目を付けたのはセーフゾーン。
特にHPとMPが即座に回復するようになっているという部分だ。
つまりはこのセーフゾーンの中なら例えどんな怪我を負っても一瞬で回復できるんじゃないか? そう考えた。
だがそれは単なる俺の深読みに過ぎない可能性は十分にあった。
なのでそれを確かめるために筆箱の中からハサミを出し軽い傷をつけた。
場所はダメだった場合でも支障が出ないように左手の甲に。
結果は予想通り……いや、それ以上の結果だった。
セーフゾーンの外で傷をつけてから中に入ったのだが、中に入ったと同時に手の甲の傷が跡形もなく消えてしまったのだ。
それを見た瞬間俺はこれだと確信してしまった。
ステータスと言う概念が出現したと同時に、スキルと言う概念もこの世界に現れていると俺はどこか確信していた。
自身のステータスにはスキルの記載は一切無かったが、それでも何故か確信していたのだ。
因みに、俺の初期のステータスはこんな感じだった。
★
名前 久遠 宗太
職業 未選択
レベル 0
HP 12/12
MP 10/10
攻撃力 8
防御力 13
敏捷性 15
魔力 12
★
そして俺のそんな予想はことごとく当たっており、多大なる苦痛の対価として複数のスキルを獲得し、出口と書かれた扉の隣に下へと続く階段が現れ今に至るという訳だ。
そんな俺の現在のステータスはこんな感じだ。
★
名前 久遠 宗太
職業 未選択
レベル 0
HP 12/12
MP 10/10
攻撃力 8
防御力 13
敏捷性 15
魔力 12
▼称号
【最強へと至る資格】
▼スキル
[斬撃耐性 LV3][刺突耐性 LV3][打撃耐性 LV3]
[痛覚耐性 LV3][精神耐性 LV3]
★
レベルこそ上がってはいないが、スキルはかなり豊富になった。
とは言っても耐性系スキルしかないんだけどな。
果たしてこれで本当に通用するのか……楽しみではあるな。
俺はそう思いながら、地面で光る白い円に向かって進む。
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