君へ向く想い

夢乃間

雨に佇む君(彰人視点)

第1話 片想い

僕には好きな人がいる。それは教室の廊下側の一番前に座る彼女、花宮 美幸だ。真っ直ぐ伸びた綺麗な黒髪。長いまつ毛が凛とした眼つきを更に魅力的に魅せ、白く細い首は危うさと美しさを思わせる。

一目見るだけで誰もが彼女に魅せられるだろう。そう思わせる程、彼女は魅力的な女性なのだ。

そんな彼女を今日も僕は視界の端に捉えながら学園生活を過ごしていく。退屈で永久に続くと思わせる授業も彼女を眺めていればあっという間に過ぎてしまう。

放課後になり、彼女が友達に挨拶を交わして教室から出ていくタイミングで僕もカバンを持って教室から出ていく。

下駄箱に着き、外の靴に履き替えると、沢山の水が弾ける音が外から聞こえてきた。見ると、雨が降っていた。それもドシャ降りだ。


「どうしよう・・・。」


彼女は突然降り出した雨を見て、不安そうな表情で呟いた。あの口ぶりからして傘を持ってきてないのだろうか?

天気予報では雨が降る可能性があったため、僕は折り畳みの傘を持ってきていた。これはチャンスでは?ここで傘を渡せば会話ができるかもしれない。もしかしたら一緒に帰る事も出来るかも。

僕は傘を片手に彼女へと近づこうと一歩前に進むが、突然背中を押され、傘を落としてしまった。


「美幸!どうしたんだい?」


「あ、木村君・・・。」


今さっき僕にぶつかって彼女の元へ駆け寄っていった男は木村 春樹。顔が良く、運動神経抜群・・・映画で出てくるイケメン主人公のような男だ。

しかし、彼について良くない噂は多々聞いた事がある。複数の女性と関係を持っている・ヤンキーと手を組んで金を巻き上げてる等々、そんな噂があるが、イケメンの彼を妬む人間がついた嘘だという事であまり信じられていない。

その噂が嘘だろうが真実だろうが、そういう噂が出ている時点であまり良い印象は持てない。


「傘持ってきてないの?俺持ってるから一緒に帰らないか?」


「え・・・嬉しいけど、迷惑じゃない?」


「全然!むしろ歓迎さ!」


彼女が迷惑そうな表情を浮かべているのに何故彼はグイグイといけるのだろうか?それがモテる男子の特徴なんだろうか。

しかし、僕から見れば強引に迫る変質者にしか見えない。さっきのぶつけられた事といい、彼が彼女に強引に迫っているのに苛立ち、僕は落とした傘を拾って彼女へと近づく。


「あの、美幸さん・・・これ。」


「え?」


僕の傘を差し出すと、彼女は不思議そうな表情を浮かべた。それもそうだ。話した事もない男から突然声を掛けられたのだから。


「美幸さんの傘です・・・教室に忘れていたから届けにきました。」


「え?でも、これ―――」


これ以上長引けば木村がチャチャを入れてくると思い、強引に彼女の手に傘を握らせて僕は外に飛び出していった。


「あ、彰人君―――」


彼女が僕の名を呼んでくれた気がしたが、雨の音でよく聞こえなかった。とにもかくにも、これで彼女は木村に絡まれずに帰れる・・・はず。

それにしても雨が強い。学校の正門を抜けた所で既に全身ズブ濡れだ。早く帰って体を温めないと風邪をひいてしまう。


結局、家に着いた頃にはすっかり凍えてしまった。意識が朦朧としているし、これは風邪確定かな?

家の鍵を開け、中へ入る。家の中は静寂に包まれており、閉じたドアの音が家中に響き渡る。


「・・・ただいま。」


玄関脇の壁に掛けてある母さんと父さんの写真にただいまをする。両親は去年亡くなった。結婚記念日の旅行中、通り魔によって殺された。犯人はすぐに見つかった・・・自宅で首を吊った状態で。

両親を失った悲しみと犯人に対する憎悪。その二つの感情が僕の心の中で膨大していき、音を立てて破裂した。それから、僕の中で何かが壊れてしまったらしい。何が壊れたのかは僕には分からない。

僕は濡れた服をまだ着たままリビングに行き、ソファに座る父親と母親にいつものように笑顔を見せて言った。


「ただいま!母さん、父さん!」

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