第14話
北岡の異動に吉井は関与していなかった?でもそれが原因で高田は殺されたのでは?誰かが嘘をついているとすると、何のために?復路の電車で、隣には先ほどまで耳を燃やされていた女性がいるのも忘れて宙を仰いでいた。
「…田さん、山田さん!」
ふと我に帰ると、見慣れた駅で見慣れぬ女性、いや見惚れる女性に呼ばれていた。
「少し話を整理しましょう。この後予定ありますか?」
もちろん予定なんてないが、少し渋る素振りを見せた後に了承した。この期に及んでの自分の器の小ささに、おれは再び宙を仰いだ。
SAシューズ。最新のems機能を用いて、足から電気信号を送り、あらゆる身体の筋肉を、無意識に運動させることができる。そう、無意識に。そこに人工知能の技術が加わることで、歩行時などに使われる筋肉や個人による特徴などを学習し、効率よく電気信号を発信、運動をアシストする。高齢者や身体障害者などに履いてもらうことで、それぞれの生活の質を高めることができる。
しかし、裏を返せば、人工知能次第で行動が制御されることもあり得る。
北岡の話によれば、開発当初からその黒い噂はあったそうだ。しかし、社長の肝入り案件であり、メリットも大きいということで、サンプリングも兼ねて陸上経験者を中心に専属チームが結成された。おれもその一員として、日々SAシューズを履いて生活していた。
北岡の話に嘘は感じられない。その点については香澄とも意見が一致した。吉井との件はどこから生まれたものなのか。高田は吉井本人からの相談だと言っていた。やはりキーとなるのは吉井。しかし肝心の彼女の行方は分からない。
どうしたものかとため息をもらし、会社を後にしようとしたその時、おれの目は1人の女性を追いかけていた。
うちの会社は複合ビルのうち2フロアを借りており、他のフロアにもさまざまな企業が入っている。一見するとその女性は、他企業の社員ともとれる。しかし、気がつくとおれは彼女のあとを尾けていた。
彼女はゲートを抜けてエレベーターに乗り込む。そのエレベーターは真っ直ぐに16階へと登っていった。そう、おれの勤務する会社の、社長室や来賓室、会議室などがあるフロアだ。今日は第4水曜、社内の決まりで、よほどのことがなければ全員が、残業なしで定時上がりする日である。おれはエレベーターがそこから動かないことを確認し、別のエレベーターで16階へと向かった。
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