愚か者たちの戦場 ~狂悪なる黒竜の女王と、皆殺しの聖女~

寸陳ハウス

序章

終わりなき最後の戦い

 北風が戦場を吹き抜ける。


 軍旗がはためく。色のない空の下、雪のちらつき始めた平原で、〈帝国〉の黒竜旗と〈教会〉の十字架旗が北と南に別れ対峙する。


 両軍の軍旗は拭いきれぬ戦塵に汚れていた。帝国軍と教会軍、厳めしい甲冑に身を包み整然と居並ぶ万の軍勢もまた、軍旗と同じように薄汚れていた。戦いはまだ始まっていなかったが、集まった将兵はみな等しく血と泥と火薬に塗れていた。


 そんな男たちの群れを前に、二人の女が立つ。


 堂々たる甲冑姿にまだ少女の面影を残す二人の女は、それぞれの陣営の先頭に馬を進めると、それぞれに声を上げた。


 戦場に、声が響く。


 二人はそれぞれに語った。神の正義を、国家の大義を、人の信義を……。誰がための、己のための意志を……。


 言葉が、熱を帯びる。


 北の〈帝国〉を統べる若き女王、クリスティーナ一世は語った。〈教会〉の導き手である〈教会七聖女〉の中で、最も勇敢なる者と称される第四聖女エルは語った──これが、この戦争を終わらせるための最後の戦いである、と。


 言葉が終わる。声なき北風が、また戦場を吹き抜ける。


 戦いの前の風は静かだった。今、この戦場に集う者たちはみな疲れ果てていた。しかし、それでもなお男たちは戦場に赴き、敵と向かい合った。そんな男たちを信じ、二人の女はそれぞれの軍の先頭に立った。


 滅びゆく大陸のとある一瞬、終わりなき戦争の果てで、二人は出会った。〈帝国〉を統べる狂悪なる黒竜の女王ディーバ・サタニカと、〈教会七聖女〉の最後の一人となった皆殺しの聖女バーニング・エンジェル……。彼女たちは己が意志に従い、血に塗れながらも生き、望んだ未来のために戦い続けた。


 かつて戦場を彩った英雄たちはすでに亡く、今や戦場には愚か者たちばかりがのさばるのみ……。しかしまだ戦争は終わらない。死が二人を別つまでは……。

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