終着点を見失った戦争
この戦争がなぜ始まったのか……──事の始まりを尋ねても、答えはないだろう。昔のことをはっきり思い出せる人はいない。加えて、始まりを知る者の多くはすでに死んでいる。
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有史に記されし始まり──かつて〈神の依り代たる十字架〉を信仰する者たちは、南の異教徒との〈古の聖戦〉に打ち勝ち、自らを〈教会〉と称して国家を樹立。その〈教会〉の説く偉大なる信仰は、大陸に秩序と安寧をもたらし、王侯貴族から平民まで、人々は緩やかな平穏を謳歌していた。
だが二百年ほど前、〈
そのとき、人々は〈神の依り代たる十字架〉の信仰の許、集い、団結し、立ち上がった。その先頭で戦乙女として人々の導き手となった〈教会七聖女〉は、今では秘匿とされる失われた大魔法、〈
しかし、輝かしい伝承はその一篇で終わる。
その後も語られる災禍に終わりはなかった。〈
〈教会〉の支配力、影響力も弱まった結果、各地の王侯貴族たちは群雄と化し、生き残るべく割拠した。そして残った土地を巡る領土紛争の末、数多の国が滅亡していった。
死の危機に瀕した人々は、やがて二つの勢力に糾合されていった。皇帝の専制政治により独力で〈
そして〈
かねてより対立していた両国は、〈帝国〉による冒涜的殺戮、〈
そして〈帝国〉と〈教会〉の戦争は、開戦から十二年の歳月が経過してもなお続いていた。両国とも戦場で趨勢を決するには至らず、外交においても妥協点を見出せずにいた。その間に英雄たちは去りゆき、大地は見境なく焼かれ、多くの人命が失われていった。
両国が当初掲げていた覇権戦争という目的はとうに頓挫していた。かつて〈帝国〉が〈大祖国戦争〉と呼び、〈教会〉が〈北部再教化戦争〉と呼んだだこの戦争は、もはや惰性で続いているようなものだった。息切れののちの断続的な休戦と、思い出したように開かれる戦端の繰り返しが、この戦争の全てだった。
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これは終末さえ忘れた、滅びゆく人々の日常。長きに渡る国家間の覇権争いの一幕。終着点を見失った戦争の成れの果て。
祈る神さえおぼろげな日々の中で、人々は戦争と平和を営む──食べて、寝て、交わり……、戦い、殺し、奪い、犯す……──去りし英雄に思いを馳せ、進む道に何かを求め、そして血を流しながら日々を生きる。
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