第11話 手紙

 もう……無理だ。俺は見れない。


 スケッチブックを開く……手が止まる。


 彼女との思い出が蘇って、それが大切な物だと、実感すればするほど、壊れた時の恐怖が……脳裏をよぎってしまうから。


 彼女は手術を受ける……その直前まで絵を描いていたと彼女のご両親が言っていた。


 俺は彼女の一番、直近で描いていた絵を見れば、夢の世界を見れば分かると思った。 


 何故……彼女がこの選択をしたのかを……。


 怖い……嫌な予感がする。


 俺はスケッチブックの最後のページを、恐怖を払いのけ、ゆっくりと……ひらいた。



 最後のページに写っていたのは、『絵を楽しそうに描いている彼女の絵』。


 美術室と思われる場所で、キャンパスの前に堂々と立ち、力強く絵を描いている彼女の姿がそこにはあった。


 『絵の中の彼女』が描いてる絵からは、彼女の背に隠れて見えないけど、『綺麗な青色』が見え隠れしていた。



 なんでだよ。


 絶対に書かないって、言ってただろ。


 自分は絶対に描かないって……。 


 それなのになんで……なんで……。


 好きだった彼女の絵は……ボヤけて見えなくなってしまった。 色が滲んでみえた。


 目を背けたくなった、認めたくなかった。


 これが最後の絵になるかもしれないなんて……。


 彼女が言いたかったこと、伝えたかったことって、これなのか……。


 彼女にとって、こんな日常すらも夢の世界だと言いたいのか……。


 ふざけるなよ。そんな諦めるような絵を……なんで。なんでなんだよ。



 いや…………違うのはわかってる。


 これは希望の絵でもあるんだ。


 彼女は自分自身を描くと、それは現実ではないと言っていた。つまり、これは自分を描いて、宣言しているんだ。絶対に戻ってくるって……。


 約束は守るってことだろ。


 しかし……ある一つの手紙が、そんな俺の前向きな解釈を無きものする。

 


 最後の絵の更に裏、手紙が貼り付けられるように、挟まっている事に気がついた。


 俺は答えを求めて、手紙を忙しなく開いた。


 手紙には…… 。


『これは……何時ものように、絵を描く私。


 そして、ここは私達の高校の美術室、まぁ……一度しか見たことないけどね』


 文字を目で追うだけで、いつものように、彼女の声が脳内に流れ、絵の解説をしてくれた。


『私はここで……毎日絵を書く。思いのままに。


 そして毎日、貴方に絵を見て貰う。


 貴方はどうしようもなく、私の絵が好きみたいだし、特別にいい席を用意してあげたから、感謝してよ。


 だから……絶対にみて、貴方が見てくれれば意味を持ち、私の絵は現実になれる。


 だから……最後にワガママとお願いを一つずつ。


 私の作品大切にして、これはわがまま。


 そして……私の事は忘れて、これはお願い……』



 手紙を読み終え、俺は少しでも彼女の近くにいくために、病室を抜け出し、急いで手術室前の待機場所に戻った……。


 きっと……文句を言いたいと思ったからだ。


 こんな我儘な願い……聞いてやるもんかと……。


 こんな……こんな手紙……受け取れない。



 そして、俺が待機場所についたタイミング。


 ちょうど、その時……手術室のランプが消えたのが見えた……。

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