「まもなく開会宣言を行います」

そんなこんなで約2週間後。

毎年恒例の就活イベントがやってきた。

未だに就職先の決まらない学生(既卒)や、来年・再来年に就職する学生が主なターゲットだ。


オレや吉谷を始め社員一同は日々その準備に追われた。


そして当日。


「センパイ!この人ってあの田中 たなか・あおいさんですか⁈」

参加者名簿を片手に興奮しまくる我が営業一部のホープ、ハンター。あの日以来何故かオレに対する態度が柔らかい。

「あの…てその子そんなに有名人なの?」

「そうですよ!あの美しい顔面に予想もつかないほどのイケメンボイス…まさに声優になるべくして生まれた奇跡の存在ですよ!!」


最近アニメ見ないからなー…

熱く語るハンターを苦笑いで受け止める。


「確か大学在学中に声優になられ…た…」


ふと現れた吉谷がハンターを見てたじろぐ。

だが、抱きついてこない様子を見て安心したようだ。


「吉谷。貴方も知ってるの?」

「ギャップのある現役美人大学生声優として今話題の方です。」

「へぇーそうなんだ」


「あぁ、田中さんなら今回社長との対談ゲストとしてお招きしているらしいよ。総務の子が言ってた」


能天気な声でそう補足するのは、経理部所属にして我が友人の千佳。あくびやめなさい。あと鼻ほじるな。


「ちーちゃんセンパイ!」

タタッと嬉しそうに千佳に駆け寄るハンター。千佳も嬉しそうにその小さい体を抱きしめる。左手の小指は立てて。黙っていたら美人姉妹とも見えるんだけどな…中身が本当に惜しい。


「ねぇ、ちーちゃんセンパイ?今日愛斗さんって来るんですか〜???♡」

「んーどーだろ。今日は特に予定無いとか言ってたから連絡したら来るんじゃない?」

「本当ですか⁈ なら今すぐ連絡してください!」

「ま、まあ…いいけど(苦笑) その前にポケチ持ってない?」

「ポ、ポケチですか…?」


ポケチはポケットティッシュの略語で千佳がよく使う言葉である。きっと鼻くそついたあの小指を拭き取るんだろう。全く…社会人何年目だと思っているのやら。


その後ほどなくして、愛斗とその後輩である古賀 こが・あきらさんが連れ立って現れた時、ハンターは2人の可愛い系イケメンに色めき立ったのだった。



「私、営業部随一のホープこと鮎川未来と申します♡」

さすがはハンター、いの一番に古賀さんに駆け寄り自己紹介。平均よりかはやや低めの身長、明るめのブラウンにくせのある髪、目鼻立ちの整った顔…まるでアイドルにいそうな雰囲気だ。


そんなアイドル、いや古賀さんもやはり女性の扱いには慣れているからかスムーズな受け答えを返す。やるな…


「お久しぶりです、裕さん。あの日以来ですね」


古賀さんとハンターを遠目から見ていると、愛斗より声をかけられた。

「久しぶりだな、愛斗。あのウサギ君は来ていないのか?」

「アリスでしたら今日は研究室に籠って作業をしています。何でも近いうちにある発表の準備で忙しいとか言ってました。」

「そうか…てっきり院生の1年生だから今日は来るものかと思っていたんだが」

「アリスは研究者志望ですからね。…会いたかったですか?」

「ああ、是非とも。我が社の魅力を伝えたかったんだがな。」

「あ…そうですか…笑」


鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をする愛斗。何か変なこと言ったっけ…?

ちなみに愛斗はというと既に別の企業から内定をもらい、そこに就職するらしい。チッ出遅れたか。


「イベントにご参加いただいております皆様にご案内いたします。本日は我が***株式会社の就活イベントにお越しくださり誠にありがとうございます。まもなく開会宣言を行いますので、参加者の皆様は16階***大ホールにお集まりください。」


「そろそろ行きましょうか。大ホールに」

社内アナウンスを聞き、オレは皆を引き連れて開会会場へと向かった。

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