「どちら様ですか?」
「俺と付き合ってください!」
突然オフィス街に出現した告白現場。衆人環視の中で告白されているのは
_____オレだ。
オレは新木祐菜(26)。「オレ」と言っているが身体は女。表向きは「私」と自称している。この福岡市のオフィス街にある会社の営業部長を務めていて、今は商談終わりの早めの直帰(※仕事先からそのまま帰宅すること)途中。曲がり角を曲がった途端、これだ。
オレは周りを見渡す。もしかしたら人違いかもしれない、いや、むしろ人違いであってくれ。その願いも虚しく、オレと目の前の恥ずかしい奴以外は衆人の輪だ。
「えーっと、私に言っているのでしょうか?」
残念ながら告白相手はオレのようだ。観念して尋ねてみる。間違えたと弁解しないかと一縷の望みをかけて。だがしかし。
「はい!貴方です!目の前の貴方に言っているのです!」
オワタ。完全にオワタ。しかも2回も「貴方」と言われた。○ぬ。
「初めて会った時からずっと好きでした!どうか俺と付き合ってください!」
深々と下げていた頭をあげ、そう言ったかと思えば、今度はひざまづいた。中々良い顔している。羨ましい。しかしコイツの顔には見覚えがない。記憶もちは良い方だと思うが、会った記憶が無いし、見た記憶もない。今日が正しく「初めて会った時」である。
衆目はオレに集まっていた。どれもが期待するような眼差しだ。はあ…と溜息が出る。
オレは正直に自分の気持ちを伝えた。
「初めてお会いするかと思いますが…どちら様ですか?」と。
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場所を変え、ここは喫茶店。オレの行きつけの店だ。
オレの返答ですっかり興味を失った衆人たちは、各々の日常に戻っていった。迷子になった子犬のような目で見てくる彼を仕方なしにここまで連れてきて今に至る。
「いらっしゃ…あら、祐じゃない!今日は早いのね」
席に着くとここのオーナー、結城舞子(26)がおしぼりと冷水を持ってきてくれた。彼女は大学時代の合同サークルの中の友人の1人で、別の大学でありながら結構一緒に遊んでいた。
「舞子、オレはいつもの」
「アイスコーヒーのブラックにチーズケーキね。そちらのお連れ様は?」
「俺も同じもので!」
「あら、元気のいいお連れ様ね♪祐の彼氏さんかしら」
「いえ!彼氏候補です!」
「あら、そうなのね。難攻不落だけど頑張ってね♡」
思わず冷水を噴き出す。
「何やってるのよ、全く祐ったら」
ちょっぴり怒り顔で、でも笑いながら紙ナプキンでオレの顔を拭く舞子。
「いや、だって、舞子が…」
アイツの事を彼氏とか難攻不落とかいうからと言いたいが、拭かれている口では上手く言えない。
「あのー…」
オレらの様子を眺めていた奴は徐に呟いた。
「もしかして、祐さんって男性側の人ですか?」
「は⁉︎」「へ?」
2人同時に間抜けな返事をしてしまう。
「だって、外では一人称「私」だったのに、この店入ってからは「オレ」と言ってますし」
そうだっけ…?そういえば無意識になっていたような…
少しだけ逡巡したオレは意を決して彼に伝えることにした。「オレ」のことを。
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