41. 風邪

 ある日。

 朝の待ち合わせで、ドロシーが来ないと思ったら、おばさんが代わりにやってきた。


「ドロシーはちょっと朝から熱があって、風邪を引いたみたいだわ」

「わかりました。じゃあ今日は休みですね。あとでお見舞いにいきます」

「ありがとう。ごめんなさいね」

「いえいえ」


 そういっておばさんは戻っていく。

 なるほど、ドロシーは風邪か。

 こんな人もほとんど来ない、辺境の地でも、ウィルスとか菌とかあるんだなっていうのが不思議に感じる。


 どうなんだろうか、その辺。女神様教えてください。今日もお祈りをした。やはり黄色い光る謎の玉がたくさん浮かんでいる。


「ドロシーいないと寂しいにゃんね」

「そうだな」


 ニワトリの世話をリズとメアリアの三人でちょちょっとして、戻ってきた。


「さて、お見舞いと言えばお土産だけど、どうしようか」

「うーにゃ」


 三人でちょっと悩む。

 どうしたものか。甘いものとかがいいかな。

 こういう日に食べるものは、麦粥むぎがゆとかが多いかな。

 あれだな。甘いものでうちにあるといえばジャムだな。

 この前作ったブドウジャムの残りを少し持っていこう。



「ドロシー、来たよ」

「あ、ブラン、リズ、それにメアリアちゃん」


 ドロシーが布団をかぶって寝ていた。


「ドロシー。お見舞いに来たよ。ブドウジャム少し持ってきたから食べて」

「わああ。ありがとう、ブラン」

「いいってことよ」


 金髪碧眼、美少女のドロシーが布団で弱ってると、なんというかはかなげだな。

 エルフも風邪を引くんだな、という感じもする。なんか自然に愛されてるから風邪とか引かないのかと思ってたよ。


「思ったよりは元気そうでよかった」

「ちょっと熱があるだけだから。他はなんともないの。お母さんに寝てなさいって言われたから、寝てるだけで、平気」

「そっか、そか」

「うん」


 ドロシーを見たけど、一応大丈夫そうだ。そのうちよくなるだろう。

 お薬はもうカエラにもらったらしい。

 普通のポーションでは傷にはすぐに効くけど、病気は症状とかを一時的に改善するだけで、治療薬ではない。

 風邪とかの薬は別にあって、そちらは飲むと症状の改善とかでじっくりと効くタイプ。

 すぐには治らない。


「お大事に、じゃあね、また遊ぼう」

「うん、ばいばい」

「ばいばいにゃ」

「ばいばい、です」


 それぞれの別れの挨拶をして、ドロシーの家を出る。


 なんだかドロシーが一人いないだけで、遊びもなんだか気が乗らないというか、楽しさをそこまで感じないというか、変な感じがする。

 リズもメアリアも言葉少なだ。


「じゃあ今日はドロシーいないからメアリアの家にいって、物語の話でもしようか」

「え、うちですか。珍しいですね」

「まあね、まあおとなしい遊びということで」

「わかりました」

「わかったにゃ」


 リズはあんまりこういう頭を使う遊びは得意ではないが、まあ読むだけなら問題ないだろう。


「それでどんな話最近書いた?」

「え、はい。ちょっと恥ずかしいですけど、色々書きましたよ」

「なるほど」


 メアリア先生は順調に書き進めているらしい。


 あ、そういえば、辺境の村といったけど、兵士が来て往来も最近ちょっと多かったな、と思い出した。

 前は本当にドドンゴしかここに来なかったからなあ。


「今回の話は、色々な遊びを思いつく子供の話です」

「ちょっ、それ俺じゃね」

「ちゃんと自覚あるんですね」

「まあね」


 俺が主人公とか恥ずかしすぎる。

 じゃんけんに始まり、三並べ、鬼ごっこ、竹馬、ぽっくり、など遊びを次々思いついて、村で人気者になる少年の話だった。

 本当に俺が思いついて、この世界にはなさそうな遊びも混ざっているので、なかなか危うい。

 こういう話の中に登場する遊びがちゃんと書かれていれば、それで普及するかもしれない。


 こうしてちょっと寂しい、ドロシーがいない日を過ごしたのだった。


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