39. 祠

 祠。ホコラだよホコラ。

 よくRPGとかで、野外マップの田舎の隅っこのほうに、建ってるよね。


 商人が無事でありますようにと祈ってから、そういえば女神に会って転生してきて、あまり役になっていないけどスキル器用貧乏をもらっているのを思い出した。

 せっかくだから女神様を祭る祭壇みたいなのを設置しようと思う。


 場所は家の横。

 集落は家が五軒、ちょっとずつ離れて建っている。だから家の横は空きがある。


 そこの町の中心っぽい感じになってる場所に、祠を設置する。


「というわけで、祠を建ててもいいですか」


 俺もこういうときは親にも敬語だ。


「おおいいぞ、ブラン。神様も喜ぶだろう」


 あの女神様。美人だったのは覚えてるけど、どんな顔だったかな。

 像を作るほど、俺は器用じゃないので、とりあえずガワだけ作ろう。


 どうしようかな。日本風にミニ鳥居を設置するという案もあるけども。

 お堂みたいなほうがいいかな。

 罰当たりな言い方だけど、犬小屋みたいな感じでもいいかな。


 犬小屋型はさすがにアレなので、地蔵の家みたいな感じにすることにした。

 もし大きくしたくなったら、再建しよう。


 木は相変わらず、端切れとかがあるので、それをもらう。


 ギコギコ、トントン俺がやってるのをみんなは見ている。ついでにいうとヘルベルグ騎士も見てる。

 何も言わないし、文句も言われないけど、見てくる。

 暇人め。

 でもアンダーソン騎士みたいに、人懐っこく一緒に遊ぼうという気はやはりないらしい。

 だいぶ夜とか話もするんだけど、昼間は全然だな。社交性が低い気がする。


 とにかく地蔵小屋は完成した。


 中のご神体は、どうしようか。何も思いつかないので今は空っぽだった。


 同じころ、やっと五軒目の家が完成したらしい。

 今日から兵士たちは宿舎で泊まるんだそうだ。ヘルベルグ騎士も、宿舎で仲良くやるようで、俺の家から出ていった。


 夕方、家完成のちょっとした祝いをした。

 普通の村なら酒とか出そうなシーンだけど、この集落には酒はまったくない。

 この前のクマ肉を使ってまた鍋が振る舞われた。


 夜、おっちゃんがいないならいないで、何となく寂しいなとは思った。


 中身がないのも何なので、記憶を思い出したとき、つまずいた石を何となく取ってあった。それを祠の中に置いた。


 そして両手を合わせる。


 目をつぶって『女神様、ありがとうございます』とお祈りを捧げる。


 目を開けて、びっくり。


 なんかホタル、いや違う、黄色く光ってる丸い物体がいくつも、祠の周りを飛んでいた。

 なんだこれ。全然わからん。

 はっとした。ここは異世界。神秘的だけど、これは何か、精霊とか神様系統の神聖なやつなのでは。


 俺はもう一回、手を合わせて拝んでおく。


 そういえばここの女神の宗教は、手を合わせるタイプの宗教なのだろうか。わからないがまあいいや。




 翌日。

 外にニワトリの世話をしに出た俺たちは、集合する前に、祠のところにきた。

 今のところ祠は普通だ。


「ささ、みんな、お祈りを」

「お祈りってどうやれば……」

「目をつぶって『今日も一日、女神様、よろしくお願いします』って心の中で、唱えればいいんだよ」


「わかった」

「わかったにゃん」

「わかりま、した」


「じゃあやるよ」


 みんなで目をつぶって、俺は手を合わせる。


『今日も一日、女神様、よろしくお願いします』


 さて目を開けてみる。


「わーすごい」

「なにこれにゃん」

「すごい、です」


 周りには、やはり夜と同じように、黄色く光る玉がぼーとたくさん浮かび上がっていて、何やら幻想的になっていた。

 現実空間を侵食される感じがたまらない。


「これなんなんだろうな」

「わかんないにゃん」


 まあそうだろうな。とりあえず、ニワトリの世話だ。鶏小屋に向かう。

 掃除とかして帰ってきたら、元に戻っていた。


 まあ不可思議現象ということで、異世界ファンタジーに住んでる人は、そういうこともある、と思ってるみたいで、疑問なのは俺だけらしい。


 綺麗だし、害とかなさそうだし、むしろご利益ありそうな感じしているので、いいか。

 忘れそうになるけど魔法もファンタジーであり得ない感じだといえばそうなんだから、これくらい普通なのかもしれない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る