第3話 てのひらをたいように
太郎はその後、検査をしたあと退院をした。
父の運転する車の中。
太郎は帰りたくないと心のなかで連呼した。
「太郎」
父の言葉に太郎は耳をふさぐ。
家に帰るまではいい。
でも明日からの学校が嫌だ。
そうおもった。
母が言う。
「太郎着いたわよ」
「……」
太郎は覚悟した。
明日から引きこもろう。
そして顔をあげる。
そこは見慣れない家がある。
「念願のマイホームだぞ」
父が言った。
「え?ってかここはどこ?」
「新しい家だ。
父さん気づいたんだ。
あのマンションの家賃とこの家のローン。
比べたらそんなに変わらないってことにね」
太郎はすぐにそれが嘘だと思った。
引っ越してくれた。
しかも自分に気を使って……
でも、それを言葉にできるほど太郎は子供ではなかった。
今はその言葉に甘えよう。
そう思った。
「そうなんだ……」
「今週は学校は休んで来週から頑張れる?」
母の言葉に太郎は震える。
「あの学校には行きたくない」
「あの学校には行かなくていいぞ。
転校しよう。そこで新しい学校生活だ。
でも、嫌なら行かなくていいぞ」
父と母の優しさは十分に伝わった。
でも怖かった。
何もかもが。
でも思う。
――嫌なら死ねばいいや
どうせ僕が死んでも世界は変わらない。
「がんばるよ」
がんばりたくはない。
でもここで駄々をこねるほど太郎は子供じゃなかった。
太郎は車の中から出た。
太陽が暑く眩しい。
手のひらで光を遮る。
それでもやっぱり眩しかった。
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