第12話
クレブレム洞窟内部。
東の空はそろそろ暗くなり、もうすぐ西の大陽も沈もうかという頃。
酒場のカウンター内でも、開店に向けて準備を進めていた。
ランシェルも、店内の掃除を任され、モップで床を拭きながら、一つ一つのテーブルの水拭き、木椅子の整列、ジョッキのから拭きに、その他食器の皿洗いなど、意外と
リーダーの息子という立場が彼をそうさせるのか、単にそういう性格なのかどうかは分からないが、客が店に求めるものをよく理解し、それに基づいて行動している。
ランシェルも、ユリテルド村の村長として、アレンの姿勢を見習いたいと思った。
「……アレンって、凄いんだな。僕、何か尊敬した」
掃除をしながらアレンの横につくと、ランシェルはそう言った。アレンは音もなく笑う。
「……今まで何だと思ってたの?」
「いや、今までも凄いとは思ってたけど、こうやって皆を指揮してる姿を見るとさ。……やっぱり、すごいなーって」
「ありがと。……でも、そんな大したものじゃないよ。俺はただ必死なだけ。……父さんに認めてもらおうと、必死だっただけだよ」
……今でも十分頑張ってるのに。
それでも必死だと告げるアレンの過去も、きっと複雑なものがあるのだろう。
2人はそれ以上何も言うことなく、それぞれの作業を再開した。
暫くすると、オーナーの話し声が聞こえてきた。
地下へ繋がる扉が開け、オーナーの姿が現れる。
「ちょっと外出てくる。客の相手頼むぞ」
「はい」
昨日の威勢と比べ、
オーナーが出ていくのを確認し、2人は顔を見合せ、同時に一つ頷いた。
「…………行ってくる」
ランシェルにしか聞こえない声でそう告げると、アレンは店から出て寝室に繋がる廊下を早足で歩いた。
長い廊下を駆け抜け、アレンの部屋の前で立ち止まる。
周りに誰もいないことを確認し、
ここまでは手慣れたものだ。あとは……。
「……父さんの部屋は確か、昨日見つけた部屋から右へ3つ目の所だったはず」
記憶を
地下の部屋まで知り得てるあたり、言い付けを守ってない事をランシェに言えた立場ではないなと、アレンは密かに笑った。
後でランシェに謝らないとな、と考えながらアレンは先を急いだ。父がいつ外から戻ってくるか分からない分、時間は限られてくる。
目的の場所だと思われる格子に手をかけ、勢い良く外す。中に滑り込み、格子を元に戻すと、背中に妙な違和感を覚えた。
「ーーーーーー」
まさか、と口が動いて、アレンはばっと後ろを振り返った。
するとそこには、驚いた顔をした男が立っていた。見た目は二十後半くらいで痩せ型、服装からして商人であることが伺えた。
「……………………っ」
油断していた。ここに商人がいる可能性は大いにあり得たのに。
ここにすでに商人がいるということは、誰にも気付かれずに地下と地上とを行き来出来る出入口がまだあるという事か。
恐らく人身売買もそこを通って行われる。
ーーまずいな。
アレンは商人の男を見つめながら、ぐっと拳に力を込めた。
「……遅いな、アレン」
アレンが酒場を出ていってから、とうに30分以上過ぎていた。帳簿を取りに行くだけにしては、やけに時間がかかっている。
「なぁ、ランシェ!アレン知らない?」
従業員の女がランシェルに向かって、カウンターから大声を上げた。ランシェルは慌てて首を横に振る。
「ううん。知らない」
「そー。……んじゃ、ランシェルはそろそろ開店するから、接客頼むわ!私、アレンのこと探してくるよ」
「あ、ちょっ!……っ」
止めようとして、ランシェルの右手がそのまま固まった。
ここで探しに行くのを止めるのは逆に変だ。自分達の行動の不審さを示す事に繋がり兼ねない。
ランシェルは上げたままの右手を下ろし、店を開くべく扉に手をかけた。すると、彼女を上回る大きな力で逆方向から扉が開かされた。ランシェルは目を見開く。
「ーー……お、オーナー」
扉から中に入ってきたのは、先程外に出ていったばかりのオーナーだった。彼はそのまま調理場へ向かい、地下へつながる扉に入っていく。
「ま、まずい」
まだアレンも地下から戻ってきていない。これでは2人が
「ーーーーぼ、」
そう思った瞬間、ランシェルの体はすでに行動に移っていた。
「僕も、アレンのこと探してくる!!」
「あ、ちょっと!ランシェ!店番は?」
「ごめん!後で!」
「後でって……ーーもうっ!」
従業員の女が怒ってるのが伝わってきたが、ランシェルにとってそれは二の次だ。
まずは、アレンの所へ……っ!
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