26 ミランダ橋

 さてミランダ橋には、何軒か小さな露店も出ている。

 ポーション各種、それからこの周辺でドロップするアイテムの露店。

 ドロップを集めるより買ったほうが楽ですよってことですね。


「さてここまで来たから、釣りをしようと思います」


「まずはドロップ品屋さんに寄ろう」

「うん」


 ドロップ品屋さんは、ドロップ品を売ってるけど、買い取りもしてくれる。

 そこで要らないアイテムを売った。


「ちょうど釣り竿も売ってるね」

「本当だ」


 ポーションの隅に釣り竿が5本くらい置いてある。


 僕とリズちゃんは持っているので、買うのは妹のアルテだけだ。


「釣り竿くださいにゃん」

「はい、どうぞ」


 妹もドロップ品を換金して、お金がある。


「わーいにゃ、釣り竿にゃあ」

「ははは」

「うふふ」


 何か買うのは楽しいね。


 そして橋に向かう。


 橋は石橋だ。川は浅めだけど思ったより大きい。

 アーチを描いて、石が組んである。


 その橋の上から川に向かって釣り糸を垂らす。


「釣りを始めます」

「わーいにゃ」

「はーい」


 川下側へと糸を投げて、釣れるのを待つ。


「にゃ~にゃにゃ~にゃんにゃん」

「とぅるる~とぅる~」


 妹と僕が適当に歌って時間をつぶす。


「何が釣れるかなぁ」


 びくんっ。


 糸が引っ張られて、釣り竿がしなる。


「きたっああ」


 今日は何が釣れるだろうか。

 相手も必死に引っ張ってくる。


 慎重にリールを巻いて、糸を手繰り寄せる。


 ぐるぐるぐる。


 ぐるぐるぐる。


 右へ左へ、敵の抵抗もまだ激しい。


 ぐるぐるぐる。


 ついに水面に姿を現した。


「けっこう大きい!」


 糸巻きを続けたら、そのまま水から出てきた。

 釣り上げに成功だ。


「おっとと」

「さあワイちゃん、素早く手元まで持ってこないと」


 橋の上だったので、水面まで距離があるのだ。

 リールを巻いて、手元まで魚を何とか持ってくる。


「ちゃちゃーん。お魚ちゃん、釣れました」


 釣果は『エデンハイムナマズ』長さ30センチ。

 けっこう大きいぞ。


 釣り最大サイズを更新。最初釣ったヒメマスは15センチだった。


「やったじゃん」

「やりました」

「お姉ちゃん、やったにゃ」


 黒い丸々としたナマズの巨体は圧巻だ。

 食べごたえがありそうだ。


「エデンハイムナマズ……だってエデンハイムってなんだろうね」

「エデンハイムはね、この国の名前よ」

「なるほどぉ」

「エデンってユートピア、理想郷の一種ね」

「うん! それはなんとなく知ってる」

「でしょ」


 ナマズちゃんはアイテムボックスにしまう。


「釣りを再開だ」

「おー」

「にゃあ」


 しばらくまた待ち時間だ。


 またトンビが飛んでいる。何羽いるのかな、5羽ぐらいか。


 ぴゅーひょろろ。


 大きく円を描きながら飛んでいる。


 のどかだなぁと思って見ていたんだけども、急にトンビたちの動きが変わった。


 ぴゅー、ぴゅー。


 ぴゅー、ぴゅー。


 トンビたちは鳴き声を上げて、一目散に森のほうへ逃げていく。


「なんだろう」


「あーうん、ほらあっち東の空」


 リズちゃんが指を指した森の向こう、東の空を見たら、理由が分かった。



 ドラゴンが飛んでる。



 まだ遠いけど、確かにあれはドラゴンだろう。

 どんどんこっちに向かってくる。


 特に音はしない。

 周りは動物たちも含めて静かだ。水の音が少しするだけ。

 巨体のドラゴンは僕たちの上を飛んで、太陽の影が落ちる。


 とにかくでかい。


 そのまま北の山脈のほうへ飛んで行った。

 あっという間だった。


「ほへえ」

「にゃあ、すごいにゃあ」

「そうだね」

「圧巻ね、さすがだわ」


「あれが翡竜ひりゅうなの?」

「あーうん、たぶんそう」

「そうなんだ。翡竜オンラインだもんね。そりゃあドラゴンが出てこなかったら詐欺だよねえ」

「そうね」


 そんなに低くは飛んでなかったはずだけど、すごく大きかった。

 あの子がボスなのだろうか。


 でもオープニング映像だと敵ではなくて、モンスターを薙ぎ払ったから、味方なのかな。




 びっくりしちゃったけど、釣りを再開しよう。


 またトンビたちも戻ってきて、空に円を描いている。


「にゃあん♪ にゃあん♪」


 このゲームにはBGM機能があって、現在位置と戦闘、非戦闘などで音楽が変わる。

 すぐにミュートにしたりもできる。

 そしてどうやら、周りの人と「同じ曲」が同じタイミングで流れている。


 妹は聞き慣れた、平和なBGMの曲に合わせて口ずさんでいるけど、僕にも同じように聞こえている。

 BGMというより、音楽ラジオに近いのかな。


「ら、ららら~。たんららら~」

「ふ~とぅるる~、とぅるるる~」


 僕とリズちゃんも一緒に歌う。


 平和な素朴なBGMだけど、なかなか好きだ。

 アコースティックギターみたいな弦楽器、フルートみたいな木管楽器。


 BGMがきれいなゲームは放置するのも、けっこう楽しい。


「あ、きたにゃん!」


 妹の釣り竿がしなる。


「えいえいえい、にゃああ」


 ぐるぐるぐる。


 ちゅぽんっと水面から出てくる。


 釣果はヒメマス、14センチ。


「アルテ、おめでとう~」

「妹ちゃん、おめでとう~」

「ありがとうにゃん」


 いや、めでたい。


 こうしてこの日は暗くなりはじめるまで、釣りをした。


「そろそろ戻ろっか」

「うん」


 リズちゃんの提案で、歩いていく。


 橋を移動して、簡易陣地に戻る。


「では、ワープしよう」

「はーい」

「にゃーん」


 クリスタルの石像に近づく。


『ワープしますか?』


・[○アスタータウン]

・[●ミランダ橋]


 選択肢が表示される。

 現在位置は黒丸なのかな、同じ場所はグレーダウンしている。


 [アスタータウン]を選んで飛ぶ。


 視界が切り替わる。世界地図を上から俯瞰ふかんしている。


 僕の背中には真っ白な翼が生えていて、大空を飛んでいた。

 時間はゲーム内時間と同じ夕方だ。


 高すぎて逆に恐怖とかは感じない。衛星写真とか見ても怖くないのと同じだ。


 夕日がきれい。


 すぐ右に妹、そして左にリズちゃんも現れた。


「なにこれ?」

「これはね、ワープポータルの演出なの」

「どういう意味が?」

「瞬間ジャンプじゃ味気ないでしょ、1分くらい待機時間があるんだけど、その間の演出」

「ほーん」


 ちょっと会話をしている間に1分が経過、あっと思ったらふわりと柔らかくアスタータウンに到着した。


 ふう。


 噴水広場だ。実家に戻ってきたみたいな、安心感。


 露店を軽く見て回る。

 ポーションの補充と要らないアイテムを買い取り露店で買ってもらう。

 よし、これで今日の冒険は終わり。



 いったんログアウトして、休憩しよう。


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