仏師素空 天安寺編(中)
晴海 芳洋
第1章 良円の喜び その1
ここは、
「
栄雪は初めは驚いたが、ジッとして静観するのが 良いと助言した。
「素空様も、そのまま捨て置くようにとおっしゃったけど、私は疑われたままでいることに、とても我慢ができないのです。ここ2、3日、見物に来る僧達の見る目が変なのです。このままではとても耐えられません」良円は、半べそをかいたような顔で助けを求めた。
栄雪はあっけに取られて
栄雪は、3年前に良円と決別した時のことを鮮やかに思い出した。あの時、同じようなことで決別したのだった。良円は純で正義感が強く、
だが、栄雪はあれから3年が過ぎて、物の言い方、人の宥め方も少しは分かるようになっていた。
「良円、私は素空様のおっしゃるようにするのが、1番良いことだと思います。あなたは本当に疑われているのでしょうか?あなたの心配は、独りよがりな思い過ごしのように思えてなりません。素空様や周りの方々はどなたも、あなたを疑っていない筈です。周りの方々を信じることです。そして、あなたに1度訊いておきたいことがありました。3年前、あなたと仲違いしてから、明智様の
「今の明智様をどう思いますか?あなた方を率いていた時の明智様と、仏師方として素空様の
良円はおずおずと口を開いた。
「3年前、私が絶望の淵にあった時、明智様は救って下さいました。あのお方は才知に長け、思い遣りもおありです。いつも自信に満ち、不正を正して下さいました」
「では、今の明智様をどう思いますか?」
栄雪の問い掛けに、良円が答えた。
「明智様は、お優しくなられました。私は明智様に付いて行くばかりです。素空様が現れるまでは、明智様より才知に長けたお方はいませんでした。素空様は、明智様以上に才知に長けたお方でしたから、明智様は素空様に従っているのだと思います。しかし、私はこの世の果てまで明智様に従って行く所存です」
栄雪は、友の決意とも言える言葉に落胆して、涙が止まらなかった。
「いいですか…良円…明智様が、素空様に従っていらっしゃるのは、ご自分より才知に長けたお方だからではありません。明智様はお分かりなのです。素空様が御仏の遣わされたお方であると…。あれほどのお方が心を変えられたのは、御仏の御姿を目の当たりにしたに違いありません。その時、人に
良円は、友の言葉に涙した。3年前に
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