第7話

私達は王宮内の会場から少し離れた一室に案内された。


「こちらです」


と開かれた扉の奥に見えた1人の男性。


この国の第二王子殿下その人だった。私たちはすぐさま挨拶と礼をする。


「今日は二人にお礼を言いたかったのだ。まぁ、そこへ掛けて欲しい」


私たちは促されるままソファへと座った。緊張で口から心臓が出そうだわ。目の前に殿下がいるなんて信じられない。貴族であっても私達からしたら王族なんて雲の上の人達。


年齢も違うので滅多にお目にかかる事もない。舞踏会等の挨拶の時くらいかしら。そんな方が私達に何の用があるのだろう。


「今日のこの舞踏会、君達の婚約者に無理を言って呼んで貰ったんだ。急にドレスを用意させてしまって申し訳なかったね。後日、お詫びの品を送る」


「あ、あのっ、私達にお礼とは?」


カノン様がそう口にする。


「あぁ、聖女の事なんだが。君たちはよく知っているだろう?聖女の事を」


被害者ではあるけれど、リシェ様と仲がいいわけでもないしどちらかと言えば関わりたくないと避けていた方なのでよく知ってはいない、だ。


「先ほどイーリス嬢とリューク君は踊っていなかった。聖女を優先したのだろう?カノン嬢にしてもそうだ」


「・・・そうです、ね」


私達は先ほどの出来事を殿下の口から改めて言われると心が重くなる。


「君たちには残酷な舞踏会だったが、王族の私達にはとても良い舞踏会だったと言えばわかるだろう?リシェ・ロマーノ公爵令嬢は聖女。


聖女としても公爵家の力を取り込むために王家の側妃として望まれている。だが残念ながら私も兄上も自分の妃を愛しているし、既に子供もいる。側妃は必要ないんだ。


妃からの愛も信頼も失いたくなかったのだ。そこで聖女の行いを他貴族に知らしめ、王家へ嫁ぐ事を防ぐために君達を無理に呼んだ」


確かに婚姻されていて子供もいる。要らぬ揉め事は避けたいだろう。けれど、その為に私たちは踏み台にされたのかと思うとやるせない気持ちになる。


「・・・そうなのですね。私達は殿下のお役に立てたのでしょうか」


「ああ。あと一息という所だ。今までは学園という閉鎖された場で自由に出来ていたが、これからは違う。聖女と称するのであれば男を侍らせるなど言語道断だ。


貴族の中でも信仰の厚いものは多い。身持ちの悪い聖女など王家には相応しくないと声が上がるだろう。まぁ、彼女の事だ神殿で生涯過ごすなんて事はしない。だが公爵令嬢として今から婚約者を探すにしても見つからない。自業自得だな」


私たちは殿下の話す事を黙って聞いている。殿下の言っている事はもっともだからだ。


ただ、こうなると浮かんでくる不安。


彼女が私たちの婚約者を奪う事だ。



愛情はないが世間からは笑いものにされること間違いなしだわ。


「殿下、そうなれば、リシェ様はリューク様やディルク様を婚約者になさる可能性がありますわ」


「そうなれば私たちは今よりももっと笑いものにされてしまいますわね」


カノン様が私の言葉に同意するように話す。


「そうだな。君たちは聖女の被害者だ。本来なら私たち王家はリシェ嬢の行動に関与する事はないのだが、今回の事で君たちに恥を掻かせてしまった。


それについては君たちが笑い者にされないようこちらから手を回す。そしてリシェ嬢と一緒にいた5人の令息のうち4人はまだ婚約者がいる。無理やり婚約者を代える事になったなら王家が責任をもって婚約破棄された令嬢の結婚相手を宛がおう」


「殿下のご厚意に感謝申し上げます。ですが、もし、リシェ様がリューク様と結婚するなら私の新しい婚約者は結構ですわ」


「イーリス嬢、どうしてだい?」


「きっと公爵家や神殿から口止め料と称した慰謝料がいただけますわ。私は領地へと帰り、そのお金でひっそりと社交界へ出ることなく暮らして行きたいですわ。


噂を止めようとしても人の口に戸は立てられませんもの。父からは役立たずだと捨てられるか後妻として売られるかもしれませんが」


「私もイーリス様の考えに同意しますわ。王都に残っていても私達にとっては針の筵ですもの。跡継ぎはおりますし、無理に結婚させずそっとしておいて欲しいですわ」


「・・・そうか。君達の意見は分かった。今後リシェ嬢がどうするかは本人次第だが、君達が不利になるような事がないようにだけ約束をしよう」


「有難うございます」


私たちは殿下へ礼をして部屋を出た。馬車まで騎士が送ってくれるらしい。


私達は騎士にお礼を言い、カノン様の馬車へと乗り邸へと帰ってきた。


「カノン様、送って下さって有難うございました」


「こちらの方こそ濃いお話が出来て嬉しかったですわ。またお手紙を書きますわね。では、ごきげんよう」


 馬車は去り、私は邸の中に入った。

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