第2話

「・・・ただいま戻りました」


「イーリス、貴方。お帰りなさい。早かったわね」


「ああ。私はすぐに侯爵家へと向かう。流石の私も許すことは出来ないからね」


 父はそう言うと、着替えもそこそこに侯爵家へと向かった。私はドレスを脱ぎ、ワンピースに着替えた後、サロンで母たちに卒業パーティでの出来事を話す事となった。


相手に恋愛感情はないとはいえ、目の前で聖女に片膝を突いている姿を見ていい気はしない。しかも大勢の貴族達が見ている前で、だ。これからしばらく社交界で噂はもちりきりとなる。


絶望しかないわ。


 話を聞いた家族達は憤りを感じて自分の事のように怒ってくれている。それだけでも私は嬉しく感じてしまうわ。


これから私達の婚約はどうなるのかしら。


 婚約破棄ともなれば、18歳を過ぎた私の歩む道は修道女かどこかの裕福な貴族の後妻しかない。王宮侍女は万年募集だけど、出来れば避けたい。


なぜなら今後の予定として聖女のリシェ様は神殿へ入るか、聖女の影響力を王家が取り込む形で王子と婚姻するかのどちらかになる。


 現在第二王子のシェルト殿下は今年27歳。王太子殿下は35歳と歳が離れている。そして息子も3人既に生まれている。両殿下とも婚姻を既にされているのでリシェ様は側妃として嫁ぐ事になる。


公爵家が年頃の娘を側妃として差し出す事を許すだろうか。


神殿で生涯聖女として過ごす方が利益があるように思う。


とはいえリシェ様が嫁ぐのも否定は出来ない。王宮侍女になり、リシェ様付きの侍女にでもなろうものなら毎日憂鬱な日々を過ごす事になるので避けたいわ。


 婚約者が居る男性と馴れ馴れしく付き合う人の下では働きたくない。私の迫りくる将来を心配しながら部屋に足取り重く戻る。侍女のマーラは心配しながら寝る準備をしてくれる。本当に、困ったわ。





 翌日、朝食を摂ると父の執事から執務室へくるようにと伝えられる。どうやら父は昨日の夜遅くに我が家へ帰って来たみたい。


「お父様、おはようございます」


「・・・ああ、イーリス。おはよう。早速だが、昨日侯爵家へ行ってきたのは知っているな?。侯爵と直接話をした。結論を言おう。半年後の結婚式はこのまま行う」


「お父様、私はあの家に嫁ぐのですか?」


「あぁ、侯爵もリューク君の事を従者から聞いたようだ。本当なら婚約解消をするのが望ましいが、共同事業は既に始まっている。途中で引き返せば領民に多大な影響が出るのと、イーリスの将来を考えての事だ。


この結婚を逃すと後妻か修道院へ行くしかなくなる。侯爵がそれはあまりにイーリスが不憫だと仰ってな。3年程侯爵家へ嫁いだ後、離婚して自由に生きていけるようにして下さるそうだ。もちろん跡取りの心配もいらないと。私達からもイーリスに対して出来る事をするつもりだ。どうだろう」


「お父様、私の今後の事まで考えて頂いて有難うございます」


「お前さえ良ければ、来週から侯爵家へ入る事になる。リューク君となるべく合わないようにして下さるそうだ」


「分かりました。荷物を纏めておきます」


今後の事を考えるとそれが一番ベストな道とも言える。未婚で働くと『未婚の娘がこんな所で働いて』と訳アリなイメージを持たれてしまうが、離婚であれば働いていてもそこまで言われる事はない。


ただ、これから離婚までの間はお茶会や舞踏会等では噂の的として針の筵で過ごす事になると思う。それは、覚悟するしかない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る