政略結婚の予定です。

まるねこ

第1話 プロローグ

今日、学院の卒業式が行われた。


そしてこの後、卒業パーティが行われる。パーティでは新たな門出を祝うための舞踏会のようなものだ。


参加者は勿論卒業生、そしてエスコート役の婚約者や家族が出席を認められている。私は邸に一旦戻って制服からドレスに着替え、玄関ホールで立っていた。


「・・・イーリス。私がエスコートしよう」


「姉さん、僕が行ければ良かったんだけど、まだデビューもしてないし。本当に、あいつは最低だな」


「バルト、いいのよ。お父様行きましょう。お母様行ってまいります」




 私は父と卒業パーティの会場へとやってきた。やはり卒業パーティは皆婚約者と来場している。家族と来ているのはほんのわずかではある。


私は時間までクラスメイトとおしゃべりをしたり、父と話をして過ごしていた。



そしてパーティの開催時間になり、生徒会長から挨拶が行われようとした時、一番最後に入場してきたのはリシェ・ロマーノ公爵令嬢だった。


それを取り囲むように5人のタキシードを着た男達。リシェ様は5人にエスコートされながら入場したのだ。会場が静まり返り、皆リシェ様達に視線を向けている。


 リシェ様は公爵令嬢でありながら昨年神殿のお告げにより聖女の称号を頂いている。そして誰もが息を飲む程の美しさ。


美しい聖女であるリシェ様やいつもリシェ様を取り囲む男子生徒達もリシェ様に劣らず見目麗しく学園で知らぬ者はいないほどの有名人達である。


リシェ様は生徒会長の横に立つと、生徒会長の代わりに挨拶をした。会場は割れんばかりの拍手で埋め尽くされている。


ほんの一部を除いて。


 そして音楽が始まり、リシェ様がファーストダンスを始めようとホールの中央へ1歩踏み出した時、エスコートをしていた5人の男達がリシェ様に跪いている。会場はキャアキャアと黄色い声で盛り上がった。


「・・・イーリス。外へ出るか」


「ええ。お父様」


私は溜息を一つ吐いて会場から出る。私を含む他の数名の生徒とそのエスコートをしていた人も同じ気分だったようだ。


皆暗い顔をして早々に帰宅するようだ。


私は彼女達に挨拶をする。


「みなさま・・・。ごきげんよう」


「イーリス様、ごきげんよう」


彼女達も顔色は悪く、多くは語らない。


そう、挨拶をした彼女達はリシェ様を取り巻く男達の婚約者なのだ。御多分に洩れずその中の1人であるリューク・ランドル侯爵子息、私の婚約者だ。


 目の前で行われた行動にいたたまれず会場を出たのは致し方ない。会場では華やかな音楽が聞こえ始めた。きっと彼らは楽しく踊り過ごしているのだろう。


「・・・お父様、パーティは出席致しました。私達ももう、帰りましょう」


「・・・ああ。そうだな」


私達は無言のまま馬車に乗り、早々に帰宅した。




 自己紹介が遅れました。私の名はイーリス・ブライトン。18歳。趣味は刺繍と園芸ですわ。父はアルヤン・ブライトン。母はヨハンナ、妹はララ16歳。弟はバルト12歳。伯爵家である我が家は中流の中流といった所でしょうか。


そして私の婚約者リューク様。歳は私と同じ18歳。彼はランドル侯爵子息。騎士を目指していて学院では騎士科を専攻し、卒業後は王宮騎士として就職が決まっているらしい。


らしい、というのも私はあまり彼とは接点がないの。


 6歳の時に婚約したのだけれど、彼はずっとリシェ様に一途のようで、私と顔合わせを幼い頃に何度かした程度。学院でもクラスが違ったため会うことは無かった。


 そもそも貴族の婚姻は家の提携事業の一つ位にしか考えられていないので結婚する私達の気持ちなんて汲み取る事はない。それはどの貴族でもほぼ同じではないだろうか。


ランドル侯爵様はリューク様がリシェ様と仲が良く、いつも一緒に居る事を知っているようだ。


 見かねた侯爵夫人が彼に私と交流を持つように言うが効果はないようだった。父にとっても侯爵にとっても深く考える事なく彼のする事は『若気の至りだ。卒業すれば次期侯爵として目が覚めるだろう』と彼にとっては優しい態度をみせていた。


 私の母や弟と妹は私を心配してくれる唯一の味方といってもいい。時代がそうだからと言ってしまえばそれまでかもしれない。貴族達は例え政略結婚であっても婚約者と生涯共に過ごすために最低限の事は婚約者にするのが礼儀であるはずなのだが、彼はお茶会にも来ない。


誕生日プレゼントは勿論の事、手紙もない。2人で舞踏会の参加もしない。ないないずくしでこれまでやってきた。母や夫人、周りの人達は彼の私に対する扱いの酷さに苦言を呈していたが、あまり効果は無い様子。


むしろ彼は婚約破棄をして事業提携も無くしてもいいんじゃないかとさえ考えているのでは?


いくら見目麗しいとはいえ、そんな婚約者を好きになるわけがない。

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