第101話 恨めしい

「ここがモンハンシティか」


スパム領に新しくできた町。

モンハンシティ。

今日からそこが私の新しい狩場となる。


「モンハンシティへようこそ。この町へはどういったご用件で?」


門に在中する守衛に尋ねられ、私は身分証代として冒険者証を差し出す。

Bランクを示す冒険者証を。


私の名は、クロウ・ニーン。

この道20年のベテラン冒険者だ。


「Bランク冒険者の方でしたか。という事は、やはり死の森での狩りの為に」


「ああ。一稼ぎしようと思ってね」


「歓迎いたします」


Bランクは、冒険者全体の上澄みに入る部類だ。

なので大抵の町にはほぼフリーパスで入る事が出来る。


まあ、実力だけで言うなら私はA……いや、Sランクでも通用する訳だが。


私は貴族家の出だった。

本来なら、冒険者などという俗な職に就く事などない身分である。

だが、私は大きな問題を抱え生まれて来てしまう。

そしてそれが原因で、15歳の時、家から放逐されてしまっている。


それ以降、私は冒険者として20年過ごしてきていた。

自分でいうのもなんだが、単純な戦闘能力だけなら私の強さはAどころかSランクに迫ると自負している。


だが私のランクはBだ。

ある致命的な欠点によって。


そしてその欠点は、私が家を放逐された理由でもあった。


私の欠点。

それはスキル。

そう、生まれ持ったスキルである――


死霊遣いネクロマンサーだ。


ネクロマンサー。

それは死者を呼び出し、使役するスキルである。

このスキルは使い勝手が非常によく、かつ強力な物だ。


だが強力であると同時に、このスキルは大きな問題を抱えていた。

それは……イメージが死ぬほど悪いという点だ。


死者を呼び出し使役する訳だからな。

そりゃイメージは最悪だ。

私だって他人事だったなら、『うわっ』て思うし。


そしてそのイメージの悪さから、私は貴族に相応しくないと家から追い出された。


その程度と思うかもしれないが、貴族はメンツを重視する物だ。

死体を利用するネクロマンサーが身内に居るなど、汚点以外何物でもない。

たとえその力を行使していなくとも、である。

所持して生まれて来ただけで恥なのだ。


だから私は追放された。


貴族と言う肩書を失った私は、その後冒険者として生計を立てて来た。

幸い。

まあ幸いと言っていいのかどうかは分からないが、ネクロマンサーは魔物を狩るのに向いているスキルだったので、冒険者としての活動自体は順調だったと言えるだろう。


ただやはり、人々が私に向ける目は厳しい。

いくら優秀だとしても、死体を操って仕事をする私の評判は常に最悪だ。

そして評判が悪い以上、冒険者組ギルドは私をBランク以上に上げる事はない。

どれだけ能力があっても。


何故なら、Aランク以上の冒険者は、ギルドにとって顔と呼ぶべき存在だからだ。

そんな中に、死を冒涜する様な者が混ざる事を、誰が良しとするだろうか?


「はぁ……私だって、好きでネクロマンサー何てスキルを持って生まれて来た訳じゃないんだがな……」


言うまでもないが、私には恋人や家族と呼べる者はいない。

嫌われ者だし。

それどころか、親しい友人さえもいなかった。


一時は冒険者を止め、スキルを隠して普通に生きていこうかと思った時期もあったが、結局はネクロマンサーとして冒険者を続けている。

私は余り器用な方ではないので、そのうちぽろっとボロを出して、酷い事になるのは目に見えていたからだ。


だから余計な事はせず、ネクロマンサーとして生きていく。

今後死ぬまで孤独な生き方になるだろうが、諦めるしかない。


ああ、こんな風に私を生み出した神が恨めしい……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る