第90話 備え
「ふぅ……」
ガイオス達を何とか追い返し、ソファに身を持たれかけさせため息をつく。
あいつら、しつこいったらありゃしなかったからな。
「にしても、戦争かぁ……」
聞きたくもない話だった。
いやまあ、実際は早めに聞けて良かったとは思うが。
何も知らずにいきなり戦争が始まるよりましだからな。
「マイロード。備えておいた方がいいかもしれません」
「備え?」
国同士の戦争において、辺境の男爵家に出来る事など何もない。
精々、徴収令が出たらポーションを収めるぐらいである。
なのでジャガリックに備えと言われても、ピンとこない。
「ポロロン王国が戦争に負ける可能性もあるからのぉ」
タニヤンがどこからともなく姿を現す。
相も変わらず神出鬼没な爺さんである。
まあ爺さんと言っても、俺と同い年らしいけど……
タニヤンは人間視線で老けて見えるだけで、実はかなり若かった。
因みに精霊達の年齢は、ポッポゥも俺と同い年の15歳で。
カッパーとジャガリックが一つ下の14歳である。
何気に全員同世代なんだよな……
「戦争に負ける可能性……か。まあ確かに、その可能性もあるな」
ガイオスが余りにも自信満々だったから、ついつい国が勝つって勝手に思い込んでいたが、確かに勝てるとは限らない。
そうなった場合、スパム領もポーションだけ献上してればいいだけって話ではなくなって来る。
「まったく……ペカリーヌ王女も、皇帝に余計な事を吹き込んでくれたものだ」
まあその事で彼女を責めるのは酷だろうが。
救う方法を聞かれ、それを素直に伝えただけな訳だからな。
ペカリーヌ王女もまさか、グラント皇帝が自分の命惜しさだけに戦争を起こすなんて考えもしなかっただろうし。
「しかし備えって言ってもなぁ。俺に出来る事って、ほとんどないような……」
「マスター!もし帝国が攻めてきても、全てこのポッポゥが切り伏せて見せましょう!ですのでご安心を!」
「ああ、うん。ありがとう」
意気込みは有難いが、この領地まで敵が攻め込んでくる状況ってほぼ負け確なんだよなぁ……
その状況なら降参か逃亡を選択する事になるので、ポッポゥがその剣の腕を思う存分発揮する事は恐らくないだろう。
「ほっほっほ。相変わらずポッポゥは脳筋じゃのう。じゃがまあ……わしらが何とかすると言うのは名案ではあるがのう」
「ん?どういう事?」
「我々が強くなれば、打てる手は増える……という訳じゃ」
「それって……ランクアップさせろって事か?」
「まあ有体に言えば、そうなりますかな。わしらが全員ランクアップすれば、恐らく精霊草の収穫量も今の10倍以上に跳ね上がるでしょう」
「今の10倍……」
ポーションは現在、月300本ほどの量産体制だ。
それが10倍の3,000本以上になるのはかなり大きい。
金銭的なのもそうだが、戦争になった際、それだけの数を定期的に供給できるのなら、この国が戦争に勝つ可能性もぐっと上がる事だろう。
「それは魅力的な話だけど……いいのか?次のは、苦痛が一月近くかかるんだろ?」
ポイントはこの冬で結構ためてあるので、全員をランクアップさせるのわけない。
が、問題は苦痛の方である。
俺が彼らの立場なら、絶対にオーケーは出さない。
拷問の様な激痛を一月受け続けるとか、考えるだけで身震い物だから。
領主である俺がそう思うぐらいだ。
人間ですらない彼らは、最悪、全てをを放り捨ててこの領地から逃げ出せばいいだけなのだから、余計にそうであるはず。
「この誇り高き騎士ポッポゥ!痛みになど屈しは致しません!どうかご命令を!マスター」
ポッポゥが剣を引き抜き、それを掲げる。
剣を抜いた意味は兎も角、その意気込みは素晴らしい。
が、俺の知る限りお前は前の段階の時点で苦しくてコロセコロセ喚いてた訳だが……本当に大丈夫か?
「ほっほっほ。ただの苦痛ならわしも出来れば受けたくはない所じゃが、メガ精霊へ生まれ変われる訳じゃからな。此方にもちゃんとメリットはある。それも特大なのが。なので、エドワード殿はその事については気にせんでもよいぞ」
「タニヤンの言う通りです。マイロード。どうか我らに新たな力をお与えください」
精霊は全員、ランクアップを受ける気の様だ。
ああいや、この場にカッパーはいないから全員ではないか。
あいつは絶対嫌がりそうだしな。
にしても、次はメガ精霊か……
特大の時にも考えていた事だが、種族名(?)がとにかくダサい。
いったい誰がこの名前を考えたんだろうか?
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