第84話 完売

冬が過ぎ、春が訪れる。

環境が今までと変わったボロンゴ村では死者はもちろん、重い病気を患うものもいなかった。


今まで冬場は一人二人は亡くなっていたそうなので、色々手回しした買いがあったという物である。


「スパムポーションは出荷と共にほぼ完売した様です」


オルブス商会から届いた報告書に目を通したジャガリックがそう伝えて来る。


「早いな」


出荷したのはほんの数日前だ。

因みに、販売流通は全てオルブス商会に任せてある。


あそこには結構……と言うか猛烈に支援して貰ってるからな。

事情ありきとは言え、その働きに報いる意味も含めてスパムポーションの販売は全面的に彼らに任せたのだ。


「どうやら貴族達がその多くを購入していった様で」


貴族は冒険者と違ってそうそう怪我などしない。

が、だからと言って怪我をしない訳ではないのだ。

大きな怪我をした際に、携帯しやすくしかも素早く回復できる絶大な効果のポーションがあるのなら、常備用に飛びつくのは決して不思議な事ではない。


後、騎士団なんかへの配布もあるな。


とは言え……


販売されたばかりの、それも冒険者界隈と言う下層民の間で噂になっている薬など、貴族が飛びつく訳もない。

信用もくそもあったもんじゃないのだから。


それがバンバン売れたという事は――


「さすが、領一とうたうオルブス商会ってところか」


それを何とかして、貴族に売り込んだのは間違いなくオルブス商会の手腕と言えるだろう。

跡取り息子の教育はダメダメだったが、商人としての腕前は本物と言わざるえない。


「報告書には、次回入荷の予約も殺到しているとの事です」


良い傾向である。


「ポイントも溜まってきたし、お金も結構な額が転がり込んでくる。順調だな」


ポイントはこの冬の間に10万ポイントは溜まっていた。

日々のデイリー消化のおかげ……な訳は当然なく、タゴルとエクスの死の森への遠征である。


……いやほんと、二人はよく頑張ってくれてる。


続けたら絶対そのうちタゴルから文句が出て来るとばかり思っていたが――でても続けさせるけど――今の所そういう事はない。

ああ、内にため込んで口に出してないって訳じゃないぞ。

信頼度は下がってないからな。


寧ろ信頼度は、この冬で一気に80%にまで上がったぐらいだ。


え?

何かしたのか?


特に何もしていない。

なんか気づいたら上がってた。


俺が思うに……


ボロンゴ村は冬の旅に死人が出るような環境だった。

それなのに今年は快適に過ごせたことで、俺のありがたみに気づいたんだと思う。


たぶん。

恐らく。


まあどう考えても、その可能性以外ないしな。


まあなんにせよ、領地の運営は極めて順調だ。

冬の間は降雪のために一時止まっていた人口の流入も、雪解けとともに再開されたし。

今の増加速度なら、来年あたりには次の町の建設に取り掛かかっていいぐらいだ。


「さて、入った金は何に使うべきか……」


精霊草は毎月出荷する。

ただため込むだけと言うのはあれなので、どう使うか考えないとな。


やっぱボロンゴ村の発展に使うのが無難かねぇ。

環境が良くなったとはいえ、それでもまだ普通の町なんかに比べたら足りない物ばかりだし。

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