第81話 風の噂

「はーだるい」


中庭で日課の運動デイリー消化していると、唐突に池から巨大な水しぶきを上げてフェンリルと一緒に飛び出てきて来て文句をぶーたれる。


「もうあの脳筋組の死の森の訓練とか無くてもよくないですか?」


現在、タゴルとエクスによる死の森の二回目の訓練が行われていた。

当然それにはカッパーの分身も同行しているので、彼女の愚痴はその事についての物だ。


「むしろ俺としては、終生続けて欲しいぐらいんなだが?」


そう、俺かタゴル達の寿命辺りが尽きるまで。


なにせ俺自身は何もせずともポイントががっぽがっぽのボーナスステージな訳だからな。

どうせ騎士としてお真面な仕事などないのだから、彼らには一生涯現役で頑張って貰いたい所存である


「フォカパッチョは鬼ですか?」


「貴族ってのはそういう生き物だ」


下の物を上手く利用していい生活をする。

それが貴族という物だ。

もちろん、可能な限り下の人間の生活を潤滑に行えるよう配慮はするが。


……ま、それも結局自分の利益になるからってのが大前提だけど。


民の暮らしが安定してこそ税収アップが見込めるという物。


「ぷぎゃ!」


俺がカッパーと高度な政治の話をしていると、つまらないとばかりにフェンリルが頭を擦り付けて来た。

この数か月ほどで鶏程度だったこいつも、いまや大型犬レベルにまで大きくなっていた。


白い羽毛に包まれた鳥っぽい姿はそのままだが。


「おいおい、ぐいぐい頭を押し付けんな」


サイズからも分かる通り、もう既に結構なパワーだ。

なにせ最強クラスの魔物だからな。


「ぷぎゃぷぎゃ」


「ぬぐぐぐ」


下がったら下がっただけ、フェンリルが俺に迫り頭を押し付けて来る。

こいつに甘えてこられると、俺としてはまるで相撲している気分になってしまう。


「押されてますよ。こんな子供相手にフォカパッチョは情けないですねぇ。もっと体を鍛えるか、ランクアップで強くなったらどうです?せっかくポイントを稼いでいるんですから」


カッパーがフェンリルの上に乗っかり、偉そうな事を言ってくる。


「子供でもドラゴンだろうが。それと……ランクアップは死んでも断る」


何が悲しくて、じゃれつくドラゴンの為だけにあんな苦痛に堪えにゃならんのだ?

俺が拾ってきたのならまだしも、カッパーが勝手に孵したペットのためにそんな事をする気は更々ない。


「つうか見てないで離れるように言ってくれ。これじゃデイリー消化の運動が出来ん」


フェンリルは甘えて来る割りに俺の言う事を一切聞かない。

コイツを動かせるのはカッパーだけだ。

孵化させたから、彼女の事を母親だとでも思っているのだろう。


「人には働かせておいて、自分だけ楽をしようとするのは頂けませんよ」


く……正論を……いや、別に正論でもないか。

必要だから働いて貰っているのであって、フェンリルとのこの相撲は必要でも何でもない。

なので比較する意味自体ないのだ。


「これカッパー、いい加減にせんか。お前が止めぬのなら、わしが風でそやつを吹き飛ばしてしまうぞ。良いのか?」


「む……しょうがないですねぇ」


タニヤンに注意され、しぶしぶと言った感じでカッパーがフェンリルにや止める様に言う。


「はぁ、やっと解放された……ありがとう、タニヤン」


タニヤンは基本姿を消したままの忍者みたいな奴なので、とりあえず声のした方に向かってず礼を言っておく。


「いえいえ、困ったときはいつでもわしに一声おかけくだされ」


「そうするよ」


カッパーは人の言う事あんまり聞きやしやがらないからな。

彼かジャガリック――今は用事で出かけている――に頼むのが一番だ。


「そうそう、エドワード」


「ん?」


「わしの仕入れた風の噂によると……どうやらエルロンド教の聖女が代替わりする様ですぞ」


「へー、そうなんだ」


エルロンド教は、この世界最大の宗教だ。

その影響力は大きく、いくつかの国で国教に据えている程である。

まあこの国ではそこまででもないが。


「どうやら、現聖女がもう長くないようですな」


そうとう高齢だと聞くし、まあ寿命なんだろう。

しかし風の噂って、いったいどこから仕入れて来たんだろうか?

謎である。


まさか風繋がりでそういう権能があるとか?


ま、流石にそれはないか。

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