第74話 ゴールデン

マッチョメン。

それは筋骨たくましい男性6人によるパーティーだ。

パーティーランクは国内に数組しかいない黄金級であり、その構成員は全てAランクの冒険者となっている。


――そんな男くさいパーティーは今現在、死の森の探査を行っていた。


探索隊は全部で4隊。

基本白銀級2パーティーに、補助役の黒鋼パーティーを付けると言った構成だったが、マッチョメンだけは単独行動を行っていた。

それだけ黄金級が規格外という事の証である。


「二日間で出てきた魔物は大半がDランク。どうやら外周部には大した魔物はいない様だな。まあ他の隊とすり合わさなければ確定はしないが」


Dランクモンスターはバラックボア程度と思って貰えればいいだろう。


「ははは、楽勝過ぎて欠伸が出そうだ」


黄金級パーティーであるマッチョメンにとって、Dランクの魔物は取るに足らない相手だった。

そんな彼らからすれば、


「油断はするなよ。中にはスキル持ちがいるかもしれないからな」


スキル持ちは同じ魔物でも、その強さに大きな差が出て来る。

タゴル達の村を襲ったバラックボアがいい例だろう。

強力なスキルを発動させたあの個体は2ランク上のBランクに匹敵するほどだった。


「ああ、分かってる。にしてもあれだな、まさかエクスの奴が騎士になっちまうなんてな」


「そうだな。最初女装を始めた時は気が狂ったのかと思ったが……」


マッチョメンの面々はエクスが女性として振舞い、生きる事が駄目だとは思ったいなかった。

それぐらいを受け入れられる度量はあり、何より彼とは長い付き合いと友情があったのだ。


だが彼らは、国に数パーティーしか存在しない上位の黄金級パーティーである。

言ってしまえば冒険者の顔であり、規範とならなければならない存在だ。

そんな彼らが珍獣と化したエクスと共に行動するのは、あまりにもその影響が大きすぎた。


だから追放するしかなかったのだ。

黄金級パーティーとしての品格を守るために。


「あいつ、化粧してなかったな」


エクスを追放する前、マッチョメン内で何度も話し合いの場が持たれていた。

簡単に追放した訳ではない。

その中で、狩り中は構わないが正式な場でだけは化粧を落として男の格好をしてくれないかという案も出ていた。

だが、エクスはこれに首を縦に振る事はなかった。


女として生きると決めた彼にとって、人前でこそ化粧は必要だと言う考えがあったからだ。


そんなエクスが化粧をせず、騎士の正装をしていた事に彼らは驚きを隠せなかった。

もちろんベテランである彼らは顔や態度には一切出していなかったので、エドワードなどは一切気づいていなかったが。


「化粧を落としても惜しくない程の方って事だろうな。スパム男爵は」


「主君の為に自分の生き方や信念も曲げる……か。本当にいい相手に巡り合えたようだな」


「そうみたいだな。あのエクスが本気でほれ込んだ相手だ。なんだったら、俺達も騎士として雇ってもらうか?」


「馬鹿を言うな。どんな理由だろうと、俺達はエクスを追い出したんだ。どの面下げて、また一緒に働こうなんて言うつもりだ」


「ま、そりゃそうだな」


「だいたい、俺達に騎士みたいな礼儀正しいのは似合わねーって」


「ははは、違いない」


談笑を打ち切り。

マッチョメンの面々が、死の森を進んでいくと――


「ん?あれってひょっとして」


メンバーの一人が、金色に光る物体に気づいた。


「おお、マジか!?」


「ゴールデンスライムじゃねぇか」


ゴールデンスライム。

Cランクに分類されるスライムが、突然変異を起こして生まれるモンスターだ。


そのゼラチン状の体液は精製する事で効果の高い美容液になるため、貴婦人などに大人気な商品の素材として高額で売買され。

その中心となる核――心臓は特殊なマジックアイテムの素材となるため、こちらも超高額になっている。


そのためゴールデンスライムを一匹狩れば、一般的な冒険者の数年分の儲けになると言われていた。

なのでいうまでもなく、冒険者にとってはお宝の様な存在となっている。


――ただし、狩るのはそう容易くはかった。


まず第一に、変異体はそうポンポン生まれて来る物ではない点だ。

発声は極低確率であり、そのため数が極端に少なく見つけ出す事自体が困難となっていた。


第二に、ゴールデンスライムは人を襲わず、むしろこちらの姿を見つけると即座に逃げ出してしまう程臆病な点だ。

しかもその移動速度はとんでもなく早く、たとえ見つける事が出来ても、そのまま逃げられてしまう事が多い。


某有名ゲームの、メタル系モンスターを思い浮かべて貰えば分かりやすいだろう。

まあこちらは、とんでもなく硬いという事はないが。


「俺に任せろ!」


「任せたぞ」


メンバーの一人が駆けだす。


「ダッシュ!ダッシュ!ダッシュ!ダッシュ!」


ダッシュと叫びながら。


これは別に掛け声ではない。

スキルを発動させているのだ。


そう、スキル【ダッシュ】を。


ダッシュは、ごく短距離を高速で一気に詰める為のスキルである。

通常、対峙している相手との間合いを一気に詰めたり、攻撃を回避するために使うのが正しい使い方で、逃げる相手を追うために使う様な事はしない。


何故ならこのスキルは、スタミナの消耗と足にかかる負担が大きいからだ。

連打などしようものなら、あっという間に息が上がって足が疲労で真面に走れなくなるだろう。


「ダッシュ!ダッシュ!ダッシュ!ダッシュ!」


だが男は、そんな事などお構いなくスキルを連打する。

それが可能なのは、彼が常軌を逸したスタミナと鍛え抜かれた脚力があったためだ。


――Aランク冒険者は伊達ではない。


「おせぇ!」


尋常ではない速度で男が迫り、それに気づいたゴールデンスライムが逃げ出そうとするが、そんな隙を与える事なく男は手にした大斧でその体を真っ二つに切り裂いた。


「へっ!俺の手にかかれば――って、足がぁ!足がぁ!」


格好つけようとしたところで、男の足に無茶をした代償の痛みが遅れてやってきた。

その激痛に、彼は思わず足を抑えてその場に転がる。


「おいおい、なっさけねぇな」


「うるせぇ!マジで死ぬほど痛いんだからな!」


「ははは。まあでもこれで大儲けだ」


黄金級パーティーにとっても、ゴールデンスライムによる収入は馬鹿にできないレベルだ。

探索で狩った魔物の素材は自由にしていい事になっているので、彼らにとっては大きなボーナスといえるだろう。


「にしても……ゴールデンスライムが湧くとなれば」


「こいつは人気狩場になりそうだな」


ゴールデンスライムはスライムが変異した物である。

それは間違いない。


だが、どこのスライムでも変位するという訳ではなかった。

でない所では一切でず。

一度現れた場所では定期的に姿を現す事から、何らかの条件があると推定されていた。


そして死の森で一匹発見された今、この狩場はゴールデンスライムの湧く狩場である事が確定したのだ。


「知らせを聞けば、皆色めき立つだろうな」


「ああ。と調査のために遠征してきた奴らも、ここをホームにするかもな」


「いっそ俺達もここで活動するか?」


「馬鹿言うなよ。金目当てでコロコロホーム変えたら、それこそマッチョメンの格が下がっちまう」


「ははは、まあそうだな」


皆色めき立つ。

その言葉通り、やがて死の森はゴールデンスライム目当ての冒険者達が押し寄せる事となり、男爵たちの予想を超える速度で町を発展させる事となる。


一つ懸念点があるとすれば、ゴールデンスライムが邪霊神ターミナスによって意図的に生み出されたものであるという点だ。


果たして、邪霊神は何を思いそのような真似をしたと言うのか……

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