第35話 理不尽だ
「あら、綺麗」
「おお、これが欲しかったんだ」
村に着いて早速物資を運び込む。
買い出しの大半は冬を越すための保存用の食料や塩などの香辛料、それに布や金属なんかの服を縫製したり農具を手作りするための素材類だ。
貧しい村なので、身の回りのものは基本手作りだからな。
金が入ったんだから贅沢させろ?
金があるからってあるだけ使ってたらきりないだろ?
別に村事態の収支が爆上がりした訳じゃないんだから、質素倹約は続けて行って貰わないと困る。
因みに家畜類は一切乗っていない。
流石に、町に行っていきなり買い揃えられるような物じゃないからな。
なので家畜はオルブス商会に頼んで、後々村に搬入して貰う手筈となっていた。
「お、俺……これからどうなってしまうんだ……」
村人総出で運び出したので、6台あった馬車はあっという間にカラになる。
空になった荷馬車の一台を覗くと、その隅で膝を抱えて丸まっているカンカンの姿があった。
「ふむ……とりあえず取って食う訳じゃないから、震えてないで出て来い」
怯えているカンカンに声をかける。
単に普通に働かせるだけで、別に彼に酷い事などするつもりはない。
まあやりたい放題やってたぼんぼんにとっては、肉体労働は苦痛以外の何物でもないのだろうが、そんな事は流石に俺の知った事ではないからな。
「うういやだぁ……家に帰りたい……」
が、カンカンはブルブル震えてべそをかくばかりで、荷馬車から出てこようとしない。
見事な現実逃避っぷりである。
これが死刑囚とかなら俺も少しは同情していたのだろうが、コイツのやってる事は要は『働きたくないでござる!』だからな。
同情する訳もない。
なので馬車から引きずり降ろさせてもらう。
いつまでもこいつが乗ったままだと、片付けられないし。
「タゴル。彼を引きずり出してくれ」
ちょうど傍にいたタゴルに頼んだら、彼はあからさまに不機嫌そうな顔をする。
信頼度は絶賛低空飛行続行中だ。
果たして彼がデレる日はやってくるのだろうか?
「おい、降りろ」
「ひぃぃぃぃ……」
タゴルが荷馬車に上がり、片手で軽々と、80キロぐらいはありそうなカンカンの首根っこを掴んで持ち上げた。
とんでもない怪力だ。
流石筋力Aランクである。
「ちょっとお兄ちゃん!そんな乱暴に扱ったら可哀そうでしょ!」
「俺はこういう根性なしが一番嫌いなんだよ」
タゴルは根性第一主義の様だ。
まあ以前のこの村は、根性出していかなきゃ生きていけない様な環境だったから、そうなるのも頷けはするが。
「ふぎゃ!?」
タゴルに放り捨てられたカンカンが、顔面から地面に着地する。
「ぐっ……うぅ………」
「ああもう!大丈夫?」
その場ですすり泣きだすカンカンにアリンが駆け寄り、タゴルを強く睨みつける。
仏頂面で妹以外の他人に厳しい兄に。
いつも笑顔で誰にでも優しく接する妹。
ほんっと、兄妹なのに性格が両極端である。
「ううぅぅぅぅ」
「ほらほら泣かないで、男の子でしょ」
「……」
アリンに睨みつけられたタゴルが、彼女の視線が外れた瞬間、何故か俺を睨みつけて来た。
まさか俺のせいで妹に怒られたとでも言いたいのだろうか?
信頼度を確認すると、見事に3%にまで下がっていた。
完全に初期値割れである。
「世の中理不尽だらけだ……」
カンカン照りの空を見上げ、俺はやるせなさにそう呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます