第17話 ギフト
「死ぬより辛い……」
「俺達はそんなのに耐えないと駄目なのか……」
カッパーの言葉に村人達が動揺する。
無駄に不安を煽りやがって。
「へっ、痛み如きにビビってんじゃねぇよ!どんだけ辛くても俺は耐えてやらぁ。村が無くなるよりマシだからな」
そんな中、先ほど村人達を一喝した青年が声を上げる。
「タゴルの言う通りだな。俺達はずっと苦しい中やって来た。痛みの一つや二つ、今更ビビッてどうするってんだ」
「そうだな。苦しさに耐えるのだけは、俺達は誰にも負けねぇ」
「そうだそうだ!」
「三途の川なんて蹴っ飛ばしてやろうぜ!」
「おお!俺達で村を守るぞ!」
それに他の村人達が同調しだす。
劣悪な環境で生きて来た人たちだけあって、流石に逞しい。
俺とは大違いである。
……いやまあ、俺だって自分の命がかかってれば頑張るか。
「静かに!話を聞いてくれ!」
やる気を出して盛り上がってるところ悪いが、俺は大声で一喝する。
襲撃までもう3時間しかないので、出来るだけスムーズに話を進めていきたい。
「まず……確かに強化には激痛が伴う。ただ彼女の場合、特殊な強化を施したからとんでもなくきつかっただけで、皆の場合はそこまでじゃない筈だから安心してくれ」
まあどこまで上げるかで変わって来るが、ポイント的に上げるのはB+ランク位になると思うので、カッパー程きつくなる事はないはず。
……たぶん。
「それと全員を強化する事は出来ないから、施すのは最低限戦える人間に絞る。女子供や老人以外だ」
戦えない人間を強化してもポイントの無駄遣いにしかならないので、当然除外する。
数千ポイントあるとは言え、装備のランクアップまで考えると、ポイントが足りるかも怪しいレベルだしな。
「当然だな」
「嫁やガキに痛い思いさせて戦うなんてありえねぇ」
「そもそもガキや女房が近くにいたら、気が散ってとてもじゃないが戦えないからな」
俺は村の戦えそうな男連中――25人――の筋力と敏捷性を、鑑定でざっと確認する。
殆どがからD+からC-程度だ。
Cランクは1段階で8ポイント。
そしてBランクはその倍になると思われるので、1段階16ポイントになる。
おおよそ一人64ポイントで、25人を上げる際に必要なポイントは1,600。
敏捷性と合わせて考えると3,200ポイントもかかる。
うーん。
敏捷性は押さえて、その分武器に回すべきか……
村人達が扱う武器は、木の棒に鉄の刃先をくっつけただけの粗末な槍や鉈などになる――死の森から帰還した人たちが手にしていた。
いくら筋力が強くても、武器が弱いと話にならない。
なので武器の強化も必須だ。
それに武器に回した方が、村人の負担も減る。
まあ取りあえず、まずは筋力を上げるか……
「戦える自信のある者は前に出て来てくれ。今から筋力を上げる。言っておくが、無理して戦うなんて考えないでくれ。最悪足手纏いになりかねないからな」
俺の言葉に、男達が前にでる。
見立て通り25人。
と言いたい所だが、何故かその中に女の子が一人混ざっていた。
年齢的には13、4歳位にみえるので、思いっきり女子供の両方が当て嵌まっている訳だが……
「アリン!何のつもりだ!お前は下がってろ!」
「私も戦えるわ!」
体の大きいタゴンに一喝されるが、少女は臆さず怒鳴り返した。
気の強い子である。
「なんだと!」
「お兄ちゃんだって私の弓の腕は知ってるでしょ!」
どうやらアリンという少女は、タゴンの妹の様だ。
そう言えば心なしか顔立ちが似てる気がするな。
「ふざけんな!あんな木で出来たオモチャが通用する訳ねぇだろ!引っ込んでろ!」
「目や口を狙えば木の矢だってちゃんと役に立つわよ!あたしの弓は百発百中なんだから!」
「うるせぇ!良いから引っ込め!」
「言い争いはそこまでだ」
二人の間に俺は体を割り込ませる。
ギャーギャー兄妹喧嘩を続けられても敵わないというのもあるが、俺はある事に気付いたからだ。
――それはアリンが口にした百発百中である。
この世界にはスキルがある。
神から送られる
基本的に貴族などの貴人以外が手に入れる事は稀なのだが、一般市民の中には極まれに手に入れる者がいた。
……やっぱり、この子はギフト持ちだ。
鑑定で確認すると、彼女には名射手というスキルが備わっていた。
名前から分かる通り、これは弓を扱う際に大きな補正の乗るスキルだ。
「彼女にも戦闘に参加して貰う」
木でできた弓矢では、確かにボアに真面なダメージは通らないだろう。
だが彼女の言う通り、弱い部分を狙えば痛みを与える事は可能だ。
……それに装備はランクアップさせるからな。
装備の強化に加え、彼女の筋力を上げれば戦力として十分期待出来るはず。
いや、下手をしたら他の男連中の活躍だって期待出来るだろう。
「な、何言ってんだテメェ!ふざけん――がっ!?」
タゴルが俺に掴みかかろうとするが、その手はなにも掴む事無く彼はそのまま地面に突っ伏してしまう。
腕輪による防御機能だ。
「今確認した所……彼女にはギフトが神より与えられている事が分かった。だから彼女には戦闘に参加して貰う」
「ふざっけんな……ぐっ……くそ……」
タゴルが地面で藻掻く。
まあ、妹を危険にさらしたくない気持ちが分からない訳ではない。
だが――
「俺も女の子を戦いに加えるのは俺も気が進まない。だがこれは村の命運がかかった事だ。異論は受け入れない」
「ぐぅぅぅ……」
タゴルが地面に頭を付けたまま、凄い目つきで俺を睨んで来る。
……こりゃ村人の信頼を得るってクエストの達成は無理だな。
この様子だと、彼は絶対俺を信頼したりはしないだろう。
だがまあいいさ。
俺は村を守る事を優先する。
死んだらクエストも糞も無いからな。
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