第8話 照れ臭い
「こちらで御座います」
村の中止部分にある唯一の井戸へと俺は案内された。
「領主様……ほ、本当に水を出して頂けるんでしょうか?」
途中、爺さん――村長だった――が家々に声をかけ、井戸の周りに集まった村人達が期待と不安の混じった声でおずおずと尋ねて来る。
彼らは総じてボロボロの肌に、生気のない目をしており、その唇はひび割れていた、
「こ、これ。領主様に失礼ではないか」
「も、申し訳ありません」
村長に注意され、尋ねた村人がその場で膝を突いて頭を下げる。
日本で言う所の土下座だ。
今までの管理者が余程酷かったんだろうな……
その態度から、これまでの管理者が彼らをどう扱っていたのかが察せられる。
ずっと迫害され続きたせいで、領主の行動が信じられない程、彼らは上の人間に不信感を抱いている様だ。
「気にしなくていいさ。安心してくれ。この村に滅びられたら俺も困るし、ちゃんと水は出すさ」
井戸を鑑定するとFのマイナスと表示される。
まあ水が底をついているんだから当りまでだよな。
水のない井戸なんて、只の深い穴でしかないんだから。
20ポイントでAまで出来るな……
水を増やすだけだからか、かなりリーズナブルだ。
この後も色々とランクアップさせないといけないので、少な目で済むなら有難い。
水をケチる訳にはいかないから。
「よし、じゃあ――」
ランクアップをサクッと済ませ、井戸から水を汲み上げる。
「お、おお……」
「水だわ」
「本当に水が……」
その光景に、周囲の村人たちが感嘆の声を上げる。
「さあ、遠慮なく飲んでくれ。いくらでも補充可能だから遠慮する事はない」
「お、桶を持ってきます」
「私も」
汲んだ水をその場で飲む者。
慌てて桶を取りに帰る者。
村人達が水に飢えていた事が良く分かる。
「ありがとうございます領主様」
「ありがとうございます」
村人の心からの感謝の言葉に、照れを隠しつつ俺は笑顔で頷く。
大勢から感謝されるとか、今までの人生に無かったからな。
照れ臭くてしょうがない。
さて、生活用水不足は一応解消した。
だがそれだけでこの村の問題がなくなる訳ではない。
水はあっても食料がないからだ。
……次は食料を何とかしないとな。
森に行った村人達が何か食べられる物を手に入れているかもしれないが、大して期待はできない。
持ち運べる量なんてたかが知れてるからな。
なので他の手が必要となる。
パッと思いつくのは畑の立て直しだ。
畑の作物はほぼ全て枯れている状態――村長談――なので、今更その状態の畑に水をやってもまともな収穫は望めないだろう。
だがランクアップなら。
そう、ランクアップなら畑を復活させられる可能性はあった。
死んだ作物を復活なんて普通のスキルでならあり得ない事だけど、これは神から与えられたスキルな訳だしな。
なのでランクアップでの復活は十分期待できる。
出来なかったらその時はまた別の手を考える必要があるが……
パッと頭に浮かんだのは、村人達をランクアップで強くして死の森で狩りをする事だ。
ただ魔物と余裕で戦えるぐらい強くしようとすると、とんでもない痛みを伴う事になるだろうし、出来ればそれは最後の手段にしたい所である
え?
お前が強くなって無双しろ?
はっはっは。
御冗談を。
……どんなだけくそ痛いと思ってんだよ。
今後は余程の事がない限り、自分をランクアップさせるつもりはない。
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