第28話
頑張るポイントを見つけよう
キーロフ平原名物の朝靄が立ち込め、上りかけの朝日の光を和らげていた。
ロリは大きなあくびをしながら、ベッドから降りた。となりを見ると、ユズはまだ柔らかい布団の中でまるまっていた。
窓を開け、新鮮な空気を取り入れながら庭を眺めていると、微かに声が聞こえた。
「エミリアか?」
建物から少し離れた芝生の上で剣の素振りをする小柄な姿が見えた。
ロリは少し興味を持ち、部屋を出ようと窓を閉め、振り向くとそこには昨晩、ロリたちをもてなしたメイドが音もなくかしずいていた。
「…………外へ出る。」
頷いたメイドは立ち上がり、ロリを連れて部屋を出た。そして、椅子に腰をかけさせて顔を洗い、蒸しタオルで寝汗をかいた体を拭き、髪を整え、服を着替えさせた。この間、ロリは一切自分では何もしなかった。
メイドをともない、庭に出ると息を切らせてレイピアを振るエミリアの姿があった。しかし、その様子は剣の振り方を覚えていないロリの目からしてもあまりうまいとは言えないものであった。
「努力は、しておるのじゃのう。」
「はい。陞爵(しょうしゃく)されてから毎日です。」
「確かに、善き領主たらんと努めておるのじゃろうのう。」
しばらく、ロリはエミリアの鍛錬を見つめていたが、回れ右をして、屋敷へと足を進めた。
「少し、体が冷えたのじゃ。茶を所望するのじゃ。」
「はい。」
ロリが客のための応接室でお茶を楽しんでいるところで、ユズが起きてきた。
「ろ、ロリちゃん!! ここはどうなっているんですか!? 起きたら服を脱がされて、体を拭かれて、着替えまでされたんですよ!!」
「落ち着くのじゃ、ユズよ。高貴なるものは自分でそのような雑事はしないのじゃ。すべて任せておけば良いのじゃ。」
「そ、そうなの……?」
「そうじゃ。それよりこちらへ来るのじゃ。お茶を付き合え。」
「う、うん……。」
ユズが席に着こうとすると、すかさずメイドが彼女のために椅子を引いた。ユズは背後を取られ、動揺を隠せずにいたが、ロリに促されるまま、おそるおそる椅子に腰をかけた。
「おめざの菓子でも食べるのじゃ。そち好みの甘さじゃと思うがのう。」
「う、うん。」
出されたお菓子はナツメグとアーモンド、そして蜂蜜を使った一口大のパイだった。少し渋目の緑茶とともに口に運んだ。
「おいひー。朝からしあわせ!!」
「よかったのう。妾にすれば、少し甘すぎかのう。一つか二つ摘めば満足じゃのう。」
その後、朝食の準備知らせてきたメイドに連れられて食堂に向かうと、ジェンセンが顔を出した。急遽エミリアは顔を出すことができないと謝罪された。
「気にすることはないのじゃ。それよりも何か情勢が変わったのか?」
「いえ、そういうわけではありませんが、今後のことを考えて、できる仕事を前倒ししておこうということで…………。」
「そういうことなら、ますますじゃ。熱心で何よりじゃ。ここにいるのはギルドマスターから依頼された冒険者のパーティーじゃ。気にすることはないぞ。」
焼きたての麦の香りの強いパンをちぎって口に入れながら、ユズは頷いた。
「ジェンセンよ。あとで地図を借りてもよいか。少し検討してみたいのじゃ。」
「はい。後ほどお部屋にお持ちいたします。」
朝食後、ロリとユズが客間に戻ると、部屋には数枚の羊皮紙や何か大きな獣の皮をうすくなめしたものがテーブルの上に置かれていた。
「手回しが良いのう。」
「これ全部、地図なの?」
ロリは順々に開いてゆきながら頷いた。
「そのようじゃな。ほほぅ、軍用の地図までとはな。信頼されておるのじゃ。」
「地図を見せてもらって、信用されているってわかるの?」
「地図はそのまま、国の機密じゃ。どこに軍を進めてよいのか。どこが守りが堅いのか、逆にどこが弱いのかがわかるのじゃ。
だから、国によっては明確な地図を作ることを嫌がるところもあるそうじゃ。
さすがに王国全土の地図はないが、ロートバルト領の詳細がわかるのう。」
「女男爵(バロネス)だったっけ? そう聴くとずいぶんと思い切ったよね。」
「そうじゃの。さて、これを持ってチハたんのところにゆくぞ。そちらは外で広げられるようにテーブルと椅子を我らの乗ってきたチハたんのそばに置くのじゃ。」
ユズはロリの後半の言葉に驚いた顔をしたが、ロリの目線を追うと、いつのまにか控えていたメイド二人が深々とお辞儀をした。
朝霧が晴れ、昨晩の雨も上がったロートバルトは抜けるような高く青い空で、地面の芝生は朝露にぬれて、爽やかな朝日を反射していた。
音もなく増えたメイド達は前庭に鎮座するチハたんの前に白いテーブルと三脚の椅子が置かれ、その脇には見たこともないほど大きな傘が地面に刺され、外に出た二人の日よけになっていた。
「わたし、侍女とかメイドさんとかよくわからないんだけど、ここの人たちは有能過ぎない?」
「一領主の館の使用人にしては上出来じゃのう。」
「そんな感じでいいの? 音もなく後ろを取られるとか、とても怖いんだけど。平原を歩いているときは、自分でも過敏かなぁって思うくらい気配に敏感だったのに。」
「あまり気にすることはないのじゃ。それより妾には炭酸水をもらえぬか? ユズは何を所望するのじゃ。」
「じ、じゃあ、同じもので。」
「はい。」
一人のメイドが屋敷へと戻った。ロリは一枚の地図を開いた。
「まったく持って情報不足でありますな。」
「おお、チハたんか。起きておったのか?」
「はい。」
「うむ。チハたんの時代からすれば、そうじゃろうと思うが、この世界では大体このようなものじゃ。これを見て何か気がつかんか?」
「はい。真っ平らで障害物が見当たりませんな。」
「うむ。攻めやすく、守りにくいとはこのことじゃ。小鬼どもはどこからやってきてもよいが、こちらはどこから来るかわからん。じゃから城壁全てを取り囲む必要があるのじゃ。」
「せめて誘導ができればよいのですが、それも難しそうですな。」
「しかしこういうものもある。」
ロリがもう一枚の地図を開いた。それは茶色く変色した地図で先ほどよりも線が多かった。
「なんでありましょうか。ずいぶん古い地図でありますな。…………ふむ、これは川でありますな。今はありませんので、だとすると枯れた川なのでありましょうか。」
「多分な。平原での採集のルートになっているのではないだろうかと思うのじゃが。」
「確認したほうがよろしいと思われます。うまくゆけば誘導ができると思われます。」
「だけど、数千ほどの小鬼(ゴブリン)が押し寄せて来ると溢れてしまいそうですね。……あっ、ありがとうございます。」
そっと冷えたカップを差し出されて、やっとメイドの存在に気がついたユズはチハたんとの会話を聞かれて気まずい表情を浮かべて礼を述べた。
明らかに無機物に話しかけていたユズに表情を変えず、深々とお辞儀をしてメイドは下がった。
ほおを赤らめて飲んだ炭酸水は柑橘系の果実と蜜で味付けがされていた。
「なるほど、ユズ殿のいうことも理解できるであります。」
「あと、ロリちゃんは攻める方で考えているけど、方針としてはどうなんだろう? ロートバルトの軍と冒険者だけなら、どうしても数で不利だと思う。」
「むぅ。そうじゃのう。彼我の戦力差を考えると籠城戦が妥当に思われるのじゃ。」
「ですが師団長、籠城戦となると食料や水などの補給もそうでありますが、必ず外部から助けが来るという希望がないと精神が持たないと聞き及んでおります。」
「援軍か。バイスローゼン王国の軍は動くのだろうか?」
「おはようございます。朝食では失礼いたしました。」
執務のために飾り気の少ないドレスを纏ったエミリアが侍女を伴い、姿を現した。頭を下げた彼女にロリは手を振って気にしていない素振りを見せた。
「家令にも申したが、気にすることはない。妾たちはただの冒険者じゃ。それよりもこのような待遇に感謝するのじゃ。」
「いえ。」
侍女の差した日傘から出たエミリアはロリたちの元にやってきて、空席だった椅子に腰掛けた。
「先ほどのお話が聞こえてしまいました。」
「うむ、構わんのじゃ。で、王国軍は動くのか?」
「現状は難しいのではないかとお話がありました。その……カロリーヌ王女殿下のご遭難にて、国境周辺の緊張が高まっているとのこと。そのような状況下で国軍は動かすことができないそうです。」
「……むぅ。」
「ロリちゃんが動いたら大丈夫かな?」
「いやいやユズ殿。もし、いま師団長殿が名乗りを上げられても、どれだけ機動的に対応できるのか、疑問があります。ましてや師団長殿の事情もありますから、すぐには本人だと認めてもらえるかもわからないと思われます。」
「う〜ん。そうか、偽物と思われても厄介だし、本人だと周りが認めても、すぐに国境から軍を動かすかどうかは別か。」
「はい。大魔導師様のお考え通りだと思います。」
「だいまど〜し…………。あの、エミリア様、ユズで結構ですから。まあ、援軍が難しいとなると、籠城も消耗してゆくだけだね。どのくらいしのげばいいかわからないしね。」
「ええ。言葉が通じるもの同士と戦うわけではありませんから、基本的には殲滅戦と考えるべきだとサラディンからは言われています。」
「打って出るには範囲が広すぎて戦力が分散してしまう。バラバラに対応しても被害が大きくなるだけじゃ。騎馬軍があれば、機動力をもって包囲するが、それにしても敵の数が多すぎる。」
「魔法は?」
「領軍には、どのくらいの魔法使いがおる。」
「ほぼいないと思っていただいて結構です。後衛の治療士達とマムルク達の中に数名といった感じでしょうか。」
「エミリアの騎士団にはどのくらいおるのじゃ?」
「ろ、ロートバルト男爵直下の騎士団は消滅しました。戦争で父と共に……。新たに雇い入れようとも考えましたが、領地を回復させることを優先するためにマムルク達を一時的に雇い入れました。」
「それはまた随分と思い切ったもんじゃのう。あとは冒険者頼みであるか。……ところでユズは最大でどのくらいの魔法が使えるのじゃ?」
「えっ? わたしかぁ………後先考えないでっていうなら、全属性のうちの一つだけ、極大魔法が使えるよ。その代わり、それで終わり。多分数日は回復できないし、体調がよくないとまたテラーノ先生のあの棺の中につけられちゃうかもね。」
「き、極大、魔法…………」
「すごいのか?」
「想像を絶します。一人で地形を変えられるでしょう。戦の趨勢を決めることができます。」
「命削るからねぇ〜。」
「気楽におっしゃることではありません。さすが、大魔導師と呼ばれるだけあります。」
「だから、大魔導師って…………。まあ、うちの里じゃあ、珍しくないけどね。」
「で、それはどのくらいの範囲を抑えられるのじゃ?」
「使ってみないとわからないよ。そもそも練習するようなものじゃないからね。魔力量や制御が一定の段階を超えた人が先生から術を教わるんだよ。で、発動させて被害を起こさないようにその直前で術式を止めるから、使えるっていうのがわかっているんだ。」
「本来の意味での最終兵器でありますな。自爆覚悟でありますな。」
「いや、まあ、そうだけどね。」
うっかりとチハたんの言葉に返事をしたユズが不思議そうに見つめたエミリアに気がついた。
「あっ……ひ、独り言っ!!」
「……そうですか。ともかく、ユズ様の極大魔法は封印しましょう。どれだけの被害が出るかわからないのでしたら、使用することができません。」
「そうじゃのう。他によい案はないのか?」
「戦術的には、斜行戦術などが古典的かつ有名でありますな。主力と囮に隊を分散させて、囮部隊が斜めに進撃しながら敵軍を誘い出している間に主力が反対方向に斜行し、包囲陣を作るというものですな。」
「ふむ、こういうことじゃな。」
ロリは地図上に指で線を引きながらチハたんの話を繰り返した。
「ああ、人相手なら、有効かもね。」
「どういうことじゃ?」
「ユズ様がおっしゃりたいことは小鬼(ゴブリン)たちはいくら統制が取れていても、元は野生のモンスターということでしょうか。
モンスターたちは集団が一つの意思で動くとは限らないということです。攻撃をしたからといってそちらに向くのではなく、数の多い方を餌と考えて突っ込むかもしれません。」
「むぅ。」
「では、あえて餌を作り、そこに向かって来させるようにおびき出し、そこから囲むという形はいかがでありますか? 島嶼(とうしょ)と呼ばれる島のように陣地を作り、その隙間にもろいところでしたり、餌を置くなりして、そこに入り込んだら、魔法なり、弓なり火力を集中させるという形であります。入れ込む量を調節することでこちらの都合よく叩くこともできます。」
「ふむふむ。おい、紙を持てい。」
ロリの言葉にメイドは紙とペンを差し出した。そこにチハたんの説明を書き記してゆくと、エミリアはため息をついた。
「ロリちゃん様はさすがですね。王家たるものは軍略に深い理解をされていらっしゃいるのですね。」
「違うのじゃぞ。これはチハ………なんじゃ。ユズ?」
「ちょっと、こっち。」
ユズに袖を引かれたロリは彼女に五本の指の間にしっかりと絡めるように手を握られた。
『念話、聞こえる? 聞こえたら頷いて。』
コクリとロリは頷いた。
『チハたんはインテリジェンス・デバイスなんだから、知られると面倒なことになるってば。』
「おおぅ。」
『自分で考えたでも天啓でもいいいからごまかすの。」
「うむ。すまなかった。エミリアよ、ユズが花を摘みたくなったそうじゃ。」
「えっ!?」
「まあ、気がつきませんで。」
「いや、そんなことに気がつかなくっていいけど……ロリちゃん、あとでお話があります。」
メイドの一人が先導してユズは館に戻っていった。
そこへ一人の偉丈夫がやってきた。埃にまみれた革の鎧とマント、泥のついた長靴、そして明るい午前の光を照り返す黒檀のような黒い頭皮。
「まあ、サラディン。ご苦労様でした。」
「いえ、遅くなりました。冒険者ギルドでジェラルド殿と情報交換をしてまいりました。」
「左様ですか。何か変わりはありませんでしたか?」
「状況はあまり芳しくないと言えるでしょう。ただ、もう少し時間はありそうです。……これは?」
側の大きなチハたんに目もくれず、ロリが書き散らした紙を手に取り、真剣な目をして読み取っていた。
「こちらの、……冒険者とどのように戦うかを考えておりました。」
「これを……? そちらの貴人はどちらの貴族のご令嬢ですか?」
「………マムルクのサラディンと申したか? 戦さ場に赴くことを生業(なりわい)としていると聞くが、なかなか礼儀を心得たものじゃな。妾はロリちゃんという、ただの冒険者じゃ。」
「これはあなたが考えたものですか?」
「半分くらいはそうじゃの。あとはエミリアとユズという『青の部族』の娘と話し合いながらじゃな。たいていが人相手で小鬼のようなモンスターではうまくゆかぬと言われたのじゃ。」
「でしょうな。しかし、よく研究されていますな。実に面白いです。」
「現状では戦力が足らんと聞く。籠城もよい手とは思われぬ。だとするとどうにか、こちらの狩場に誘き寄せなければならぬ。」
「はい。それでよろしいかと。」
「であるか。ならば、この枯れた川の名残りはいまは冒険者の採集の通り道だと考えるがどうじゃ?」
「ふむ。そうだとおもいます。」
「うむ。人の臭いが強くて、近づけぬというならば別じゃが、道があり、通りやすくなっていれば、そこをつい通りたくなるのは、人も動物もそうであろうが、モンスターとて、そうはかわらんはずじゃ。」
「『蝕』になれば、人は奴らにとって餌か、苗床です。あえて避けるようなものではありますまい。」
ロリはサラディンの言葉に手をすり合わせた。
「ほうほう、都合が良いのう。ならば、この道を整備させて通りやすくさせるのじゃ。そして、そこに囮を向かわせて、後を追わせるのじゃ。適度に攻撃をして怒らせながら招いて、そこでチハたんの主砲や魔法でドカンという具合はいかがじゃな?」
「千を超えるような敵に追われるような豪胆な部隊を用意できますか?」
「やらせるしかあるまいのう。」
「概ねその方針がよろしいかと思われますが、狩場に辿り着かせる前に少し削りたいところでありますな。地雷があれば、なおのこと都合が良いのでありますが…………」
「地雷か。どのように使えばよいのじゃろうのう。」
「敵の進路をこちらで誘導させるために散らばらないように埋設します。血の気が多くかつ愚かな敵が、広がって逃げようとすればするほど、地雷を踏んで自滅してゆきましょう。」
「とすれば、このように絞るわけじゃのう。外れたら、勝手に死んでくれるというものじゃ。」
「あのう……。」
「どうしたのじゃ、エミリア。」
「地雷とはどのようなものでしょうか?」
「……ああ、そうじゃのう。陶器や鉄のような入れ物の中に爆発するものを入れるのじゃ。それを地面の上に置いて土をかぶせて、踏んづけたら爆発するような仕掛けじゃ。」
「なんとも恐ろしいことを考えますな。」
「なんの話?」
館からユズが戻ってきたため、ロリは再度地雷の説明をするとユズはアイテムボックスから赤黒くて硬い実を取り出した。
「なんじゃ。マコ草の実ではないか。」
「うん。そうなんだけど、これの違う使い方って知らないみたいだね。」
辺りを見回したユズはその場にいた人たちからやや離れ、建物からも距離をとった。そしてマコ草の実を地面に置き、何かを手繰るようなそぶりをしながら、テーブルに戻ってきた。
「あそこに近づかないでね。魔力糸をつけてあるんだけど、糸を通じて魔力を込めると……。」
ドカン!!!
芝生がえぐれるほどの爆発が生じ、建物からは驚いた使用人たちが顔を覗かせ、いつの間にかメイドが数名増えて、エミリアとロリを取り囲んでいた。
「………やるならやると一言断るのじゃ。驚かせおって。」
「だ、大丈夫です。今は軍議中で、実験をしていました。驚かせてすみません。」
「いえ、お嬢様たちがご無事でしたら問題はありません。」
ジェンセンが首を垂れた横でユズがアワアワとしていた。
「わ、わたしが悪いのぉ?」
「むしろ、お主以外に誰がおるというのじゃ。この粗忽者が。ともかく、あの種がこのような力を持っておるとは驚きじゃ。
のう、元々はマコ草の実は何の薬になるというのじゃ?」
「はい。心の臓の薬や強壮剤と聞いております。先々代様も服用されておりました。」
ニトログリセリンと同じようなものじゃのう。
心の奥でロリは異世界の知識と照らし合わせて唸った。
「魔力糸がなければ爆発はせんのか?」
「ううん。魔力がたまれば自然と爆発するよ。あと、そばに置いておくだけで他の爆発に連鎖して爆発するし、結構危ないんだよね。だから、魔力を通さない藍染の袋に入れてアイテムボックスの中に保存しているんだよ。」
「ユズはそれをどのくらい持っておるのじゃ?」
「旅の途中で結構使ったから、あと四〇〇個ぐらいかな。あっ、そうだ、こうやって手で握って魔力を込めながら投げると……イタイイタイ!」
「ばかもの、まだ懲りぬか!? もうわかったから良いのじゃ。あとはこういう使い方ができるか?」
ロリは紙に図を示すとユズは頷いた。
「エミリアよ。町中のマコ草を買い占めるのじゃ。」
「あの、それでは必要とする民が困ります。」
「……そうじゃったのう。ユズのものも合わせて五〇〇もあれば足りるか。それくらいを目標に集めるのじゃ。」
「わかりました。領主の名で買取をします。この件も含めて再度、ギルドマスターに話があります。なるべく早くに来てもらうように。」
「はい。」
侍女が下がり、ロリはいったん地図を閉じた。メイドたちはテーブルの上を片付け、冷えた飲み物と菓子を出した。
サラディンも下がり、少女たちは園丁たちがユズの作った穴を埋める姿を見ながら、お茶会をはじめた。
「おめざも美味しかったけど、これもいいねぇ。」
「お気に入られてよかったです。干し果物の蜂蜜漬けです。お持ち帰りされますか?」
「ぜひ!!」
「すまんのう。」
「あの、ロリちゃん様は今はギルドの敷地内にお住まわれているとお伺い致しましたが?」
「言葉遣いを選ばんでもよいのじゃぞ。その通りじゃ。今はこのユズとともにテントで生活しておるのじゃぞ。」
「テント……」
「楽しいぞ。本当に自由じゃ。好きな時に寝て、好きな時に食べて、焚き火を眺めながら飲むカッフェは最高じゃ。」
「まるで、何かのお話のようですね。この大きな魔導具といい、自分も何かの役割を当てられた登場人物のような気がします。」
「面白いことを考えるのじゃな。」
「幼い時は物語が好きでしたので………お恥ずかしいですわ。」
「お話のようによい結末で終わらせようぞ。」
「はい。」
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