第27話

夜のお出かけってなんかゾクゾクする


 ジェラルドが暇をかこっている二人の元にやってきたのは夕刻を過ぎた頃合いだった。


 「忙しそうじゃな。」


 「まあな。ところで晩飯はまだか? だったら一緒に食べようぜ。」


 「…………よいぞ。ユズよ。行くぞ。」


 「あっ、はい。ちょっと待ってください。」


 慌てたユズはまろびつつ、サンダルをつっかけて二人の後を追った。


 酒場の夕食は鹿肉のワイン煮だった。


 いつもは一日の仕事を終えた冒険者たちがエールや蒸留酒を胃に注ぎ込んでいる時分だったが、スカスカの店内は遅い時間のシフトのギルド職員が仕事前に夕食を食べているだけだった。


 「なんじゃ? 人がおらんのう。」


 「ああ、城壁とその周囲の堀の修復は緊急に行わなくてはいけないからな。現場で炊き出しをして、交代で仕事に当たらせている。」



 「ほぉ。それは大変じゃのう。ところで、妾たちになんぞ用があるのか?」 


 「ああ、指名依頼だ。」


 「誰からじゃ?」


 「俺からだ。これから人に会いにゆかねばならん。で、護衛を頼みたい。」 


 「ほお。随分と急ぎじゃのう。」


 「ああ。………ちなみにギルドマスターの指名依頼は断れないから、そのつもりでな。」


 「あの、もし、断ったりでもしたらどうなるんですか?」


 「ギルド資格抹消で、罰金、金貨五〇枚だ。」


 「奴隷落ちしろって言っているようなものじゃないですか!?」


 「まあ、そういうことだ。頼むな。」


 ニヤニヤと笑いながら話すジェラルドに、ロリは彼は罰金の金額は適当に盛って話しているだろうと見当をつけていた。


 「よいぞ。どっちにしろ断りようがないのじゃ。黙ってテントにこもっていても、体裁が悪くて仕方がないのじゃ。」


 「そういうことだな。」


 「で、どこまでゆくのじゃ? 準備せねばならんじゃろ。」


 「ああ、場所は近いぞ。馬で一刻もかからない。向こうでは宿泊することになるが、野営の準備は必要ない。あとどれくらいの期間になるかは読めねえから、ロリちゃんが持ってきた大きな荷物などは設営管理部の倉庫に預けてもらいたい。」


 「ああ、盗まれでもしたらえらいことになるからのう。あと持ってゆくものはないか?」


 「向こうにゆけば、だいたい揃うが、暇つぶしのおやつなんかは持って行ったほうがいいな。」


 「わかったのじゃ。」


 「じゃあ、あと一刻ほど後にな。」


 ジェラルドが去った後も普通に煮込んだ肉を頬張っていたロリだったが、対照的にユズは身を震わせていた。


 「だ、大丈夫なの〜?」


 「何がじゃ? 何の問題もあるまいに。ジェラルドは剣の達人じゃし、妾たちはチハたんに乗ってゆくのじゃ。夜とはいえ、すぐに着くと申しておるのじゃから、何の危険があろうか。」


 「いや、そうじゃなくって、何でギルマスの指名依頼なのよぉ〜。なんか怖いよぉ〜」


 「安心せい。…………まったく、過保護が過ぎるのじゃ。」


 「ん?」


 「何でもないのじゃ。」


 二人は閉店間際のギルドの売店にゆき、お菓子や炭酸水を仕入れて戻ると、すでに設営管理部の職人たちが木箱に入った荷物を運び出しているところだった。


 準備をしている間によそ行きの服を着たジェラルドが馬を引いて来た。


 「出るか?」


 「おうよ。」


 ロリとユズを乗せたチハたんはジェラルドがまたがる馬に先導されて北の大通りを進んでいた。


 街は人気がなく、霧が立ち込めて石畳が黒く濡れていた。


 その中をジェラルドの馬の蹄の音とチハたんの無限軌道の音が石造りの建物に反響し、街に響いていた。


 「のう、チハたんや。」


 「何でありますか?」


 「そう言えば、そちの国ではそちはどのくらいの強さを誇っておったのじゃ?」 


 「それを小官に尋ねるでありますか。」


 チハたんは深いため息を漏らし、運転席でハッチを開けて外の空気を吸っていたユズは魔導具がため息をつくなんてと驚いていた。


 「そうでありますな。我々が作られた時はおおむね世界的にも標準的な性能であったと自負いたします。

 もともと、我らは歩兵の支援用として作られたのであります。ですので、他国の戦車との戦いとなれば、主砲の威力や装甲の厚さでは、一歩譲ることになっていたのかもしれないであります。

 他の戦地での戦車の開発競争で、異常な進化を遂げた国々がありましたので、弱いかもしれないという印象を持たれることもありますな。」


 「では、それほど強くないということか。」


 「まあ、それは否定できないのでありますが、我々は対歩兵や陣地を攻略するためには十分な力を持っております。

 それを鑑みて、この世界の小鬼や岩狼との戦いの経験を小官の世界で比較すると、きちんとした国の歩兵にすらなっていない、反乱の民兵や馬賊程度でありますから、けっして風下に立つようなことはありませんぞ。」


 「そうじゃろうのう。今までの戦いを考えるとチハたんを止めるようなものなど想像がつかんのう。小鬼たちが何万と来ても負けるわけはないのじゃ。」


 「いえ、さすがに小鬼が雲霞のごとく押し寄せられるときついでありますな。あと、先日の飛竜でありましたか、空から来るような魔物に関してはいささか苦手でありますな。」


 「ほう。それが鬼門か?」


 「はい、主砲の仰角の制限のために、航空戦力に対しての戦闘は困難であります。また、我々戦車は正面や側面の装甲は厚いのですが、上は薄くできております。そのために空からの攻撃は師団長がおっしゃる通り、鬼門でありますな。」


 「なるほどのう。そこらへんはユズに頑張ってもらうかのう。」


 「へ?」


 「そうでありますな。戦車には随伴歩兵が必要でありますな。」


 「おい、そろそろ到着するぞ。」


 「おぉ………やはりじゃな。」


 三人の目の前にはかがり火に浮かび上がる三階建ての館が浮かび上がっていた。

 四角い張り出しの塔が四辺に立ち、その上にかがり火で浮かび上がる衛兵の姿が見える。石造りの重厚な館の正面は窓が少なく、威圧感を感じる作りになっていた。

 そして、今は正面の門は開けられ、堀を渡す跳ね橋が降りていた。


 ジェラルドはチハたんを先導し中へと進み、前庭の広場に停車するように促した。


 「ここで降りてくれ。ユズはサンパチちゃんもここに置いておくんだ。」


 「はい。」


 「マウマウはどうしたらよいのじゃ。」


 「あ〜、難しいな。一応置いて欲しいが、ロリちゃんのことを考えると、持たさざるを得ないしな。」


 「お主も剣を預けるのじゃろ?」


 「まあな。同格というわけにはならないからな。」


 「カロリーヌ殿下におかれましては、すぐに抜けぬようにされていらっしゃれば、佩剣されていらっしゃても結構です。」


 「何者じゃ。」


 「相変わらず驚かさせてくれるな。ジェンセン。」


 「申し訳ありません。カロリーヌ殿下、ジェラルド様、そしてそちらの女性もどうぞこちらへ。」


 物音一つさせずに現れた黒服の初老の男性はロリの元の名を口にして、三人を先導して館に進んだ。


 「ジェンセン、エミリア閣下は元気かな。」


 「はい。」


 「しばらく大変だと思うが、無理をさせないようにな。」


 「ありがとうございます。どうぞ、こちらです。」


 ジェンセンと呼ばれた家令は頭を下げ、三人を謁見室と思われる赤い絨毯を敷き詰めた部屋に招き入れた。三人にその場で待つようにと告げた彼は一度奥の部屋に入った。


 すぐに部屋の奥の大きな扉が開いた。


 「女男爵(バロネス)、エミリア・フォン・ロートバルト卿のお出まし。」 


 張りのある老人の声が響き、一人の少女が現れた。


 黒髪に浅黒い肌の多いロートバルトの人族には珍しくロリと同じ白い肌に淡い金色の長い髪がうねり、灯りに照らされ、複雑な光を返していた。


 背はロリとユズの間くらい、華奢な体をバイスローゼン王国の近衛騎士団を模した真紅のコートドレスをまとい、真白のパンツに膝丈の乗馬靴を履き、腰にはいつもアニカが持ち歩くよりもずっと細身に誂えた子供用のレイピアを帯剣していた。 


 背筋を伸ばしトルコ石のように明るい青色の瞳をロリに向けて、女男爵はまっすぐ歩み寄ってきた。


 「……………………………………」


 数歩離れたところ、彼女のレイピアの間合いの外で立ち止まった。無言でロリを見つめる女男爵は急に瞳が揺らいだ。


 「ん? なんじゃ。」


 「殿下におかれましては、このような辺境の小領まで赴かれまして、恐悦至極にありますです。」


 その場で膝をつき、こうべを垂れる女男爵にロリは困ったようにジェラルドを見た。


 「おい、この茶番はなんなのじゃ?」


 「おいおい、エミリア閣下、打ち合わせと違うじゃないですか。」


 「打ち合わせ? このものは影武者か何かか? そうじゃろうのう。これではお湿り娘の方がもっと堂々としておったのじゃ。」


 「いえいえ、本物のロートバルト女男爵ですよ。参ったなぁ。とりあえず、立ち上がってくださいよ。」


 「………………………………………」


 何やらささやくような声が聞こえたが、首を横に振ったまま、固まった女男爵にジェンセンが近寄り、そっと背中に触れた。


 「無理……………」


 蚊の鳴くような声で答えた男爵はまた首を何度も横に振った。


 「ハァ?」


 「殿下、お願い致します。」


 ジェンセンが女男爵の後ろに下がり、右手のひらをくいくいとあげる仕草をした。それを見たジェラルドはロリの横に立ち、耳元で囁いた。


 「ほら、謁見の時にいつも言うことがあるでしょうに。」


 「あぁっ。………むぅ、おもてをあげい。楽にするがよい。」


 「ははぁ。」


 涙目の年若い女男爵はさらに数歩下がり、ロリとは目を合わせようとしなかった。


 「どう言うことじゃ。答えよ。」


 「あ、あっ。お、王女殿下におかれましては…………」


 「面倒じゃ。話が進まん。楽に話せ。」


 「あっ………………」


 ロリの苛立った声を叱責と受け取った女男爵の顔は青ざめた。


 「あぁ、すまんのう。何かと急いでおるのじゃろ。楽にいたせ。無礼講じゃ。」


 「は、はい。姫様はお忍びだがら、そこのジェラルドさには、わたすが領主として、普通にしとけと言われたんです。んだども、わたすはまだ、うちの王様とのお披露目もまんだしてねぇし、やっぱり、王家のお歴々さ会うとなんと言うか、空気さがすごくて、普通にしているさなんて無理だぁ。」


 「どう言うことじゃい。」


 「あ〜、気張っちゃったみたいですね。

 実はエミリア様は先々代の男爵の急逝で去年慌てて引き継いだんですよ。色々とあって、バイスローゼン王家の襲爵の命は受けたんですけど、まだ王都に行って、お目見えとお披露目してないんですよ。だから、殿下が初めての王家の人ということで、緊張したみたいですね。」


 ロリは両手を腰に当てて深くため息をついた。


 「よい。妾とあって緊張するものなど、女男爵が初めてじゃ。気にしすぎじゃぞ。あと、先々代とはどういうことじゃ? 先代じゃないのか?」


 「ああっと……………」


 「先代だった父は戦死いたしました。ですので祖父が私の成人まで再度男爵を襲爵することになっていたのですが、無理がたたり……………」


 「おう、それは、なんともすまんのう。遅ればせながら、お悔やみを申すのじゃ」


 「いえ。……ふぅ。…………それではこちらへどうぞ。ジェラルド殿の報告を聞きましょう。」


 深いため息をついて、調子を取り戻した女男爵は王国の標準語に戻り、三人をテーブルに着くように勧めた。ジェラルドとロリはテーブル前に着き、ユズはジェンセンが用意した二人の後ろに置かれた椅子に腰を下ろした。


 ジェラルドはロートバルト市の位置が書かれた平原地方の地図を広げ、ロリたちの目撃した飛竜の情報も含めて、女男爵に説明をした。


 「飛竜は殿下が目撃されたのですか?」


 「殿下は不要じゃ。ロリちゃんで良いぞ、女男爵よ。そうの通りじゃ。近隣には谷や丘がないのじゃ。どこから飛んできたのか、不思議よのう。」


 「では私のこともエミリアとお呼びください。ロリ、ちゃん様。」


 「変なところで区切るな。あと様も不要じゃぞ。ジェラルドはどう思う?」


 「『蝕』を迎えて、飛距離が伸びた個体が生まれてきたとも考えられるが、パオバブミの樹の上に巣を作ったのかもしれねぇな。高い木の上から、とびおりて、その勢いで空を飛ぶとかな。」


 「…………いや、それはなかろう。小鬼(ゴブリン)を咥えられるほどの大きなやつじゃぞ。風を掴む前に地面と激突するのじゃ。」


 「ああそれは無理だな。それだけでかい飛竜だったら、飛距離が伸びたと考えた方が自然だな。だとすると、今回は飛竜はあまり気にすることはねぇな。」


 「どうしてですか?」


 「やつらはそんなに長い間、風に乗ってられねぇ。常に風を乗り換えるんだよ。そうやって空の高いところに飛んでゆくんだ。地上に落ちたら一巻の終わりだからな。」


 「そちは詳しいのう。」


 「伊達に冒険者をやってはいねえですよと言いたいところだが、残念ながら、ギルドの記録で読んだだけだ。」


 「知識はつないでこそ、価値があります。ギルドに埋もれた知恵を拾い上げられただけでも、ジェラルド殿は十分素晴らしいですよ。」


 「まっ、ともかく、今回は空の魔物は気にすることはあまりない。だが、地上の小鬼(ゴブリン)は知恵もつけた上に数も増えている。これはまずい。高位の小鬼(ゴブリン)が出た上、そいつらの力も増している。

 先だってロリちゃんたちが倒したゲオルギ村を襲った小鬼の王(ゴブリン・キング)より、先日の小鬼の騎士(ナイト・オブ・ゴブリン)の個体の方がでかかった。

 これは短期間で小鬼(ゴブリン)たちが種としての成長を遂げている証拠だ。

 だとすると、どうやって奴らは成長しているかだが…………。」


 「ジェラルド殿、それは、開拓村が被害にあわれているということでしょうか?」


 「いや、そこは安心してくれ。先だってあったゲオルギ村以降、被害はない。ただ、避難勧告は出す準備をしてくれ。冒険者の数が足りない。これ以上の領主軍の補助は無理だ。」


 「…………ジェンセン。サラディンは戻りましたか?」


 「いえ、巡回を終えて、ホーズ村からお屋敷に向かっているという報告がありました。明日の朝には戻るかと。」 


 「すまんのじゃが、ゲオルギ村とはどこじゃ? あと、サラディンか?」


 「ああ、すまんな。ゲオルギ村はロリちゃんが『夏至の暁』と一緒に助けた村だ。サラディンは男爵家の騎兵隊の隊長でマムルクと呼ばれる奴隷軍人だ。」


 「奴隷? 奴隷が男爵家の将をしておるのか?」


 「まあ、びっくりするだろうが、言うなれば傭兵のようなものだ。職業で軍人をしていて、契約で主人を決める。

 ただ、マムルクと呼ばれる連中は一度契約すれば、裏切らないんだ。辞める時も事前に通告してくれる。そしてものすごく強い。」


 ジェラルドの説明を聞き、頷いたロリに女男爵は咳払いをして注意を自分にむけた。


 「すみません。今はサラディンがいないので、当家の軍の配置に関しては調整が難しいです。もし避難をさせるとなると、今年の小麦や農作物の収穫は…………。」


 「諦める必要がありそうだな。畑が戦場になっちまえば、どのみち同じだがな。」


 「せっかく収穫量を戻したのに、こんなひどいことって…………。」


 「嘆くのは後でもできるのじゃ。それより、『苗床』がないのにどうやって小鬼どもは増えておるんじゃ?」


 「理由はわかってねぇ。奥まで偵察に出せるわけじゃないし、あいつらのことなんぞをしらべる酔狂者などいないからな。」


 「あの〜、いいですか?」


 「おう。」


 「平原の中部でも小鬼(ゴブリン)や豚鬼(オーク)はいたんですが、そいつらの中にメスを見ました。」


 「な、なんだってーーー!?」


 「ええ。まあそうじゃなくちゃ、『苗床』がない中原で増えませんですよね。 

 実は旅の途中に小鬼(ゴブリン)がアジトにしている洞窟があって、どうしても避けられなかったので、夜更けに生木を洞窟に積んで入り口を土魔法で塞いで、生木を燃やしたんですよね。

 で、洞窟の隙間から漏れる煙を見つけては塞いでくってことをして、全滅させたんです。

 ちょっと興味があったので中を調べようと思って、死んだのを確認してから入ったら、子を持ったメスがいましたよ。」


 「な、なるほど。き、貴重な情報をありがとうございました。」


 エミリアが礼を述べたが、ユズの話を聞き終えたその場に人間全員がこわばった表情を見せていた。ユズはそれが不思議だと言わんばかりの顔をした。 


 「ユズよ。前から少し感じていたが、そちが友達ができないにはちゃんと理由があるのじゃなぁ。」


 「どうして!?」


 「ろ、ロリちゃん、この方はどなたですか?」


 「おお、そういえば紹介しておらんかったな。ユズと言ってな。『青の部族』で、成人の儀で一人でキーロフ平原を渡ってきた大魔導師じゃ。」


 「士が師になってる!!! 」


 「じゃってのう。」


 「だって、一人で小鬼(ゴブリン)の巣を退治するには効率的にしなくちゃだめじゃない。」


 「うん。そうじゃのう。」


 「心がこもってない!! まあ、東の方にもメスがいるのかわからないけど、例えば、平原の奥地から小鬼(ゴブリン)を従えて、数を増やすってこともありそうだよね。こっちの小鬼(ゴブリン)は頭がいいし、それほど成長しているならできるかも。」


 「なるほどな。急に数が増える理由になりそうだな。」


 「現在確認されているだけで、どのくらいの数になりそうですか?」


 「斥候に出したのが、すべて戻ってきているわけではないのでわからんが、確認が取れただけで、各地を合わせて千はくだらんだろうとのことだった。そしてこれからも増えるだろうな。」 


 「エミリア、気を確かに持つのじゃ!!」


 「ジェ、ジェンセン、水をください。…………ありがとう。………ジェラルドどの、勧告ではなく、避難命令がよろしいのでは?」


 「まだ、こっちに向かってくるには間がありそうだ。岩狼の一角狼に変化している奴がいる。」


 「一角狼ですか!!」


 「ああ、平原で狼たちと縄張り争いをしている間はこっちへと興味が向くことはない。だが、小鬼(ゴブリン)たちが押しているのも確かだ。だからロートバルトにこないで終わるということはないと思った方がいい。」


 「そうなんですね。わかりましたわ。」


 それからもエミリアは、ジェラルドの報告や提案に対して、自分で考え、足りないところはジェンセンやロリに助けられて今後の方針を立てた。


 「では、ひとまずはそのように進めましょう。」


 「はい。あと、エミリア閣下の護衛と冒険者ギルドの連絡係として、この二人の『冒険者』を残しておきますので、お使いください。」


 「えっ!?」


 「ということで、ギルマスの指名依頼だ。ロリちゃんとユズちゃんにはこのまま頼むぞ。」


 ロリは深いため息をついて、頷いた。


 「ええっ!?」


 「ユズよ。あきらめるのじゃ。ジェラルドは体良く、妾を危険から遠ざけたいだけじゃ。」


 「ま、まあ、その気持ちはわかりますよ。」


 「じゃが、そのままでゆくとは思うなよ。」


 「怖いな。でも、わかっているなら、あえて言う必要はないよな。」


 「善処しよう。」


 口元を緩めて左腕をあげたジェラルドは謁見室を出て、そのまま、冒険者ギルドへと戻った。


 エミリアの館のメイドたちがロリとユズを迎え入れ、二人の身を清めて三階にある客室へと連行された。用意された高級そうな透ける素材のワンピースのナイトウェアは拒否して、ユズのアイテムボックスに入れておいた自分達の部屋着に着替えた。


 「結局、ロリちゃんを安全な場所に移したかったから、指名依頼にしたの?」


 「そう言うことじゃな。」


 ロリは大きなあくびをしながら答えた。


 「ともかく、もう寝るのじゃ。」


 「ロリちゃんはいつもはもうお眠の時間だもんね。」


 「うるさいのじゃ。」

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