第8話

ロード・トゥ・ロートバルト



 いつまで待っても戻ってこないロリやジョルジュ達を心配したフィムが様子を見にゆくと、そこには全滅した小鬼(ゴブリン)達の死骸と疲れ果てて身動きが取れなくなり、ロリに引きずられている二人の姿があった。


 見かねたフィムがほぼ独力でチハたんに二人を乗せた。


 そのまま落ちないように見張りとして一緒に乗ったフィムとぐったりとキューポラの端に腰を下ろしたロリを乗せたチハたんは森を抜け、ジゼルとさらわれた二人の女性と合流した。


 まずは女性達を住んでいた村に届けることになり、その道すがら今回のクエストの分け前の相談となったが、ロリは報奨金よりも『夏至の暁』達に近隣の大きな町であるロートバルトへの道案内を依頼した。

 四人は命の恩人でもある少女にもっと報いたいと訴えたが、彼女はこれで十分と答えた。


 村にはロリとチハたんは入らず、ジョルジュ達が二人を送った。戻ってきた彼らはロリの村の様子を尋ねる言葉に言葉少なく答え、村の北東に向かう道を進んだ。


 チハたんの脚でも二日ほどかけて、ロートバルトのレンガのように赤みがある石の城壁が見えてきた。


 戦車の上にはキューポラの指定席で腰を下ろしているロリと砲塔の右脇に腰を下ろすジゼルとグロリアがいた。斥候のフィムは先行していて、ジョルジュは襲撃にあった村で購った馬にまたがっていた。


 やっと人里に入れることで安心したロリは貯めていた息を吐き、肩の力を抜いた。


 「うむ、ご苦労であったのじゃ。」


 「俺たちはこのままロリちゃんを冒険者ギルドに紹介すれば良いんだな。」


 「うむ、頼んだのじゃよ。」


 「本当にそれでいいの? ご両親を探し出すクエストの発注してくれてもいいのよ。」


 「ありがたいのじゃが、なにぶん先立つものがまったくないのでなぁ。とりあえずは稼ぐことからはじめるのじゃ。」


 「クエストの代金はこのサンパチちゃんでいいのよ。」


 矢が無いことと狩をするためという理由で、そのまま強引にサンパチちゃんこと三八式歩兵銃を借り続けていたジゼルはうっとりとした様子で小銃の腹を撫でていた。


 その言葉を聞いたグロリアが怒った。


 「おい、ちょっと待ちなさいよ。それじゃジゼルだけが儲けて終わりじゃないか。」


 「うるさいわね。今回のクエストでグロリアは早々に魔法を撃ち尽くして、後半は役ただずだったじゃ無い。それに私が弓からこっちに持ち変えることでパーティーの戦力は格段に上がっているんだから、みんなの得になっているじゃ無い。」


 「確かに火力が上がるのは同意しますが、小鬼(ゴブリン)の王との戦いでは私の火球がなければ、隙は作れなかったでしょうが! それに対してジゼルは小物だけを遠距離狙撃していただけじゃないですか!!」


 自分勝手なジゼルの理論に反発したグロリアの口撃に並走していたジョルジュにが苦笑しながら同意した。


 「どっちの言い分にも理があると思うが、ジゼルの火力に関しては確かにそうなんだがな。圧倒的に性能が違うし、近接戦でも短槍と同じように使えるから隙がなくなるんだよぁ。羨ましいぜ。」


 「でっしょー。だーかーらー、ロリちゃ〜ん、いいでしょ〜。」


 「ん? なんじゃ? 」


 ロリは晴天下で熱がこもるヘルメットを外し、輝くような金髪を草原の風にさらしていた。そして首にヘッドセットをつけて、砂埃よけのゴーグルを目にかけていた。


 彼女の後ろに回って彼女に抱きついたジゼルは風にたなびくロリのブロンドの髪を撫でて甘えた。


 「まあ、サンパチちゃんは妾の体格にはあっておらんのじゃ。迷子の父母のことは別として、使えんものを下賜してもバチは当たらんのじゃ。」


 「ロリちゃん、ジゼルは甘やかすとつけあがります。それと迷子なのはご両親ではなくてロリちゃんの方だと思いますよ。」


 「何をやっているんだか。」


 街道の端の石に腰を下ろして後続のみんなを待っていたフィムが右手をあげて、呆れたように声をかけた。


 「お疲れ、フィム。」


 「ああ、ジョルジュも子守、お疲れさん。」


 「なんじゃと?」


 柳眉を逆立てたロリの言葉に肩をすくめたフィムが停車したチハたんに飛び乗った。


 「ロリちゃんのことじゃ無いから大丈夫だよ。関所の方はいつもの通りだったよ。やっぱりギルドが集めているだけあって、冒険者パーティーの数は多かったね。街も特に問題がないみたいだ。」


 「そうか、ありがとう。とはいえ、やっぱりこいつを連れてゆくと悪目立ちしそうだな。」


 「それは……仕方がないんじゃないかと思いますね。」


 「妾は身の安全も考慮すると、チハたんがそばにいてくれる方が嬉しいのじゃ。」


 「そうだろうな。ただ、衛士にどうやって説明したもんだかな。」


 深いため息をついたジョルジュにジゼルが彼の肩を叩いて慰めた。


 「まあ、その場の流れってことで。」


 「いい加減だなあ。」


 肩をすくめたフィムもグロリアの隣に並んで空を仰ぎ見ていた。




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