アヤと化け狸 ~ 初めての人助け

木津根小

1

その日、アヤはタヌ助と一緒に、楽しく話しながら歩いていた。

アヤは市内の小学校に通う、小6女子であり、タヌ助は、アヤが偶然拾ったタヌキの縫いぐるみだった。


タヌ助は生きていた時の悪行により、タヌキの縫いぐるみに閉じ込められてしまった、タヌキの霊だった。

さらにタヌ助は、呪縛を掛けられ、最初に正体を明かしたアヤから、離れる事ができなくなったのだ。


アヤとタヌ助は、タヌ助が犯した悪行と同じだけ、良い事をすれば、呪縛から解放されると信じ、アヤは、タヌ助に『良い事』をお願いしていたのだ。


アヤは、最近、近所にできた洋菓子店まで、お菓子を買いに住宅街を歩いていた。

その店は、とても美味しいと評判で、アヤもスイーツを買いに行くことにしたのだ。

「タヌ助は、どんなお菓子が好き?」

アヤが少し浮かれた顔で、ニコニコしながら、肩から下げているポシェットの中のタヌ助に聞いた。

タヌ助は、ポシェットの中から顔を出し、アヤを見ていた。


「そうですね、甘いお菓子なら、大体の物は好きですが。。。

でも、わたくし、縫いぐるみですので、食べられませんよ。」

タヌ助はそう言うと、ジッと、アヤの顔を見た。

「もう、そんなの当たり前じゃない。

誰も、タヌ助にあげる、なんて言ってないでしょ。

ただ、聞いただけよ。」

そう言うと、アヤはタヌ助の体を両手で掴み、ポシェットから出すと、ニヤッと笑った。

そして、上に持ちあげると、

「タヌ助くん、とっても楽しみだね。」

と言い、まるでダンスでも踊っているかのように、歩きながら回り始めた。

タヌ助は、そのアヤを見て、ハァとため息をついた。


アヤが後ろを向いた時、タヌ助の目に、道にしゃがみ込んでいる男の子の姿が見えた。

そして、アヤが、男の子にぶつかりそうになっていた。

「アヤさん、後ろ。

危ない!」

そう言って、タヌ助が叫んだ。

男の子は、アヤに背を向けており、アヤには気付いていないようだった。


「えっ・・・、あっ。」

アヤが振り返ると、男の子にぶつかる寸前だった。

「あっ、よっ、っと、あらら。」

アヤは何とか体を捻り、男の子を避けた。

しかし、バランスを崩し、男の子の横に倒れ込んだ。

「あっ、あたたたたっ。」

アヤは、道に倒れ込んだまま、声を上げた。


男の子は、突然、横に倒れて来たアヤを、とても驚いた顔で見ていた。

「お姉ちゃん、何してるの?」

男の子は、涙をいっぱい貯めた目で、アヤを見ながら聞いた。

「こっ、転んでるの。」

アヤが赤い顔で、恥ずかしそうに言った。

「そっ、そお。。。

大丈夫?」

男の子は、そう言うと、あまりにも驚いて、今まで泣いていた事を忘れたようだった。

「うん。

大丈夫、大丈夫。」

アヤはそう言うと、少し舌を出しながら、男の子の隣に座り込んだ。


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