強さってのは決意で決まるんだ
1
その前兆は、朝のSHRの直後にあった。
挨拶を終えた後、担任の先生が逆風くんを廊下に呼んだ。学年一位の結晶くんを誘っている彼だ。よくない噂が先生たちの間で広まったのかもしれない。
廊下に消えた逆風くんは、五分後、憂鬱な面持ちで戻ってきた。自信家の彼が珍しい。槍でも降るかもしれないと、そんな暢気なことをおもって、すぐに忘れた。
で、いつもの昼休み。
彼は購買で人気のお好み焼きパンを私に差し出した。
「頼みがある」
「ボーカルならやらないよ」
「違う。それはいずれ俺が勝つから関係ない」
「いやいや絶対無理だから!!」
毎日勝負しているが、負ける要素がない。もちろん日頃の勝負の甲斐あって彼もスタミナが伸びている。でも、彼が強くなればなるほど私の逃走心(いや、闘争心か)が燃えるのだ。
「話の腰を折るな」
「すみません」
「月下は
「えーっと」視線をそっと空席に向けた。名前と性格が印象的。「あのちょっとインドア系の子? たしか先週から休んでいるよね」
明さんは背が低くて少し丸い女の子だ。ショートカットで前髪をおろしていて、私と一緒で化粧っけがない。少し話したけど、人見知りなのか、会話が成り立たなかった。
「そうだ。美術のとき、あいつの絵を見たことがあるが、めちゃくちゃ上手い」
インドア系の子ならありそう。田舎のお姉さんも、アニメやマンガが好きで可愛いイラストをよく描いていた。そのせいかリアルは苦手で、休みがちになっていたけど。
「だからバンドに誘った」
「はあ?」
あいっっっっっ変わらず、こいつの思考はわかんない。
「絵が上手いから誘ったの? 楽器が得意かわからないのに?」
「タッチが繊細なんだ。それに爆発した感情を秘めている。俺のバンドに必要なのは、楽器の技術より才能の片鱗なんだ。うちの学校は、何かに特出した奴が多いから、その力を音楽に向ければすごい力を生むはずだ」
「まー私みたいなのも誘うくらいだしね。でも、どうせ断られたんでしょ?」
「流石だな。俺の性格をよくわかってるじゃないか」
「そりゃ毎日こうやって一緒にいるから。それより、明さんがどうしたの?」
「先週の月曜だったか、休み時間に誘ったんだ。
『お前みたいな根暗はベースが似合う』って。そしたらすぐに荷物をまとめて帰った。で、不登校」
「バカタレ!この!!」
罵声とともにお好みやきパンを顔に投げつけた。
片目が、咄嗟に目を閉じる。何が悪いのかわからない、と不思議そうな態度だ。
私の罵声におもわず周囲のクラスメートたちの視線を集めた。なんだ、夫婦喧嘩か? そろそろ破局か? くだらない嘲笑が聞こえてきた。くっっっそどうでもいいわ。
「少しは人の気持ち考えなさい!!」
「事実を言ったまでだ」
「事実は人を傷つけるの!!」
「だが、目をそらすことはできないだろ」
「片目隠しるやつが何いうんだよ!」
聞き耳を立てていたのか、周囲の生徒がぶふっと吹き出しているのが見えた。
それで一瞬、冷静になる。
「で、私につぶれたお好みやきパンを買収させて何をさせる気?」
「つぶしたのはお前だろ」
「つぶさせた逆風くんが悪い。てか、みちるさんに謝ったの?」
「そのことだが、少し面倒でな……」
逆風くんは一呼吸置いて話し出す。
「明みちるは中学から出席率が低くて、高校でようやく落ち着いたらしい。普通の学校では留年するほどだったが、うちの学校は例外で成績が優秀だったから入学を認めたんだ。日数が足りてれば
「あーそんなのあったっけ?」
逆風くんはあきれ顔で、
「お前はほんと自分のことしか頭にないな。通称GBクラス。一番端の教室だろ」
「あぁ! どうりで外国人も多いのか」
いままで長距離しか頭になかったから気にも留めなかった。
「話を戻すぞ。とにかく教師たちは明みちるを学校に呼び戻したいんだ。担任が説得しても駄目だったから、今度は俺が直接謝りに行くことになった」
「それで私に何の関係があるの?」
「ただ謝るだけならベースを断られて終わるだろ。だから月下も一緒に誘ってくれ」
はい……?
「いやいやいやいや、私メンバーじゃないし。なるつもりないし」
「いつも長距離の相手をしてるだろ。どうせ帰ってもやることないんだから手伝え」
なんて横暴な! だが……まぁ……真実なので仕方ない。
目をそらすことができないとはよくいったものだ。
「お好み焼きパンで足りないなら、メロンパンも出す」
「いらんわ!!」
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