第20話 おかしな噂
その後しばらくして、おかしな噂流れ始めた。
「オカマの真一とオナベの遠藤が付き合っている。」
やけに皆がこそこそと好奇の目を向けてくるなと思っていた。本人の耳に届いたときには、学年中に噂が広がっていた。
子供じみた、馬鹿げた噂だ。
私は大して気にもとめなかった。だけど、シンは学校に来なくなった。私は何を言われても良いけど、シンを傷つける奴は赦さない。噂を流した張本人を探し出そうと思った。
手っ取り早く顔が広い丸山に、噂を流した犯人を知らないかと聞いた。すると、丸山は気まずそうに俯いた。
「ごめん、最初に冗談で言ったことが、広まっちゃってさ。」
丸山の言葉に怒りを覚えた。瞬間湯沸かし器のようにカッとなって、丸山に詰め寄った。
「何で、そんなこと言ったのよ!」
そしたら、丸山も怒った顔をした。
「お前が言いふらしたからだろ!」
何のことか、分からなかった。
「俺が真一に告白して振られたこと、クラスの奴らに言いふらしただろ!」
「そんなこと、するわけないでしょ!」
私は全力で否定した。丸山は一向に信じようとせず、私を睨み付ける。
「あんたにキスされたことを言いふらしたら、シンが嫌な気持ちになるじゃない。私がシンの嫌がることをするわけないでしょ!」
私の叫びを聞いて、丸山の表情がふっと緩んだ。
「そう、だよな……。お前、真一の事好きなんだもんな……。」
何故か、私は素直に頷いた。
丸山と私は、同じ穴の狢だ。同じ男を好きになって、フラれた者同士。そう思うと怒りもわだかまりも、すっと消えた。丸山は、頭を下げた。
「ごめん。俺の噂が広まらないように、お前らの事をからかってただけだって誤魔化したんだ。まさかこんな事になるとは、思ってなかった。」
顔を伏せたまま、丸山が続けた。
「真一は、小学校の頃からオカマオカマってからかわれてたんだ。でも、女子からは格好いいから人気があった。真一の事好きな女子は今も多いし、それを気にくわないと思っている男子も多い。俺のついた小さな嘘が、そいつらに広まってしまったんだ。……本当にごめん。俺も出来るだけ火消しにまわるから。だから……。」
丸山は、顔を上げた。真っ赤になった目を、地面に向けている。
「真一を、頼むな。」
悔しそうに、丸山はそう言った。
***
閉店の札が掛かる美容院に、シンは一人でいた。ガラス戸を叩くと、シンは驚いた顔でドアを開けてくれた。
事の真相を話すと、シンは悲しそうな顔で笑った。
「……噂、丸山君が流したんだ……。」
「丸山、凄く反省してた。噂消えるように全力尽くすって。」
何故か丸山の擁護をしていた。シンは、苦笑いを浮かべる。それから、寂しそうに頭を振った。
「もう、いいよ。どうでも……。」
くしゃっと細められた瞳から、ポロリと涙が溢れた。
「こんなこと、これからもずっとついて回るんだよ。もう、嫌だよ……。」
『お母さんは、命に関わる病気じゃ無いって言ったけど。最近、そんなことも無いんじゃないかなって、思うことがある……。』
急に、いつかのシンの声が耳に何度も繰り返し聞こえて、背中が冷たくなった。
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