明るい不登校でも恋はする
和響
第1話
誰にも言えない恋をしている。
明るい不登校二年目。中学一年生の途中から学校に行かなくなって、平日昼間に家にいる生活に慣れてしまっている私は、隣の家の幼馴染みの
新築の建売住宅。道を挟んで六軒が立ち並ぶ一番奥が私の家で、その隣が
「なんでモモは学校に来なくなったの?」
「別に。なんとなく」
「ふうん」
これが多分、一番新しい記憶の中の雄太との会話。
確か、一年くらい前のことだ。たまたま私が外に出たタイミングが、たまたま雄太の帰宅する時間だった。
嘘だ。
毎日隣の家から雄太が帰ってくる時間を観察していたから、何曜日は何時に帰ってくるのかを大体把握している。月曜日は部活がないから三時くらい。火曜日は部活があるから夏は五時半で冬は四時半と言った風に。客観的に見て、それをストーカーというのだろうかなんて思ったこともあったけれど、隣の家なんだから知っていて当然だろうと自分で自分に言い聞かせた。
「私はストーカーじゃないし。毎日家にいて知ってるだけだし」
学校に行かず、一日中家にいるというのは、実はなかなか骨の折れることだと私は不登校になってから知った。最初こそ、「学校に行きたくない」と言って休んだ私のことを心配してくれたお母さんやお父さんも、そのうちには、「毎日ダラダラしていて絶対に良くない」とお説教を言い出すし、その次は「カウンセラーさんに話を聞いてもらえるらしい」と頼んでもいないのにカウンセラーだと呼ばれる知らないおばさんのところへ定期的に連れて行かれる。
「学校で嫌なことでもあった?」
「別にないです」
「これなら興味があってやってみたいなって思うこととかある?」
「特にないです」
お母さんは夜になると私のことでお父さんと話をして泣いているし、お父さんはお父さんで私を腫れ物のようにそっと扱う。
「めんどくさい」
学校に行かないで家にいるというのは、なかなかめんどくさいことも多いのだ。最近ではお昼ご飯も自分で作って食べている。別に誰かにいじめられたわけじゃない。ただちょっと中一の時の担任の先生が嫌いだっただけ。それだけでなんとなく休み始めた私の不登校は今年、二年目に突入している。
「でも、修学旅行があるんだよね」
中学三年生。私の学校の修学旅行は六月で、参加するかしないかを答えるプリントがポストの中に入っていた。
「修学旅行なんだし、行っておいでよ」
お母さんがそう言ったけれど、私は「修学旅行にいく班次第だね」と答えた。そのことをお母さんが担任の先生に伝えてくれたかどうかは知らないけれど、修学旅行にいく私の班は最高のメンバーだった。
小学校の時から仲が良かった
「このメンバーなら行ってもいいかな」
「じゃあ参加に丸をつけてお母さん学校に出しておくね」
私は明るい不登校で、別に学校が嫌いなわけじゃない。ただ、学校に行こうかなと思うと、めんどくさいと思う気持ちが風船みたいに膨らんで、「ま、行かなくてもいっか」と思ってしまう。でも、修学旅行にいくと決めてからは、学校に行くのが待ち遠しくさえ思えた。
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