異世界の異端魔術師―Heretic magician in another world―

翔丸

プロローグ

真夏の暑い日。


青い空、白くふわふわ浮かぶ大きな雲。

ゆらゆらと空間が歪む景色と雑踏する人。雑音のような人の声。


雑踏の中で女性が一人寝ている。

太陽が近く感じる程に光が強く、暑い。

じりじりと焦げていくコンクリートの床で熱さも歩く人の邪魔になる事も素知らぬ顔で静かに。


かたわらで少年が泣いている。

起こそうと、顔を腫らしながら大声を出して泣いている。


けど、女性は起きない。

何度も、何度も呼び掛けても、女性の起きる気配はない。

コンクリートの床は解凍された肉の様に赤い水が広がり、女性の白いワンピースが真っ赤に染まっていく。


異なる二つのサイレン音が聞こえてくる。

暫くして、大きな白い車と白黒の車が少年と女性の近くに止まった。

すると、白い車の中から白服の人間達が現れ、突然女性をタンカーに乗せて何処かへ連れていく。


少年は、白服の男性の一人に持ち上げられ、眺めている事を強制されている。

伸ばす両手は女性と同じ様に赤い。

否。その両手は、倒れていた女性の血で真っ赤になっているのだ。


「どこにつれていくの!ぼくからお母さんをとらないで!」


少年の叫ぶ言葉を白服の男性達は聞き入れず、白い車に運び込んでいく。

少年を抱えている男性が何かを言っている。しかし、その言葉は少年の耳に入らない。


小さな小さな手は虚空を掴むだけ。


少年は目の前の光景を、ただ泣き叫んで眺めることしか出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る